第48話 蠢く策謀
クレアの故郷のグロッチ村は、村人が全員引っ越してから、誰も人のいない廃村と化していた。
空になった村落の地下には、魔軍団長に支配されていた時に使っていた、魔法使いの生贄をささげるための石の部屋があった。
その部屋もかつてここであった激しい戦闘のせいで、柱や部屋に鎮座していた石像が崩れて無残に散らかっている。
石像は元は恐ろしくも勇ましい化け物の姿をしていたが、今ではそんな面影は感じられない。八つの目を持つ巨大な頭も無残に地面に転がっていた。
地面に転がっていた石像の目が、何かの拍子にわずかに光った。
「うむ……虫どもの気配が感じられぬな。やはりもう散り失せたアトか…」
ユタ達に石像の魏魂人を破壊されたヌダロスは、魔力を十分に回復したのちに、再びグロッチ村の魏魂人に自分の意識を接続したのだ。
「うぬっ よくも我の像はこのような姿にしおって! 許さぬぞ」
石像が壊され自分が頭だけの姿だと分かると、ヌダロスは激しく怒った。
動かせる体が無いため行き場の無い発散できない怒りのエネルギーで、残った石像の頭部が破裂しそうなほどだった。
ヌダロスはひとしきり怒った後に、虫けらの行方を考えた。
「この辺りの魔法レベルではそれほど遠くには行っていないはずだ。こうなれば我が直々に出向いて滅ぼしてくれよう!そうでもしなければこの怒り収まらんわ」
だがその時、ヌダロスは洞窟の内部に何者かの気配を感じた。
「ふんっ!」
すぐさまヌダロスは気配を感じた場所に向かって八つの目から光線を放った。すると光線の着弾点から黒い影が飛び出して来てヌダロスの前に姿を現した。
「ひっひっっほ ひどいじゃないか。我々は同じ仲間ジャノーテ」
黒いローブを身にまとった曲がった腰の老人は不気味に笑いながら言った。だが彼は人間ではなかった。頭には山羊のような二つの角が生えていて大きな単眼であったからだ。
「……キプラヌスか。我はお前のことを仲間などと思ったことは一度もない。同じ年寄でも、ガリオヌスと違って信用できないからな」
「ぐぐぎぎッ! 我の前であの裏切り者の話をするな!!!」
キプラヌスは苛立って持っていた杖を思いっきり地面に叩きつけた。
しかしキプラヌスは咳払いをして落ち着くとゆっくりとした動作で杖を拾ってからこう言った。
「我がここに来たのはお前さんに提案するためだ。どうだ、我がお前さんの代わりに石像の敵討ちをしてやろう!」
「なんだと? ふざけるな殺されたいのか!」
ヌダロスはそれを聞くと激怒した。キプラヌスは自分の獲物を奪うと言っているのだ。
キプラヌスは怒りを向けられても、なお冷静にこう言った。
「しかしジャノー。お前さんは魔軍団長内でも一、二を争う実力。こんな所でいつまでも遊んでいる訳にはいかないだろう。魔王様の力にならなくてよいのか?」
「ふむ……ソレはその通りだ」
「だから我が、殺しておいてやる」
ヌダロスは人間などという下等な存在にこけにされたことが許せなかった。しかし、この煮えたぎるような憤怒よりも、自らが忠義を支える魔王の命令こそが何よりも優先すべきであった。
「貴様などの手を借りるのは癪だが、今は魔王様のお力になる事が優先だ。なにやら勇者も騒がしい。しかし、貴様は我に手を貸して何の特があるのだ。答えろ」
「なに、我も魔王様のお力になりたいだけジャノーテ。それに我々は仲間だからのっ。そういうわけだから、我と違って忙しいお前さんは戦場にもどるがいい」
キプラヌスは不気味に笑いながらそう言った。
「いいだろう。このヌダロス。今だけは貴様のような愚物の手も借りるとしよう」
「ひっひっっほ。それでいいんじゃ。では早速とりかかるかな」
そう言ってこの場から立ち去ろうとするキプラヌスに、ヌダロスは突然ぽつりとこう言った。
「我も魔王様の元に戻る。しかし貴様も怪しげな研究やらで忙しかっただろう。それにそういえばだ。あの女狐に盗られた物は取り返したのか?」
「…………チッ」
ヌダロスの言葉に機嫌を再び悪くするも、キプラヌスはそのまま空間転移の魔法でどこか遠くの場所へ移動していった。
その様子を見届けた後、ヌダロスも静かに石像から意識を消失させた。
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