第38話 友達
翌日、ネーダは目を覚ました。
体はまだところどころ痛むが、それでも昨日よりだいぶ良くなったと思った。
ふと、自分が寝ているベッドの傍らでスースーと寝息を立てている少女に気が付いた。
「あれ…… あ、起きたんだ。 良かった、元気になったみたい」
クレアは隈のできた目を眠そうにさすりながらそう言った。
「あの、その怪我は?」
ネーダはクレアの頭の包帯について尋ねた。
「あえ? ああ、派手に転んじゃってさ ドジだよね」
実際は治療中にできた怪我だったが、心配させまいとクレアはそう言った。しかしネーダにはすぐに見破られた。
「お前が、ボクを治療してくれたの?」
ネーダは痛みでうなされている間、意識がなかったためぼんやりとだが、誰かにずっと励まされているような感覚があった。それがきっとこの少女なのだとネーダは感じた。
「あの、助けてくれてありがとう」
ネーダがそういって頭を下げると、クレアは照れくさそうにしながらこう言った。
「へへへ、そんなのいいんだよ。 困ったときはお互い様だよっ」
「う、うん!」
「それにしても、ユタひどいよねー。怪我人を置いて自分だけどっかいっちゃうんだからさ。もう、ちょっとぐらい手伝ってくれてもいいのにね」
ネーダに元気になってもらおうと、ユタをからかうようにそう言った。しかしクレアの思惑に反してネーダは表情を暗くした。
「いや、ユタは悪くないんだぞ……。ボクが全部悪いんだ。ユタにはいろいろ誤解させてしまったんだし。それにボクが刀剣召喚をちゃんと使えれば、チ二イも守れて怪我なんかさせずにすんだのに」
悔しそうに歯をかみしめ、うつむくネーダの元にチ二イがすり寄る。
「ごめんね、チ二イ ボクが弱いせいで。こんなんじゃ兄さまみたいになれないよ」
ネーダはチ二イを頬によせて優しく抱く。
「きゅい」
チ二イは気にするなとでも言うようにそう小さく鳴いた。
するとクレアはうーんと考えこんでからこう言った。
「確かにアナタが悪かったこともあるのかもしれないけど、そんなに落ち込まなくてもいいんじゃない?」
「でも……」
「ほら、例えばっ ユタだって魔法は全然つかえないんだよ? 生活魔法がまったく使えなくて、使える呪文も二つだけだよ。」
それを聞くとネーダは意外そうな顔をして驚いた。
「そうなの?」
「うん。そうだよ」
「魔法であんなに一瞬でアイツらを倒していたのに?! しんじられないぞ」
「えーじゃあ、やっぱりあの冒険者の人達はユタが倒したんだ…… けど、そうだよ。ユタは空間魔法が使えるけど他の呪文はまだぜんぜんなんだっ」
するとクレアは元気のないネーダの手を握って励ますようにこう言った。
「誰だって出来ないことの一つや二つあるよ。みんなが完璧である必要はないんじゃない??」
「ありがとう……だけどボクは兄様、英雄カーダのようになりたいんだ! そのために最高の冒険団を作って、最強の魔法剣士にならなくちゃいけない。だから、完璧である必要があるんだ」
するとネーダはクレアに対し、少し興奮気味にはなしてしまった事に気が付いた。彼女は自分を手当してくれたのに、こんなに乱暴にしゃべって怒らせたかもしれない。そうネーダは危惧した。
「あの、ごめん。少し強く言いすぎたかも……」
「ねえっ、それだったらまずしなくちゃいけないことがあるよね?」
クレアはベットのそばから立ち上がるとそのまま部屋を出て行ってしまった。
―まずい、また怒らせてしまったかも―
ネーダはそう思って焦ったが、クレアは何事もなかったかのようにすぐに部屋に戻ってきた。そしてネーダの前に山盛りの食事を並べるとこういった。
「まずは腹ごしらえ! 何はともかく体力をつけて怪我をなおさなくちゃっ!焦っててもいいことはないっておじいさんが言ってたもの」
「えっと、怒ってないんだ?」
「……え、何のこと」
クレアには何のことかさっぱりという感じだった。ネーダは明るく前向きな性格のクレアと話しているうちに、だんだんと気持ちが楽になってきた。
「なんかお前、いい感じだぞ? どうかな、ボクの仲間にならないかな」
調子が戻ってきたネーダは、調子に乗ってクレアにそう言った。
「うーん、お前じゃないよっ 私はクレアっていうの」
「ボクはネーダだぞ」
「よろしくネーダちゃん」
「え? なんで分かるの?」
「隠そうとしてるみたいだけど、バレバレだよ。 ユタが鈍感すぎなだけ。あと友達ならなってもいいよっ」
「う~ん、まあ、それもいいかもしれないのかな」
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