第28話 冒険団 龍のアギト
ユタとネーダ、そしてシマシマリスのチニイが黄金果実亭の前まで着いた。
するとそこには、昨日ユタ達を案内してくれた冒険者のカトラがクレアと一緒にいた。
ユタの姿を見つけるとカトラはすぐに近づいてきた。
「どこに行ってたのよ。せっかくあたしが、とっておきの話を持ってきたっていうのに」
「いや、こっちも色々あってさ……それより、とっておきの話ってなんだよ?」
ユタがそう尋ねるとカトラの隣りにいたクレアがひょこっと飛び出し、彼女の代わりに答えた。
「あら、忘れたの? ムーン帝国にいく方法の話だよ。昨日あの後、カトラさんが考えてくれたみたいっ」
「そうなのか。ところで、クレア……」
「うん?」
ユタはじーっとクレアを全身を一瞥すると、ぽっこりと張り出たお腹に視線を注目した。そして苦笑する。
「少し見ない間に、だいぶ大きくなったんじゃないか??」
明らかに食べ過ぎだ。この短時間で体型が変わるほどなのだから。
「ユ、ユタァ~! も、もう! ……つい美味しくて食べすぎちゃったかな?」
クレアは真っ赤に恥ずかしがりながらプンスカと怒り出した。
「ふふふ、まあ女の子は少し食べるぐらいの方が可愛げがあるからね。ボクはキミみたいな子は嫌いじゃないよ」
すかさずネーダはそう言った。
「え、ありがとう。ところであなたは?」
クレアはネーダとは初対面だったので、当然のようにネーダに誰なのかと尋ねた。
「えっへん。ボクは……」
だがそこで、カトラが話に割り込む。
「あんた、たしか前に団のアジトに来た魔法剣士よね」
「ああ、うん。ボクはネーダだ」
ネーダはこくりとうなずいた。どうやら二人は顔見知りらしい。
「まさか二人が知り合いだったなんてね、まあその方が手っ取り早くていいか……みんなッついてきて」
するとカトラはくるりと回るとそのまま歩き出し、ユタたちについてくるよう手招きした。
「おい、どこに行く気なんだ。観光なら俺たちはもう充分だぞ」
「違うわよ。これから団長がわざわざあんた達に会ってくれるって言ってるの。きっと団長なら何とかしてくれるわよ」
―団長? それはもしかしてカトラの所属する冒険団-龍のアギト-の団長の事だろうか?―
ユタは頭の中で冒険者たちの長の屈強でたくましい姿を想像した。
「ネーダと言ったわよね あんたも一緒に来なさい。団長がお話になるわ」
それを聞くとユタは驚いてネーダの方を見た。ネーダも俺たちと同様に、何らかの約束をしていたのだ。
「ボクは行くぞ 龍のアギトはこの辺りで一番でかい冒険団だ。そんな団のトップと会える機会なんてなかなかない。ユタとクレアはどうする? まさかびびって行かないなんてないよねぇ」
ネーダはユタに挑戦的にそう言った。
「そ、そんなわけないだろ。俺も行くよ! な? クレア」
「うん、きっと帝国にいるお母さんの手がかりが分かると思うしね」
そうして四人は龍のアギトのアジトへ向かった。
アジトは石造りで、フォレストモアの中でも大きい建物だったため、遠くからでも一目で分かった。
アジトに入ると、カトラに連れられ、三人は奥の広い部屋に通された。するとそこには、三人の冒険者らしき人物がユタたちのことを待っていた。
「ようこそ、龍のアギトのアジトへ。あなた達を歓迎しますよ」
右側にいた長身の優男はそういった。
「ケッ そりゃまだ早えーだろがパユ。それに、こんな雑魚がいくら加わったところで、オレは何にも意味が無いと思うぜ」
左側にいた優男とは対象的な真っ赤な装束に身を包んだ女冒険者がそういった。
「ラッツ。この作戦は団長殿が考えられたのですよ。それに彼らの実力は、嫌でもこれから実戦でわかるのですから、そう邪険にしないでください」
「……ケッ」
-実戦? 一体この二人は何の話をしているんだろう-
ユタは龍のアギトの冒険者、パユとラッツの会話を聞いてそう思った。
すると真ん中にいたおそらく団長だと思われる、立派な鎧を身にまとったマントに騎士姿の冒険者がユタ達に話しかけてきた。
「私はトリーナだ。カトラから君たちの話は既に聞いている。そして、私達の団なら君たちの願いを叶えることも可能だろう」
「本当か?! それなら……」
「でもタダでというわけにはいかない。……君たちは、最近になって魔物の動きが活発になっているのを知っているか?」
トリーナの言葉を聞いて、ユタたちはそろってみんな首を横に振った。
「ほら、ゴブリンに襲われてたとき、あたしを街の前で助けてくれたでしょ。普通だったらあんなとこにゴブリンがいるはずないのよ」
カトラがユタとクレアに対しそういった。彼女にとってあの場所でゴブリン達に襲われたことは想定外の事態だったということか。
トリーナはこう言った。
「私の団の予知能力者によると、近じか魔物の大発生が起こるらしい およそ百体以上の魔物がフォレストモアに押し寄せてくるだろう」
「ええっ それって大変なんじゃ」
クレアの言ったとおり、もしそんなことにでもなったら一大事だ!
街には城壁もあるが百以上の魔物の侵入をすべて防げるとは思えないし、街はおそらくパニックになるだろう。
―念のため、早いとこ街から出た方がいいかもしれないな―
「おい、そこのお前。街から逃げようとなんて考えても、もう遅いぞ」
「エッ! な、なんで分かっ……」
突然ユタはトリーナに自分の考えを見透かされて、とても動揺した。
「君たちに出す条件は魔物の大発生のための大討伐作戦に参加してもらうことだ。もちろん報酬は充分に出す。それに今はとにかく人手がほしい。(それがどんな弱者でも。)もし作戦で少しでも使えることが分かったら、私の団への加入を一時的に許可しよう」
「はあ? いや、意味わかんねーよ」
横暴にもほどがある。それにこっちの条件は何一つ叶ってないじゃなかいか。
ユタはついさっき、トリーナに思考を読まれた事もあってイライラしながらそう答えた。
トリーナはユタ達の予想外の反応を見ると、カトラにこう尋ねた。
「……ん? カトラ、彼らは帝国に入りたいんじゃなかったのか」
するとカトラはアッと小さな声を上げると、へらへらと笑ってごまかしながらユタたちにこういった。
「ごめんごめん、ちゃんと説明してなかったかもしれないわ。ムーン帝国に入る条件なんだけど、A級冒険者や王国騎士団に入ること以外にもあって。B級以上の冒険団のパーティなら入国を許可されてるのよ。私たちの龍のアギトはA級だからちょうどいいと思って」
「はー、そういうことだったんだ」
確かに今の俺たちには、デカいパーティに寄生する以外に帝国に行く方法はないかもしれない。
それにユタはあまり戦いたくなかったが、クレアはこの大討伐に対してやる気があった。
「私もいっしょに、街の人を守るためにがんばるね」
「クレア…ありがとう!」
二人はやる気だ。
なのでしかたなく、俺も参加を決意したのだった。
そのとき横にいるネーダがこういった。
「ボクも参加するぞ」
それを聞いたときユタは変な疑問が生まれた。
ネーダの夢は自分の冒険団を作ることだった。だが、この討伐戦に参加してもその望みはかなわないハズ?。
それに入る気はさらさらなかったが、ネーダはユタのことを自分の作る団に入らないかと誘ったばかりなのだ。それなのに自分は最初から他の団に行くつもりだったのか?
「……ネーダ?」
ユタはぼそっと彼の名前を呼んだ。話を聞きたいと思ったからだ。
するとネーダは、一瞬ちらりとユタを見たが、目が合うとすぐに視線を逸らした。
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