第30話 路地裏での危機
「はあ……」
ネーダはため息をついた。
彼にとっても、トリーナから提示された条件は想定外の物だったのだ。
ネーダは少し前に、龍のアギトの団長にこの街で冒険団を作るときの後ろ盾になってほしいと頼んた。それは団員を募集するときにも強力な冒険団がバックにあると知れば、より多くの冒険者が自分の作る団に集まってくると思ったからだ。
だが望んでいた回答は違っていた。今から考えてみると、ボクのお願いはあの団長の機嫌をそこねてしまったのかもしれない。生意気な奴め、支援してほしいならまずは私の団に入団をしろ。と。
「ユタに酷い事しちゃったかもなー けどああするしかなかったし」
「きゅいきゅい」
「チ二イ、ボクをなぐさめてくれるの?」
兜の中に入っていたシマシマリスのチ二イが、ネーダの肩まで下りてくるとぺろぺろと頬をなめた。
「ありがとうチ二イ。そうだね、いつまでも落ち込んでても仕方ないよね。よし、とりあえず腹ごしらえだぞ! 宿にもどろうか」
「きゅい!」
しかしその時、そんなネーダ達の後ろから忍びよっていた影が複数あった。
それらはネーダ達に近寄るとあっという間に取り囲んでこう言った。
「おい。落とし前、つけさせてもらうぞ……」
キルシュが用意した装備はどれも、素人のユタ達の目から見ても良いものだと分かる物だった。
ユタが受け取ったのは黄色と黒を基調にした丈の長いコートで、何本かの革のベルトを巻き付けるようにして防御力と身軽さを両立させていた。
「黄色と黒って……ちょっと派手すぎじゃないのか?」
「街の外では何が起こるか分からない。万が一が起きたときのためにも、そのぐらいでちょうどいいンダラ」
ユタはさっそくその服を今着ている村人服の上から着てみた。キルシュによると魔法使いの武装は軽く丈夫なので、そのまま旅装としても使えるらしい。
続いてクレアが受け取った服は、それまでクレアが身に着けていた緑色の服と似た雰囲気のふんわりとした感じだった。
白いブラウスにちょっと短めの黒いスカート。以前のクレアよりも大人な雰囲気だがこれもとても可愛いと思った。またクレアがずっとつけていた頭の髪飾りは、忘れずにつけていた。
「可愛いけど、この服薄すぎじゃないの? その~防御力とか大丈夫なの」
「魔法使いに防御力なんて、いらンダラ。これは最近王都の方で流行っているデザインだそうだ」
「そうなんだ。でも……っ 胸がちょっとキツイんだよ」
クレアの胸の辺りに視線を向けると、どう考えても服のサイズがあっておらず、無理やり止めたボタンが今にもはちきれそうだった。
「クレア、オシャレには時にも我慢が必要っていうだろう」
ユタはニコニコしながらクレアにそういった。
「ええ? そんなの初めて聞いたけど……」
「俺の故郷ではそこそこ有名な言葉だぜ」
しかしキルシュは俺の真意など意に返さずに、きつそうなクレアの服を見てこう言った。
「いや、ただ大きさを間違えただけだ。待ってろ、今ちょうどいいのをもってくるンダラ」
そういうとキルシュは店の奥にクレアに合う少し大きめの服を取りに行った。
「やっぱり、ユタって変態さんだねっ」
う~ん。何もいいかえせない。
困っている俺の顔を見て、クレアは楽しそうに笑っていた。
ネーダはいつの間にか周りを囲まれていることに気が付いた。ここは壁に囲まれた脇道で、逃げ場はすでに塞がれてしまっていた。
「なんだよ、お前たち! いきなりこんな事するなんて、ボクに失礼だぞ!」
「失礼だと? ……それはそっちの方だろうがッ ガキが大人をなめてんじゃねーぞ! もう逃がさねーからな」
ネーダは最初、なんで目の前の男たちが怒っているのか分からなかったが、よくよく見るとこいつらの顔には見覚えがあった。
「あーっ お前、あのときのごろつき冒険者だ!」
ネーダは目の前の冒険者の顔を指さしながらそう言った。
「まさか、忘れてたっていうのか! も、もう、ゆるさねえ。てめえら、やっちまうぞ」
リーダー格の男が仲間たちにそう呼びかけると、周りの冒険者たちはじりじりとネーダにせまってきた。
「ふん、ボクとやろうっていうのなら覚悟するんだぞ。なぜならボクは、誇り高い魔法剣士の一族グラディウス家に名を連ねるものなのだからね」
「またその嘘か 何が魔法剣士だ。第一、剣なんてもってないじゃねえか」
「あれ? あ、ヤバい! そうだった!!!」
ネーダはそのとき、自分が丸腰であることに気が付いた。
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