第32話 剣の道
いよいよカトラと剣の修行だ。
ユタが最初にしたことは、今まで使っていた小さな短剣ではなく魔物と戦うための長剣の扱いに慣れることだった。
カトラは修練所にたくさん常備してある鉄の剣の中から適当な物を二本選んだ。
「この前のゴブリンとの戦いぶりを見た限り、あんたもそれなりに魔物とは戦ったことがあるみたいね。ゴブリン以外だと他にはどんな魔物を相手にしたの?」
「他には、少しだけ別の魔物と戦ったことがある。まあ、戦ったのはほとんどゴブリンばかりなんだけど」
迷いの森でユタが倒したのは、森の出口でユタをとおせんぼうしていた影鬼だけだった。
あと、魔軍団長ヌダロスにいたっては、あれは魏魂人で本体では無かったし、そもそも逃げ回ることで精一杯だった。なので除外していいだろう。
ユタの話を聞くとカトラはこう言った。
「だからなのね。たくさんゴブリンを倒してきたからあんなに鮮やかに急所を狙えたのね。うーん、あなたから感じられる魔力量から推察すると、十匹以上は倒してるわね!」
はい、大外れ。ユタは今までに何千匹もゴブリンを殺している。
ユタはなんでカトラがこんな検討違いな予測をしたのかと不思議におもった。だがすぐに、ビアードから変な薬を飲まされた事を思いだした。
暴走していた魔力が抑制され、それで魔力の量も少なくなっていたのだ。
「あ、ああ まあ、そんなところかな」
ユタはごまかすようにそういった。ここで本当の事を話しても不審がられるだけだ。
「やっぱりね! 冒険者でも十匹は多い方よ けどゴブリン相手なら短剣でもいいけど、もっと大きな体の魔物が相手ならもっと大きな武器が必要になるわ」
そしてカトラは二本の剣の内の一本をユタに渡した。
「それも、あんたみたいな戦闘用の魔法もろくに使えない人にはね」
「うん なるほど」
今までは我流で戦っていたが、カトラに剣の振り方を教わり練習を重なる度にユタはめきめきと上達していった。
最初は慣れない長剣の重さに戸惑ったが、それも持ち前の器用さですぐにこつをつかむと、あっという間にに鋭く重い斬撃を繰り出せるようになっていた。
「スゴイわね……こんなに早く剣を使えるようになれる人は見たことないわ」
「そうなのか? 短剣で慣れてたからじゃね……」
「いいえ、それでもこんなに早く普通は上達しないものよ。」
カトラは驚いた様子でそう言っていた。
ユタは昔からどんなことでも苦労せず人並み以上の事ができる人間だった。剣術は初めてだったが、それでもユタには関係なかった。
「それだけ振れるなら充分よ。さっそく仕合しましょ。その方があたしのためにもなるわ」
「お、そうだな。やろうか」
それから二人はサンが沈み辺りが暗くなり始めるまで互いに剣を交えた。
カトラは思いのほか強く、結局十ほどして勝てたのは一回だけだった。
「クソ、最後に一回勝てただけかぁ もっと接戦ができると思ったのにな」
「いやー剣を使い始めた初日で一回勝てれば大金星よ? まあ、あたし達冒険者は戦うのが仕事なところもあるし、正直あたしより強くなられちゃ困るっていうか……」
「え、今なにかいった?」
「い、いいえ……! そ、そういえば 前にあんたグラディウス家の魔法剣士の子と話してたわよね」
ユタにぼそっと呟いたことを聞き返されて困ったカトラは、突然別の話を切り出した。
「グラディウス家? ああ、ネーダの事か。それがどうしたんだ」
「それが、だれも集会の日以来あの子と会ってないらしくて。連絡がつかないのよ。あの子と知り合いなら一度団に顔を出すように言ってくれないかしら」
そういわれて今度はユタが困った。
「いや、俺もどこにいるかは分からないんだ」
「え、そうなの? でも心辺りとかはあるんじゃないの?」
するとユタは苦いものをかみしめるようにこう言った。
「できればあいつには、もう会いたくない……!」
「……何かあったの?」
しかしユタは答えなかった。
「まあ、あんたの事情は関係ないけどね。その気持ちを実戦の場に持ち越すようなことはやめてよね。グラディウス家の子も戦いには参加するわけだし」
「ああ、わかってるさ」
そうしてその日は解散した。
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