第31話 カトラとモモ
カトラはフォレストモアにある酒場にいた。
だがまだ昼間なので、カトラの他には酒を飲んでいる客はいない。
「二人は最近どう? 街の防衛強化は進んでるの?」
すると同じテーブルで食事をしていた大きな体の細い目をした男が静かにこういった。彼も龍のアギトの一員だった。
「……街の守りは大丈夫だ。しかし見回りから魔物の目撃の報告が増えている」
「そうなのね。やっぱり魔物が増えているのは、大発生が近づいてる予兆なのかしら」
カトラはビールジョッキを降ろすと、ため息をついた。
すぐ隣でジュースを飲んでいたピンクの髪のちいさな女の子は、不安そうな顔をしていたカトラに対しこう言った。
「だ、大丈夫よお姉ちゃん。私の能力だと、まだ数日の時間はあるみたいだし そ、それにっ 団のみんながいればきっと今度も大丈夫だよ!」
「あたしを励ましてくれてるの? モモ、ありがとう ああ、あんた可愛いすぎるのよ!」
カトラはフラフラと立ち上がると、目の前の小さな女の子に思いっきり抱き着いた。二人はおそろいの服をきており、血のつながった姉妹だった。
「お、お姉ちゃんっ苦しいよ~ うわー、オソワレルー ガーターさん助けてよー」
しかし鎧姿の大男だけでなく龍のアギトの団員にとっては、この姉妹の戯れは日常的に起きていたことで、いちいち気に留めることではなかった。大男は姉妹にかまわずそのまま茶をすすり続けた。
「はあ、はあ、モモきゅうん 可愛いよ……」
「う、うう…… は、恥ずかしいよ」
カトラがモモの上にのっかり、羽交い絞めにして、かなり気持ちの悪い手癖でモモに触れようとした。
しかしその時、カトラは後ろから突然だれかに肩をつかまれ、そのままモモからはがされてしまった。
「痛いわ 誰よッ あたしの妹とのスウィートタイムを邪魔する不届きな輩は! ……アッ」
「……なにやってんだよお前」
そこにいたのはユタだった。
実はカトラはその日、団長トリーナに言われた通りにユタと剣術の鍛錬をする約束をしていたのだった。
今まですっかりその事を忘れていたカトラは、ユタの顔を見た途端、それを思い出した。そして気まずそうにわざとらしく目線をスーッとそらす。
「修練場で待ってろって言うから、今までずっと待っていたってのに……まさかカトラさんは俺の事を放ったらかしてこんなところにいたとは、あははは……」
「そッそんな事ないわよ! これから行こうと思ってたところなのよ。だからね、そんなに怖い顔で見ないでよ~」
ユタはあははと声で笑ったものの、それは言わゆる目だけは笑っていないという奴だった。
細かい性格のユタは、やはり長い間待たされてイラッとしていたのだ。なんとかユタの気をそらそうとカトラは別の話題を切り出す。
「あ、そうだ。二人を紹介するわ。こっちの大男はガーター、龍のアギトの防衛線で料理番、あと裁縫係兼、備蓄班班長……他にもとにかく色々!彼は頼りになるわ」
ユタはテーブルに腰かけていた鎧姿の大男に目をやった。たしかに防衛線という言葉にはピッタリの、どんな攻撃も受け止められそうなたくましい体をしていたが、裁縫のような細かい作業ができるとは思えなかった。
「よろしく」
ユタがそう言うと、ガーターは茶を啜りながらも軽く手を挙げてユタの方に挨拶をした。
「それでね、この超可愛いのは私の妹のモモよ。ほら、あたしとおそろいのポンチョでしょ」
カトラの言う通り、モモは薄桃色のカトラの物と色違いのポンチョを身に着けていた。
しかしサイズが大きすぎるせいか、足まで体全体がポンチョに隠れてしまっていてまん丸としていて、ユタはまるでてるてる坊主のようだと思った。
その時、ユタにモモが近づいて来るとじっと顔を見つめてからこう言った。
「あ、あのユタさんっていいましたよね あなたから感じる魔力はとっても不思議。なんだか……感じられる以上の力を秘めてるような気がします」
「えっと、どうしたんだ?」
「わわわ! いきなりごめんなさい! けど、きっとユタさんは強い魔法使いになれると思いますよ」
「それは……ありがとう」
突然言われた内容にユタは不思議に思いながらも一応れいを言った。するとカトラがユタの肩をポンとおきこういった。
「じゃあそろそろ行こっか」
「お、おお」
「けど、よかったわね」
「はあ、何がだよ?」
「モモはあんなに可愛くても予知能力のある覚醒者よ。そうそう、魔物の襲撃もモモが知らせてくれたことなの」」
「覚醒者!? ふーん、そうなのか……」
自分もビアードから不死の能力に目覚めた覚醒者だといわれていた。しかし自分以外の覚醒者を見るのは初めてだった。
「だからきっと強くなれるわよ。私の次くらいにねっ」
「い゛っ」
カトラはそういうとユタの背中を思いっきりたたいた。
「い、いきなり何すんだ 痛いだろ!」
「あはは ほら、せっかくあたしが活を入れてあげたんじゃない これから修行なんだから、ビシビシ鍛えてあげるわよ」
「え? ああ、そういう」
「ほら エイエイッ オー! はいっ」
「……エイエイ、オー……」
―あれ? なんかおかしいような。俺、午前中ずっと待ってたんだよな―
「お姉ちゃんが、ごめんなさい!」
ご拝読いただきありがとうございます!
もしよろしければブクマや評価、感想やいいねなどいただけるととても励みになります!
この先もよろしくお願いいたします。