第24話 魔法戦闘
「ごめんごめん、まさかお前の肉だったとは知らなかったんだ……」
ユタが少年を叩き起こし事情を説明すると、少年は両手の平を何度も擦りあわせて謝罪をした。
……少年の頭には見事なタンコブが出来ていた。
「何日も何も食ってなくて……本当にごめんだぞ!」
「きゅいー」
先ほどの生意気な態度とは裏腹に、少年はとても素直にユタに頭をさげた。あまりのギャップにユタも驚いて、だんだんと少年を許してもいいという気持ちになった。
「…………いいよ、もう食べてしまったんだろ」
だがユタがそう言うと、少年はその言葉を待っていたかという様に、下げていた頭をガバッとあげるとこう言った。
「そー! ならこれっきりだからね。後で返してとかはなしだぞ? ごちそうさまー! 次は盗られないようにしろよぉ」
「キュイキュイッ」
からかうようにそう言いながら、一人と一匹は颯爽と駆けていった。
―あいつら、次に会ったら絶対ゆるさねーっ―
ユタはそう心の中で思うとクレアのいる場所まできた道を戻っていった。
翌日、ユタとクレアは再びフォレストモアの街に向けて歩き始めていた。フォレストモアまではあともう少しだ。
「街に着いたら宿屋のベットで横になりたいなぁ あと、お風呂にも入りたいよっ」
クレアは歩きながら、そんなことをぼやいていた。
森で野宿している間は風呂はもちろん入れなかったし、近くにちょうどいい川も無かったので水浴びもできなかったのだ。
「そうだな フォレストモアは結構大きい街らしいから、宿にはお風呂もあるんじゃないか?」
「やったね ユタ、いそごっ」
それまでとぼとぼ歩いていたくせに、街に着けば体が洗えると分かったとたんにクレアは急ぎ足になった。
「遅い遅い、へへへ、先に行っちゃうよっ」
「はあ、調子がいいんだから」
元気になったクレアは駆け出してどんどん先を進んでいった。
ユタはこのままクレアが先に宿まで行くのかなと思ったが、しばらく進むといきなりクレアはUターンしてユタの方に戻って来た。
「どうしたんだよ?」
「ユタ、魔物と戦っている人がいるの!」
「は? なんだってッ」
「たぶんフォレストモアの住人だと思うけど、なんだか苦戦してるみたい」
ユタはクレアに連れられて魔物がいる場所まで来た。
するとそこでは、赤いポンチョを着た少女が四匹のゴブリンに囲まれていた。少女の手には短剣が握られていたが、ゴブリンも同様に剣など武器を持っていた。
「ぐへへふええ……」
ゴブリン共は気持ち悪く笑いながら少女に近づくと突然彼女に斬りかかった。
少女は正面からの剣閃を短剣で受け止めようしたが、後ろから斬りかかるもう一匹のゴブリンには気が付いていなかった。
キィーンッ
すんでのところでユタは割って入ると、ナイフを使ってゴブリンの攻撃をはじいた。
「助けはいるか?」
「ええ、情けないけど……助かるわ」
ユタに遅れてクレアも二人の近くに来ると、懐から魔法のロッドを取り出し戦闘態勢に入った。この杖は元々はビアードが使っていたものだ。
「あたしはカトラ、冒険団<竜のアギト>所属よ。 魔道具の素材を集めてたんだけど、ドジっちゃってね。あんたたち、魔法は何が使えるの」
そう聞かれると二人はそれぞれカトラに自分の使える魔法を伝えた。
「なるほどね、クレアちゃんは風の呪文がつかえるのかあ」
するとカトラはクレアに耳うちして何やら作戦を伝えていた。クレアは最初戸惑っていたが、カトラに説得されると決心したようでこくりと頷いた。
「おい、なんか作戦があるなら俺にも説明しろ」
「あーごめん、私たちは最初はゴブリンたちの注意をそらす役目よ。チャンスが来たら合図するから散って」
「分かった」
そしてユタとカトラが前に出ると、クレアは二人の後ろに下がった。
「行くわよ!」
「ああ、いくぜ!」
前衛の二人は掛け声と共に一斉にゴブリンたちに斬りかかった。いきなり攻めてきた二人を見てゴブリン達は戸惑いひるんだ。
しかし怯んだのは最初だけですぐに攻撃に転じてくる。しかも今はカトラと二人でゴブリンの相手をしているため実質四対二だ。つまり一人で二匹の対応をしなくてはならない。
クレアは後ろの方で魔力を溜めていた。
ユタとカトラはお互いの背後に隙ができないように庇いながら戦っていく。
するとユタに向かって、一匹のゴブリンが刃物をぐるぐるとふりまわしながら突進してきた。
「危ないわ よけて!」
カトラはユタに呼びかけるが、彼女も二匹を相手にするので手一杯だ。
しかしユタはゴブリンが今の攻撃をしてきた時、心のなかでほくそえんでいた。
―デレ行動きたぁ!―
迷いの森で何百とゴブリンを狩りつくしていたユタには、ゴブリンがみせる隙の瞬間というのが分かっていたのだ。
そして今のように無我夢中で突進してきたときは、必ず反撃のチャンスであった。
ユタは落ち着いた様子でナイフを逆手に持ち替えた。
そして刃物を振り回しながら突進してくるゴブリンの足をややしゃがみながら素早く蹴って転ばした。
体勢を崩したゴブリンはその場で転倒しそうになり前方に大きくのけぞった。
ブスリ
ユタはそのまま自分の方に倒れてきたゴブリンの胸をナイフで貫いたのだった。
「あぎいぃ」
その様子を見て側にいたもう一匹のゴブリンは動揺した。
「あんた、なかなかやるじゃない」
「あっぎぃ」
ゴブリンが動揺しているうちにカトラは背中からそのゴブリンを短剣で刺した。
これで残りは二匹になったが、その時後ろからクレアの声がした。
「カトラさん、準備おっけーです!」
「分かったわ あんた、離れてなさい」
ユタは言われた通りに離れると、後ろで魔力をためていたクレアがゴブリン目掛けて風の魔法を放った。
「上級呪文、二重旋風!!」
クレアの手元で魔力により作られた風の刃は、回転しながら真っすぐにゴブリン達の間に飛んでいった。
そしてクレアが魔法を放ったのを見計らって、カトラもクレアの魔法に合わせるように呪文を唱えた。
「今よ 超火炎!!」
風の刃に特大の炎が重なり、炎の刃となってゴブリン達を焼き切った。
ゴブリンたちは倒れ、死体から魔力霧が次々と出てきた。
「ふー、なんとかやったね……」
初めての魔物との戦いで緊張していたクレアは一気に気が緩んでその場に座り込んだ。
「今のすごかったな どうやったんだよ」
「ああうん。風の上級呪文はおじいさんに教えてもらってたんだ。一緒に放つっていうのはカトラさんの指示」
「へー……そうなのか」
するとゴブリン達の武器を物色中だったカトラが手に持っていたそれをほうり捨てるとこう言った。
「あ、ううん あたしは冒険団の人の技を真似しただけよ。あたし自身は大したことないの。あんた達が助けてくれなかったらホントにやばかったかもなんだから、ありがとう」
カトラはそう言うと、クレアとユタに一人ずつ握手をして感謝を伝えた。
「何か、お礼ができないかしら」
「いいよっ 別にお礼なんか」
クレアが一度断るが、カトラは次の瞬間何か閃くとこう言った。
「そうだわ あんた達、この先のフォレストモアに行く途中なんじゃない?」
「ああ、そうだけど」
「やっぱりね、あたし、けっこうくわしいのよ あたしの用が済んでからでよかったら街を案内してあげるわ」
ユタ自身は正直どちらでもよかったが、次に放った彼女の売り文句がカトラの同行を決定づけた。
「綺麗なお風呂がある宿屋も紹介できるわよ」
「ぜひお願いしますっ」
こうして二人はカトラと共にフォレストモアへと再び歩み始めたのだった。
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