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第47話 二つの呪文

「ほら見て!ボクたちこんなに仲良し!」


 ユタはネーダの手を取ると握手を交わしてみせた。クレアには嫌われたくない。二人とも口角をあげ、仲良しアピールも忘れていない。


「…………」


 クレアは疑うようなジト目で無言のまま二人を睨んだ。


「あはは……」



 その時、背後から爆音が聞こえた。

 驚いて三人が振り向くと、そこには新たな焦土が出来上がっていた。パユとラッツが再び、複合呪文:滅竜火炎(ドラゴンブレス)を放ったのだ。


 最高の威力を持つ魔法が暴竜の身体に直撃すると激しい爆発を起こした。


「これでどうだ……! 大顎には吸収されていないはず」


 爆煙が晴れると、暴竜の身体には傷一つついていなかった。


「クッ そんな馬鹿な!」


 パユとラッツは魔力を使い果たし、その場で崩れ落ちてしまった。

 動けなくなってしまった二人の元にユタ達は急いで駆けつけた。クレアが怪我をしていたラッツを抱きかかえる。


「大丈夫ですか?!」


「ううっ あのイレギュラーはオレたちの魔法を食べて無力化していた。だから側面からの攻撃なら有効だと思ったんだ。ぐふっ」


 ラッツは腹を爪で切られていて口から吐血した。パユも飛行魔法がないと動けないほどの怪我だ。


 向こうで雄たけびを上げる暴竜を見ながら、ユタはラッツの話を聞いて、一つの推測を立てた。


「もしかして大顎で吸収してるわけじゃないんじゃないか」


 それを聞くとラッツは不機嫌そうにこう言った。


「ケッ ガキがっ 人の話を聞いてなかったのかよ。いいか、魔法がたべられたんだぞ」


「だけど体に当たっても効かなかったんでしょう。あれをみろよ!」


 そう言うとユタは暴竜の角を示した。角からはもくもくと水蒸気のような煙が出ていた。


「きっとあの角が大事なんだ。あの角から煙が出ている間は魔法が効かなくなるんだ。だからおそらくあの角を壊せば……」


だがユタの仮説を聞いたラッツは首を横に振りこう言った。


「確かにそうかもしれないがなぁ……お前らたった二人で行くのかよ…… それに、煙が無効化の原因て確証はないんだろう?! あ゛あ?」


「だけど、やってみる価値はあるんだ。それにあんたたちが動けない今、俺たちしかアイツと立ち向かえる人間はいないと思うゼ」


 するとネーダが、へへへと気持ち悪くふてきに笑いながらこう言った。


「まどろっこしいぞユタ! そんな小細工を考えなくてもさ、もっと簡単な方法があるじゃないか!」


「はあ? 何言ってんだお前……」


「そう! 剣さ! 魔法が効かないなら剣を使えばいいのさ! 物理最高!」


―あほか……―


 ユタは思わずそう言いたくなってしまいそうだったが、この時だけはその馬鹿な考えにも賛成だった。


「ふっ 行くか…… クレア、二人を頼むな」


「うん! まかせてっ」


 そしてユタとネーダは暴竜に向かっていった。


 ―うう、やめろっ イレギュラー相手に近距離戦なんて無茶だ……―


 パユは二人を止めようとするも怪我のせいで声が出せなかった。


 だが一方、ユタ達と直前に話していたラッツは、二人が魔物に勝つことを絶対無理だとはもう思っていなかった。


―悔しいが、あとは任せたぜ―



「行くぞ! ユタ、足ひっぱるんじゃないんだぞ!」


「はあ? そっちこそ遅れんなよ!」


 二人は同時に駆け出した。

 暴竜は投石を行い、迫ってくるユタ達を攻撃するが、二人は互いの魔法剣技で難なく岩を躱す。


空間転移(テレポレア)!」


 暴竜の足元まで来るとユタは呪文で頭上へと飛んだ。同時に剣を抜き、目の前の角へと狙いを定める。


 その間にネーダは今の自分にできる最大級の魔法剣を仕込んでいた。


属性付与(エンチャント)超雷霆(エルバルバトス)>」


 まぶしいほどの凄まじい雷が剣に宿った。青白く輝くその剣は近づくだけで寒気を感じた。

 ネーダはユタの攻撃に合わせて一撃をお見舞いするつもりだった…………。



「もらったッ!」


 空間転移(テレポレア)を使用し頭頂の角に近づいていたユタは、思いっきり角に剣を振り下ろした。


 キーン


 しかし次の瞬間。折れたのは角ではなくユタの剣だった。

 度重なる連闘でオーガなどの固い魔物の身体も切っていたため、短剣がその強度に耐えられなくなってしまったのだ。


「なんだって! うっ」


 困惑するのもつかの間、ユタは自分の存在に気づいた暴竜の頭突きで弾き飛ばされてしまった。


 ユタは急いで空間転移(テレポレア)を唱え態勢を整えなおすと、暴竜の背中に飛び移った。間一髪、戦線離脱は避ける事ができた。しかし奴を倒すための武器はもう壊れてしまっていた。


「ユタ!!!」


 もう無理かもしれない。と諦めかけていたとき、突然ネーダから呼びかけられて顔を上げた。するとネーダはさっきまで魔力を込めていた雷の魔法剣をユタに向かって思いっきり投げつけようとしていた。


「おいおいっ どうする気だよ」


「ボクの剣を使うんだぞ!」


「でもそしたらお前が……」


「いいから! それ!」


 そしてネーダはユタに雷の剣を投げた。触れるのも難しい、上級魔法の超魔力の電撃が宿った剣を……


 ―あ、無理だコレ。ちょっとでも触れたら真っ二つになるやつだ。―


 そう悟ったユタはすっと投げつけられた剣を横に躱した。魔法剣はそのままユタの背後の空へと飛んでいく。


「ええええええ??? お前ぇ、ユタァァ?!?」


 ネーダは自分の剣があらぬ方向に飛んで行ってしまったことに驚いた。

 

 しかしユタは勝ちをあきらめたわけではなかった。避けた後にすぐさまくるりと振り返ると、剣が飛んでいった方向に向かって手を伸ばした。


「うまくいけよ……」


 祈るようにそう言葉にすると暴竜の頭の方へと駆けだした。そして首筋のところで高く飛翔すると呪文を使いさらに空高く飛んだ。


空間転移(テレポレア)空間転移(テレポレア)空間転移(テレポレア)空間転移(テレポレア)空間転移(テレポレア)空間転移(テレポレア)空間転移(テレポレア)


 そして魔法力が限界になるまで空高く上がると、さらにもう一つの呪文を唱えた。


「出ろ! 剣! 収納魔法(ストレージ)!!!」


 ユタは祈るような気持ちで自分の開いた亜空間に手を突っ込んだ。正直さっき自分でネーダが放り投げた雷剣を、きちんと収納できたかは分からなかったからだ。

 しかしユタの手に金属の感触が伝わると、それをゆっくりと取り出した。ネーダの魔法剣だ。


「よし! いくぜ」


 剣を構えたユタは、体をひねらせ落下に回転を加えた。その速度はどんどん速くなっていき、遠くから見ているとまるで雷の玉が暴竜のの頭上に降ってきたようだった。



 その様子を見たネーダは満足そうにうなずいた。そして深呼吸をした。


「今度はボクの番だぞ。できる……ボクならできるんだ」


 そう落ち着かせるようにネーダは自分に言い聞かせた。そして無手のまま抜刀の構えをとり、目を閉じ、焦る心を沈めた。


(大丈夫。ネーダならできるよ。)


 そうどこかで兄が言ってくれてるような気がした。


 ユタが回転と共に頭の角を砕き、暴竜の首を切り落としにかかる瞬間。ネーダも暴竜の下に潜り込み地面から飛び出すと、呪文の式句を唱えた。


刀剣召喚(ショードレーブ)!!!」


 青白く光る魔力の刀剣がネーダの手の中に精製された。そして振るった刃は暴竜の首もとへ吸い込まれるように真っすぐ突き刺さった。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」


 二人が剣に込める力が上がっていく度に、刃は深く深く突き刺さる。


 ぐおおおお……!


 そして次の瞬間、断末魔と共に暴竜の首は地面に落ちた。頭を失った胴体は切り落とされた頭を残して崩壊し、青白い魔力霧(アニマ)となって消えた。


「うおおお! やったぞ! ユタとネーダが群れのボスを倒した!」


 冒険者たちは大喜びで歓声を上げた。群れのボスを失った魔物たちは統率を完全に失い、一目散に森へと帰っていった。



 ユタとネーダは激しい攻撃の反動で、直ぐにはまともに立つことさえ出来なかったが、しばらくして勝利の実感を得ると自然と笑みがこぼれてきた。そして互いに大声で笑いあった後ユタはネーダにこういった。


「あの魔法剣、使えるようになったんだな」


「え、ううん。あの時はたまたま、必死だったから使えただけなんだぞ。だからまた使えるようになるかはわからない……」


「そうか……でも、きっと使えるようになるさ」


 するとユタは急に真面目な顔になってこういった。


「この前はごめん。俺自分の勝手な思い込みでお前のこと悪く言ってた。ネーダは嘘なんかついてなかったよ」


 ネーダは強い冒険者だった。羽月とは違う。だからもうユタには二人が同じように重ねって見えることはなかった。


 それを聞くとネーダはふんと顔をそらしてわざと怒った様子を見せた。


「そうだぞ!助けに来てくれたのは嬉しかったけど、あのままどっか行っちゃうんだから。クレアがいなかったら、どうなっていたことか」


「ごめんって」


「まあ、お前の事も少し分かってきたんだぞ。腕もボクよりは弱いが確かだしな。どうだ?ボクの冒険団に入らないか?」


「う~ん。俺の方が強い。だったら入ってもいいぜ」


 ユタは冗談ぽくそう答えた。

 そのときクレアがにこにこしながら二人の元にやってきた。


「二人ともっ 仲直りしたんだね! よかった~」


「クレア、他に話すことないのー? 今ボクたち魔物のボスを倒したんだぞ?」


「ああ、うん。それは信じてたからあんまり驚いてないかな。それより二人とも、仲良くなんの話をしてたの?」


「ああ、聞いてよ! コイツったらせっかくまたボクの冒険団に誘ってやったっていうのに、ボクよりユタの方が強いなら入ってもいいとかふざけたこと言うんだ! クレアもなんとか言ってやってよ!」


 それを聞くとクレアは手をパチンと叩いて喜びをあらわにした。


「それ、いいじゃん! つまり一緒に旅する仲間が増えるってことでしょ? ちょうど女の子の友達がほしかったんだよね。よろしくねネーダちゃん!」


「え、いや、俺は冗談のつもりで……」


 しかし時すでに遅く、クレアとネーダはすっかりその気になってしまっていた。


 クレアとのラブラブ二人旅。ここに終了のお知らせ!!!


 空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。しかし俺の頭上にだけ雨が降っていたのは秘密だ。


この章はここでおしまい。次の話からはユタの冒険者としての新しい物語が開幕予定!


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