第27話 旅の魔法剣士ネーダ
ユタは冒険者に囲まれ危ないところだった少年を間一髪で連れ出すと、黄金果実亭を飛び出した。
冒険者たちも二人の後を追いかけてきたが、ユタは陸上選手並みの瞬足の持ち主だし少年もユタに負けないくらいの足の速さを持っていた。
なので街の路地を二、三度おり曲がっている内に、難なくふり切ることができた。
「はあッ、はあッ…………もう追ってきてないみたいだ」
そう言うとユタは足を止めて一息つくとその場でしゃがみ込む。
「お前、なかなかやるな ボクも走るのは得意なのに、ついていくのがやっとだなんて……もしかして、チニイよりも速く走れるか?」
「いや、流石にそのリスよりは早く走れないよ。前に追いつけなかったから」
「そうなのか…………。 はッ、そうじゃなくて!」
すると少年は、ユタからサッと距離をとり警戒する素振りをみせた。
「一体どういうつもりなんだっ いきなりボクを連れ出して」
「キュイ!」
一人と一匹はユタをにらみつけてそう言った。
ユタも睨みかえしてこう言った。
「は? おい、まさか気付いてなかったのかよ。お前あのままあそこにいたら、あの冒険者たちにボコされてたんだゼ」
「もちろん気づいてたもん! あいつ等がボクに敵意を向けていたことぐらい……。でもボクはあの冒険団グングニルの団長の英雄カーダの弟なんだぞ。だから、ボクがあんな連中なんかに遅れをとるはずがないんだ」
少年はユタに対して強い意志で、そしてどこか誇らしげにそう言った。
「……ふーん、あっそう。英雄様の弟だったら、俺が助けたのは余計なお世話だったな」
ユタはせっかく良心を働かせて助けてやったのに、思ったような反応がもらえずつまらなくなったのだ。そして頭の後ろで腕を組むと、そのまま建物の壁に寄りかかって寝転んでしまった。
「え、お前、本当にボクを助けようと?…………ていうかお前、ボクのいう事信じるのか?」
「ええ?……なんだってんだよ」
「普通の人間は……ボクがカーダの弟なんて言っても、誰も信じないんだぞ なのになんでお前はすんなり信じちゃうんだよ!」
確かに黄金果実亭にいた冒険者たちも、この少年のいう事を信じずみんな嘘だと決めつけていた。もしかしたら何かわけがあるかもしれないが、俺が彼を信じている理由は至極たんじゅんだ。
「だって、俺、そのカーダとかいうの知らないし」
「へ??」
ユタがそう言うと少年は目を丸くして驚いた。その後、笑いがこみあげ盛大に吹きだした後、すっきりした顔になってこう言った。
「はははは! まさか、この国に兄さまを知らない人がいたなんて……お前、面白いなっ そうだ、ボクの仲間にならないか?」
「…………はあ?」
―なにいってんだ、こいつは…………―
すると少年は慣れなしくも、いきなりユタの隣りに座るとこう言った。
「ボクはネーダって言うんだぞ。お前の名前は?」
「ユタだけど…… てかっ、なんだってんだよいきなり」
「そうか、ユタか。よろしく! まあ聞きなよ、ボクには夢があるんだぞ」
ネーダはそう言うと、ユタに自分の事を語った。
話によると、ネーダは代々続く魔剣士の家系の出なのだそうだ。彼の兄は魔剣士で英雄と呼ばれていた。そんな兄に憧れて自分も家を飛び出しできたのだと言う。
なんでも帝国を魔王軍の完全侵略からギリギリのところで食い止めたのが、ネーダの兄カーダらしい。それ故に英雄なのだ。
「ボクもいつか、兄さまのような冒険団を創って、兄さまみたいなスゴい魔剣士になりたいんだ」
「冒険団ていうと、冒険者の集団の事だよな。確かこの街にも龍のアギトっていうのがあった。でも魔剣士って? 魔法で剣でも出すのかよ?」
「なんだよぉ、ユタはそんな事も分からないのか」
ネーダはヤレヤレという風に鼻で笑ってみせると、自分の腰に手をおき抜刀の構えをみせた。
「仕方ないなぁ。ボクの魔法剣を見せてあげるよ。お前は仲間にするから特別なんだぞ。……あれ?」
しかし何の変化も起こらない。
それもそのはず、ネーダは剣など持っていなかったのだから。
「どうしたんだ」
「しまった! 宿に荷物を置いたままだぞ。ボクの剣も部屋にある。一回取りに帰らなくちゃ」
するとネーダは黄金果実亭に戻ろうとして慌てて立ち上がった。
「待て、宿に戻るのか? それなら俺も一緒に行く。そっちの方が早いしな」
「うん、オッケー! じゃあ行こう!」
ユタはネーダの言う魔法剣という物に興味があり見てみたいと思っていたのだった。
そうして二人は来た道をもどって黄金果実亭へと再び走りだした。
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