第42話 戦いの記憶
魔物たちは不規則だが、次々とフォレストモア目掛けて森からあふれてきた。
一番最初に突撃してきたのは、角の生えた魔獣三つ角だ。バリケードで待ち構える冒険者たち目掛けて勢いよく突進してきた。
「砲撃、放て!」
東側はパユの掛け声で、冒険者たちが一斉に三つ角の鼻面目掛けて様々な属性魔法を放った。
「二重岩石!」
「撃滅火炎!」
「超氷傑!」
魔法は魔物の集団の頭上に降り注いだ。
炎や氷、稲妻に焼かれた三つ角などの多くの魔物は、たまらずその場で横転し、消滅した。
だが中には魔法の集中砲火をくぐり抜けてバリケードに突っ込んでくる魔物もいて、そこからは呪文だけではなく、各自が剣も取り出しての混戦状態となった。
ユタは元から遠距離の魔法が使えないので、初めから剣を使って戦うつもりだった。
流石にゴブリンの相手はお手のもので、自分たちのところに向かってきた小鬼の群れはユタがほとんどの数を倒してしまった。
周りの冒険者は、ユタのゴブリンを倒すその手際の良さに驚いた。
カトラはこう言った。
「さすがね! ゴブリン相手なら敵なしかしら」
「コイツらとは散々戦ったからな。これだけ装備が整っていればもう負けないよ」
「頼もしいわね……でも少し厄介な奴が来たわよ!」
そう言われて前方を見ると、小鬼よりも何倍も大きな体躯の牙の生えた人型の魔物が向かって来ていた。それは人食い鬼が長い年月を生きた巨鬼と呼ばれる魔物だった。
「なんか…強そうな魔物が来たぞ」
「あれはオーガって言うオークの進化種よ。かなり強いわ。たぶんあれがモモが予知していたボスだわ! 気をぬかないで」
「分かった」
巨鬼が現れると、その姿を見た周辺の冒険者たちも手助けのため続々とユタ達の近くに集まったきた。
ユタとカトラは集まった冒険者たちといっしょに巨鬼を取り囲んだ。
「オーガの一撃は即死級よ! だから絶対に食らってはいけないわ。まずあたしとユタが攪乱するから、隙をみて呪文を唱えて!」
「おう、わかったぜカトラ!」
カトラは冒険者たちにそう指示したあと、ユタにこう言った。
「あたしが前にでるから、あんたはあたしの補助をお願いするわ」
「俺が前でもいいいんだぜ」
「ふふふ、まだあんたにコイツの相手は早いわよ。いくわよ!」
カトラが合図とともに巨鬼に向かって突っ込むとユタもそれに続いた。
カトラは突進と共に巨鬼の足に切りかかった。
しかし巨鬼はその巨体に似合わず機敏な動きをしていて、カトラの剣をひらりと跳んでかわすとそのまま彼女を踏みつけようとした。カトラは転がりながらそれを躱すと、即座に顔面に向かって魔法を放った。
「火!」
巨鬼は突然に顔に着いた炎で一時混乱した。
「今よ! 放って!」
カトラの合図とともに周りを囲んでいた冒険者達は一斉に呪文を唱えた。
「「超火炎!!!」」
10人ほどの冒険者が一斉に放った上級呪文は、巨鬼の頭上で収束し強烈な業火となって巨鬼を焼いた。
「す、すごい……」
ユタは巨鬼と冒険者たちのレベルの高い戦闘を見て思わず声が漏れた。
だがしかし、冒険者たちの力を合わせても巨鬼はまだ倒れていなかった。
「おい、倒したのか?」
「いいえ……残念だけどまだ魔力霧が出てないわ。オーガはあれくらいでは死なないわよ」
「そんな、ならどうやったら倒せるんだ……」
すると無精ひげの古参の冒険者ハウッドがやって来てこういった。
「儀式魔法だ。やはり儀式魔法しか、あの怪物を倒すスベはない!」
「はあ? なんだってんだよ。それなら倒せるのか?」
「ああ、絶対にな。儀式魔法とはいわゆる極大呪文というやつだ。上級や下級とはくらべものにならない効果を得られるが発動するまでの魔力も詠唱時間も長くデメリットが馬鹿でかい。だか、今は冒険者が大勢いるから多重詠唱の方法が使えるぞ」
ユタは以前に一度だけ極大呪文を見たことがあった。ビアードがスクロールで使用した極大呪文:緋焔乃渦だ。
あんな凄い勢いの炎は今までに見たことがなかった。たしかにあれなら巨鬼も倒せるかもしれない。
するとカトラがハウッドにこういった。
「確かに、極大呪文なら……でもここにいる人数じゃ足りなくないかしら」
「安心してくれ。某、さきほど5人ほど仲間をすでに呼び寄せておいた。これで発動はできるぞ。あとは」
「そうね、詠唱時間を稼げるかって事ね」
その話を聞いてユタはドキッとした。ふとある事を察してしまったからだ。
―もしかして、呪文の準備ができるまで、あんな強い怪物の相手をしなきゃいけないってことか??―
ユタは冒険者達の激しい戦いを見て怖気づいていた。その時、炎の中から地獄のような咆哮が聞こえてきた。
ぶおおおおおおおッ……
「来るわね。みんな準備して、ユタいくわよ」
「お、俺は嫌だ」
「……え?」
ユタの言葉でカトラは困惑した。
「あんな強そうな怪物とはもう戦いたくないんだッ」
「はあ?あんた何いう……まさかビビッてんの?!」
「そうだよッ!」
ユタがそう言うと、カトラは怒ってユタの頬をおもいっきりなぐった。
「開き直ってんじゃないわよッ あんた今がどういう状況かわかってんの? ……大丈夫よ、ユタは強いわよ。あたしが保証する」
しかしユタはその場に座り込んだまま何も言わなくなってしまった。
「期待してたのに……もういい、あたし一人でやるわ」
そう言うと、カトラは一人で炎の中に飛び込んでいった。
ユタの体に何かが当たった。
「どけ、腰抜け」
冒険者に蹴飛ばされても、かたくなにユタは動こうとしなかった。
刻まれた恐怖が体を支配していた。
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〇上級魔法について
上級魔法はその特徴によって当てはまる冠詞が付いている事が多いです。
・二重 質量が特に増える
・超 魔法の質が特に上がる
・撃滅 より激しくなる
……など。これらに注目してもらえるとより楽しめます。
今後、後書きでちょこちょこ魔法解説を載せていきたいと思います。