第41話 団長の懸念
決戦当日
予知で示された日没が近づくにつれ、冒険者たちの緊張度は高まっていた。そして夕刻になると冒険者たちは各々の装備を整え持ち場へとついた。
「みんな、必ず生き残れ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
トリーナの掛け声で、冒険者たちは士気を高めた。
カトラは砦に残るモモの元にいくと彼女を強く抱きしめた。
「おねえちゃん行ってくるわね。じゃあね」
「うん、怪我しないようにね」
ユタも魔道具屋で買った新しい防具を身に着けた。武器はちょうど良いものがなく、頼りないがまたビアードの短剣を使わせてもらう。
といっても、この短剣も扱いなれてきてるし。今回だってなんとかなるはず。
防具を身に着け短剣を腰のベルトに挟むと、先に配置についている同じチームのカトラの元に急いだ。
「けどその前に」
ユタはカトラのいる方とは反対に向きを変えた。自分の配置に着く前に、別の配置に行くクレアに会いにこうと思ったのだ。
「クレア!」
ユタはクレアのいる部屋の扉を思いっきり開けた。しかしまたまたタイミングが悪く、クレアは装備の変更の最中だった。
「ユ、ユタのへんたぁい!」
クレアはそう言うと興奮しながら風魔法を連射してきた。
「わ、わ、ごめん!」
ユタはあわてて扉を閉じた。
しかしユタは落ち着くと扉ごしにクレアに話しかけた。
「クレア、無理するなよ。俺たちはこんなとこで死んでられないだろ」
「……うん!」
「もう行くよ。それだけ言いに来た」
「ありがとう。ユタも無事でね」
ユタが扉から去った後、扉の中からもう一つの声がした。
「あいつ、ボクのことに気が付いてなかったんだぞ?」
「へへへ……そういうとこあるよね」
フォレストモアの周囲に置かれたバリケードは主に森の方に敷かれていた。
魔物は平原ではなく、来るとすれば森からだろうと考えられたからだ。
その憶測通り、街の周囲の森の方角を見張っていた冒険者がついに異変を察知した。
「き、来たぞ! 森だ、ダンファンの森の東部に魔物の集団を確認! フォレストモアに侵攻してくるぞ!」
伝令はそれを砦内の司令部に伝えた。
トリーナはそれを聞くと、冒険者全員に東部からの襲撃に備えるよう指令をだそうとしたが、次の瞬間、もう一人の伝令が慌ててやってくると、また同じようなことを言った。
「団長、西の森から魔物が接近しています」
「なんだと、どういうことだ?」
二人の伝令は同時に真逆の方向から魔物が攻めたきた、と伝えてきたのだった。これの意味するのはどちらかが見誤ったか、もしくは両方向から同時に攻めてきたかしかなかった。
「情報の正誤を急いで確認してください」
「はい」
パユは来た伝令にそう伝えた。
だが確認したところ、見張りの情報には間違いはなかったという。
「どうしましょう。魔物が二手に分かれて攻めてくるなんて……これではこっちも戦力を分散するしかありません」
「しかたないだろう。私はここから離れるわけにはいかない。パユ、お前は東側、ラッツは西の指揮をとれ」
「はい、分かりました」
パユとラッツは普段はいがみ合っている仲だったが、戦いとなるとお互いの風と火の上級呪文を組み合わせた強力な攻撃で、冒険団の主力戦力でもあった。
だがそれゆえに、二人が離れて戦うことはあまりなかった。
「おい、お前一人で大丈夫か?」
「ふっ おバカさんに心配されるほどなまっちゃいませんって」
「マジだぜ」
「…………心配は無用です。いくら風魔法が戦闘向きではないにせよ。ゴブリンやオークに遅れはとりませんよ」
「そりゃ、そうだな。わりいわりい、てっきりいつも間抜けに本ばかり読んでるもんで、戦いを忘れてるかと。けっ じゃあな」
ラッツはそう言うと自前のメイスを携えながら去っていった。
「わたしの事も心配無用だ。砦の守備にはガーターもいるんだ。だからお前は思いっきり戦ってこい」
「……背中はまかせな」
トリーナとガーターにあと押しされると、ラッツに続きパユも持ち場に向かっていった。
二人が出て行った後、トリーナは真妙な面持ちになったと思うと背後の人影に向かってこう言った。
「モモ、この結果もお前の予知に出ていたのか」
「す、すいません わたしもまさか、魔物が二手分かれて攻めてくるなんて分からなくて……ど、どうしてなんだろう」
モモはあせりながらそう言った。
「やっぱり、分からなかったんだね。どうやら魔物の数も予想よりずいぶん多いようだ」
「ええ、そんな」
それを聞いてモモはさらに動揺した。
「わたしには龍のアギトの戦力が意図的に分断されてるように思えるんだ。何か魔物とは違う力を感じるんだ。」
ボス魔物の出現の可能性に引き続き、魔物が二手にわかれて襲撃してきた。結果的にこちらの戦力は、大幅に減少してしまっている。ただの魔物がこんな戦術は考えられない。
「たしか、モモの特性は、自分より高い魔力を持つ者には効きにくいんじゃなかったけ」
「そうです。でも流石にただの魔物よりは魔力はありますよ。か、考えすぎじゃないですか? ちょっと不運が重なってるだけですよ」
「だといいが、私の感がそう言ってるんだ」
「……それは、団長の能力ですか?」
「ただの勘だ……」
一抹の不安をかかかえつつ、トリーナは戦いの始まりを見守るのであった。
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