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第37話 任された介抱

 ユタとクレアが魔道具屋に行った帰り道のこと。二人が歩いていると、突然建物の向こう側から何かの動物の泣き声が聞こえた。


「なんの声だろ、なんだかすごくつらそうだね」


 するとその声を聴いたユタは足を止めてこう言った。


「もしかしたら、俺の知ってるやつかも」


「え、そうなの?」


「うん。ちょっと見てくる」


 そういうとユタは声が聞こえた方の壁に向かって前進した。そして呪文を唱えた。


 ―ユタが使えるのって収納魔法(ストレージ)だったよね。何する気なのかな。―


 しかし次の瞬間にユタが使った魔法は、収納魔法(ストレージ)ではなくクレアがまだ見たことない空間転移(テレポレア)の魔法だった。


 そしてユタの体は壁の中へと吸い込まれていった。


「そ、そんな魔法つかえたの? ねえ、待ってってば!」



 クレアはユタを追いかけて、動物の鳴き声がした辺りの路地裏へと周りこんだ。

 途中で苦しそうに息を切らしながら走ってきた冒険者の男とすれ違いになったが、クレアは構わずユタの元へと向かった。


「何これ……!」


 クレアはユタにやっと追いついたが、そこに広がる光景に驚いた。


 ユタの足元には何人もの冒険者が倒れていた。そしてユタの正面にはボロボロに怪我をした龍のアギトで見かけた女の子がいて、さっき聞こえた泣き声の主と思われる小さなリスがユタに向かって威嚇をしていた。


(なんでみんなボロボロで倒れてるの??)


 ここで何が起こったのか、クレアはすぐに理解することができなかった。


「ユタ、大丈夫? ここの倒れてる人、一体どうしたの? 何があったのさ」


 クレアはその時、なんだがユタがいつもより元気がなくなってるように見えた。

 そしてユタはうつむいたまま、クレアにこういった。


「…………クレア、悪い。こいつの怪我の手当よろしく頼むよ」


「うん、分かった。 あええ、ユタどこ行くの?」


 ユタは背を向けてこの場から立ち去ろうとしている風だった。


「……どうしたの?」


 ユタの背中はとても力なさげでクレアは心配になってそう言った。

 しかしユタはクレアの言葉を別の意味に解釈した。


「ああ……、俺は用事があってさ。 倒れてる他の冒険者には何もしなくていいよ。自警団の人を呼んでおくから。じゃあ、まかした」


「ええっ? ちょっと!!」


 クレアが戸惑っている間にクレアはそのまま走り去ってしまった。


「もう、いきなりなんなのさっ」


 クレアは急にいろいろ押し付けられて、ユタの自分勝手な態度に頬を膨らませて腹を立てた。しかし同じくらいユタのことを心配してもいた。


 ―ユタ、大丈夫かな。なんだかすごく元気がなさそうだったけど―


「う、うう……」


 傷がいたんできたのか、ネーダがつらそうにうめき声をあげた。


「あ……、今はそんなこと考えてる場合じゃないよね。だってとってもつらそうだもの。早く治療してあげなきゃ」


 クレアは地面に倒れているネーダを治療ができる場所に運ぼうと自分の肩に掴まらせた。しかしネーダに触れるとさっきまでユタに威嚇していたリスが、今度はクレアに向かって毛を逆立て威嚇をし始めた。


「大丈夫だよ。私はこの子を手当したいだけだから」


 クレアがチ二イを落ち着かせようと体に触れると、チ二イは思いっきりクレアの指を噛んだ。

 噛まれたところから血が出て、クレアは一瞬ひるんだが、チ二イが怖さで震えながらもネーダを守るために自分に立ち向かってるんだとわかると、クレアはあきらめずにチ二イに再度触れた。


「安心して、大丈夫だからっ」


 するとチ二イにクレアが敵意のないことが伝わったのか、クレアに対して威嚇するのをやめてくれた。


「ありがとうっ」


 クレアはネーダを肩に担ぐと、ゆっくりと歩きだした。



 ネーダはクレアによって宿屋黄金果実亭に運ばれた。

 黄金果実亭に着く頃にはずっとネーダを担いで歩いたせいで、クレアは汗だくになってしまっていた。

 クレアは今すぐに目の前にあるお風呂に入って体を綺麗にしたかったが、ネーダの為にその気持ちを抑えた。


「ココちゃん! いる?!」


「はい! ようこそ黄金果実亭へ。看板娘のココですよー…… どうしたんですかクレアさんッ そんなに真っ赤になって! あれ? そっちの方は怪我をしてるんですか?」


「う、うん。だから手当してあげたいんだ」


「分かりました。すぐに清潔な布と薬を持っていきますので、向こうの空いてる部屋にその方を運んで置いてください」


「うんっ ありがとう」


 クレアはベッドにネーダを寝かせるとマントや服を優しく脱がした。そしてココが持ってきてくれた綺麗な布を冷水に浸し、ネーダの体にできた打撲の腫れを一か所ずつしっかりと抑えながら冷やしていった。


 ネーダに意識はなかったが、腫れた場所を抑えるときに痛そうに顔をしかめた。しばらくすると怪我の痛みで彼女は悪夢にうなされ始めた。


 その後、ココにも手伝ってもらいネーダの傷の患部に薬を塗っていった。しかし、ネーダが傷口に薬を塗ったときの痛さに、反射的に反応して無意識に暴れ出してしまった。


「クレアさん危ないっ」


 ココが危険を察知し伝えたが、暴れるネーダの足がクレアの顔に強く当たってしまった。クレアの額は傷つき血が流れた。


「大変、すぐ治療しないと!」


「ううんっ 私は後でいいよ。それよりも早く彼女の手当をしてあげたいんだ」


 するとクレアは痛みで暴れるネーダの体を自分の身を挺して抑え込んだ。


「私が抑えてるから、今のうちにお願いします!」


「う、うん!」


 ココは言われた通りに、クレアがネーダの体を抑えている間に薬をぬり包帯を巻いた。


 クレアのおかげでなんとか薬を塗り終えたネーダは徐々に落ち着きを取り戻し、寝顔からは安らぎが戻っていった。

ご拝読いただきありがとうございます!


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