第23話 もりキャン!
コロッパ村を出た二人は森を抜けた先にあるフォレストモアという小都市に向かっていた。
そこでそれぞれの故郷の情報を集めるつもりだ。
事前にビアードが調べてくれたおかげで、クレアの持っていた金のロケットが、ムーン帝国という場所で作られた物だと分かっていた。ロケットに彫られた獣の紋章と酷似した絵を古い帝国の書物から発見したからだ。
ただ、かなり古い書物だったので全部は解読できず、細かい場所までは分からなかったらしい。
またロケットに刻まれたルーン文字には魔法的な力が宿っていると分かったが、それがどんな魔法なのかも判明しなかった。
それでもユタ達はきっとムーン帝国に手がかりがあると信じたのだ。
「はあ……」
旅出ってからクレアはこうして時々ため息を漏らしている。本人は気づいていない。無意識にだろう。
今まで村から離れた事のないクレアにとって、旅は不安だらけだったのだ。無理もない。だが理由は他にもあった。
実はユタ達が向かうべきムーン帝国は、魔王軍の侵攻により国土の半分が滅んでいたのだ。
もしかしたらクレアの故郷であるはずの彼女の母が居る場所も、既に魔王軍に侵略された後かもしれない。クレアはロケットがムーン帝国で作られたと知ったときも、その考えが頭に浮かびあがり青ざめた。
「クレア、まだ分からないだろう。クレアの故郷が魔王軍に襲われたと決まったわけじゃないし、クレアのお母さんは運よく逃げられた可能性だってあるよ」
「うん、そうだね…………ありがとうっ」
クレアはそれから表面上では明るさを取り戻したように見えたが、自分から故郷の話題に触れようとする事はあまり無くなった。
ユタはどうにか彼女を元気づけたいと考えてた。しかし良いアイデアはなかなか浮かばない。
そのうちに日も暮れてしまい、二人は森の中で野宿をすることになった。
「明日にはフォレストモアに着くね」
「ああ。そうだな」
フォレストモアは今いる森を抜けるとある街だ。森と平野に挟まれ周辺からも人が集まる活気のある場所らしい。
二人が村を出てから野宿をするのは今日で二日目だった。
ユタは迷いの森でずっと暮らしていたので野宿には慣れていたが、昨日が屋外で寝るのが初めてだったクレアは最初とても不安そうにしていた。
しかし歩いてる途中で狩った野生の動物を丸ごと焼いて食べると、お腹が膨れて気持ちよさそうに眠れていたようだ。
「たくさん歩いて疲れちゃったよっ 早くご飯にしよう」
「うん。じゃあまた火を頼むよ」
「分かったっ」
するとクレアは集めた薪木に向かって生活魔法の一つである火|を放った。薪木の中から煙が出て来てだんだんと炎は大きくなっていった。
クレアが火の用意をしている間に、ユタは収納魔法を開いた。そして中から道中に見つけた兎と、細かい調味料など、そして肉を解体するためのナイフを取り出した。
ナイフなどは村を出るときに護身用にと、ビアードからもらったものだ。
迷いの森に居た時は、調理となるとゴブリン達の持っていた粗悪な道具で力任せに叩き斬るか、丸焼きか生食かしかなかった。
それにどうせ自分は死なないのだから、食中毒などを恐れる心配もない。
しかし今調理して食べるのはユタだけではなかった。だからてきとーに作って、食ったら死ぬ飯を作るわけにはいかなかった。
兎をさばいているときユタはふと横をみた。するとクレアはまた暗い表情をしていた。
ここには道具や食材も迷いの森の中とはくらべものにならないくらいある。だから食っても死なない飯を作ること自体はそんなに難しくなかった。
しかし、クレアがまた喜んでくれるようにユタは頑張って作った。ご飯をたべて少しでも元気を取り戻してほしいと思ったからだ。
作った料理を渡すときに、頭の中で彼女を元気でづける言葉がいくつか思い浮かんだが、クレアに言おうとすると余計に悲しませるのではと恐れ、伝える事はできなかった。
学校で周りの機嫌ばかりをとっていた時はあんなにも上手くいっていのに、肝心なところでは上手くできないものだ。
「ユタの作るご飯って美味しいよねっ」
そう言いながらクレアは美味しそうに兎の肉を頬張った。
―ただ焼いただけなのに、こんなに喜んでくれるのか―
ユタは肉を刺した棒を持ちながら彼女の顔をぼーと眺めていた。
確かに。元の世界に居た頃は、俺の他に飯を作る人間もいなかったので自炊することが多く、一通りの家事もこなせた。
しかし、今までは自分の作った料理を誰かに食べてもらうような経験はなかった。
―そっか、誰かに食べてもらうのってけっこう嬉しい物なんだな―
そう思うとユタは自然と笑みがこぼれた。
その後、クレアは兎肉を食べ終えると物足りなさそうにユタにこう言った。
「あのさ、ご飯ってこれで終わり?」
「え、終わりだけど……」
「ええっ 昨日より量が少ないよ。これって気のせい?」
「昨日は野鳥が二羽、今日は兎が一羽だ。少ないのは当たり前だよ。足りなかったら、ゴブリンの肉でも食うか?」
そう言って収納魔法を開き緑色の塊を取り出すとクレアに差し出したが、彼女はそれを見た途端に一気に食欲は失せた。
「いいっ それはいらないっ」
「なんだよ、美味しいのに……」
ユタは取り出した緑を口にくわえた。
「いや、実は兎の肉はまだ残ってるんだけどさ、残りは燻製にしてとっておこうと思ってるんだよね」
「ええ、今食べちゃおうよっ」
「ダメだよ。食料の保存は大事だろう。ほら、今だってこうやっていぶしてるんだ」
そうしてユタは燻製中の兎肉に手を伸ばしたが、あるハズの場所に肉は存在しなかった。
「ユタ、あれ!」
クレアが指さす方を見ると、何やら小さな小動物が兎肉を加えてこちらを見ていた。そしてユタと目が合うと縞模様の入ったリスのようなそれは、肉をもって一目さんに走り出した。
「はぁ? こいつッ、待ちやがれ!」
ユタは立ち上がると肉泥棒を追いかけだした。
ユタは脚力にはかなりの自信があったが、リスの速さもかなりのものだった。しかも小さな体を活かして木々の間をするすると減速することなく進んでいった。
「くそ、速い!」
リスとの距離は埋まらなかったが、やがてリスはある木の根元にたどり着くとそこで止まった。
ユタはリスの動きが止まったので慎重に木の根元まで距離を詰め始めた。
「今すぐさばいてお前も精肉にしてやる」
しかしリスに近づいていくと、木の根元に人間が倒れている事が分かった。
兵士の被るような兜を被り、背丈に合わぬ大きめのマントとオーバーオールを着用していて、かなり変わった格好をしていると思った。
その不自然な少年の口元にリスはさっき奪った肉を近づけた。するとわずかに肉の匂いがしたのか、少年は凄い勢いで兎肉に食らいついた。
「がつがつ…………よくやったぞ、チニイ! やった、久しぶりの飯だぜ!」
「キュイ!」
兜の少年はあっという間に肉をあっという間に肉を食べてしまった。
すると少年は兜をはずしボサボサになった茶髪の頭をかきむしると、そのまま横になり寝息を立て始めた。リスのチニイも少年の横でうずくまると気持ちよさそうに寝始めた。
それも、俺を無視して!
「…………」
目の前で起こった一部始終を見て、ユタは唖然とするしかなかった。
「こうゆう奴らって、確か法律だと一発なぐっても許されたよな?」
作者「そんなことはありません。」