第33話 帰路にて
カトラに連れられ龍のアギトの団長トリーナと会ったその日。
ユタとクレアは帰りに立ち寄った魔道具屋で新しい防具を手に入れ、そのまま宿屋への帰路についていた。
クレアの服も、結局あの後でしっかりと自分の大きさの合ったものに変えてもらった。
なので新しい服を、クレアは気に入ったようだった。
一方ユタはというと、新しい旅装は見た目もカッコよく防具としての耐久性も高かったので気に入っていたのだが、まだ今まで着慣れていないファンタジー感のある衣装を着ることに抵抗があった。
だが魔道具屋のキルシュからは武装としても使うのならば今から着慣れておけ、と言われていたので、内心では少し気恥ずかしく思いながらもしぶしぶ黄色い旅装を身に着けていた。
しかし新しい服はユタが思っていたよりも軽く、着心地の良いものだった。そのため、ファンタジー感のある服の見た目もすぐにそこまで気にならなくなった。
「それにしても大変なことになったな。まさか魔物が街に攻めてくるなんて」
「うんっ でも立派な城壁があるんだから、魔物がいくら襲ってきても大丈夫な気がするけど」
フォレストモアなどこの世界の都市は、街の外の魔物から身を守るために壁を作りその内側で都市を形成するいわゆる城郭都市であった。
「それでも大丈夫じゃないから、あの団長は俺たちのような冒険者じゃないやつ手も借りようとしてるんじゃないか」
「そうだね 魔物もたくさん来るのかなぁ」
「おそらく、ゴブリンだけじゃなくてもっと強い魔物もたくさん来るだろう」
「そっか あっ、けどユタの好きなゴブリンのお肉。たくさん食べれるね」
「あはは……俺、別にそこまで好きじゃないんだけどね」
ゴブリンの肉は確かに旅の途中でも鞄から取り出し食べることがあった。けど豚や牛といった普通の家畜の肉の方が遥かに美味い。まあそれでも小腹がすくとつい食べたくなってしまうんだよなあ。
ユタがそんなことを考えていると、クレアが急に改まってこういった。
「あのねユタ、私のわがままで、こんな危険なことに巻き込んじゃってごめんね。帝国に行くっていうのも私のお母さんの手がかりがあるかもってだけで、ユタの故郷の話とは関係ないかもしれないし……。だからね、ユタは無理して戦わなくてもいいよ……っ」
「クレア……、クレアこそ戦うのは怖いんじゃないか」
「怖いよっ 街の外で初めてゴブリンと戦った時も本当はとても怖かったんだ。ユタはすごいよ。あんな怪物を今まで何回も倒してきたんだよねっ。私なんて……本当は逃げ出したかったんだ」
いつの間にかクレアの声は震えていた。それでも必死に俺に意思を伝えようとしていた。
「それなら…………」
「でもっ! 私はもう決めたから。お母さんに会う。そのためにおじいさんと別れて村も出てきたんだから。それにもう逃げないって」
「そうだな」
クレアはユタにそういった。
「分かった。じゃあ俺は無理して戦わないよ」
「うん…………」
ユタがそういうとクレアは頷いて見せたが、どこか寂しそうであった。
「だからさ、俺は俺の好きに戦うことにするよ」
「うん…………ええ?」
するとユタは急にクレアの両手をパッと取るとクレアの翠色の瞳を見ながらこう言った。
「俺は巻き込まれたなんて思ってないよ。だってさ、ムーン帝国に俺の求める手がかりはないかもしれないけど、あるかも知れないだろう。それに……」
「うん。」
「クレアになら危険な事にも巻き込まれていいと思ってるんだ」
「へ? なんでさ」
「……俺はこの世界に来てから、何度も君に踏み出す勇気をもらったんだ。迷いの森でもヌダロスと戦った時も。だからこの戦いだって、クレアのためならまた俺はがんばれるんだ」
異世界で一人心細かったが、クレアのおかげで繰り返す死に絶望していたユタはこの世界で生きていく希望を持てたのだった。
「俺が勝手にしてる、ちょっとだけのお礼だと思っててよ」
「う、うん」
するとクレアはパッと俺の手を離すとユタのそっぽを向いてしまった。
「あ、ありがとうっ すごく嬉しいよ……」
「えあ? うん」
そのまま宿にもどるまで、クレアはこっちを向いてくれず二人は少し離れたまま微妙な空気になって帰路につくことになったのだった。
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