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第22話 鳥たち

 翌日、ユタはクレアが旅に持っていく食料の準備を手伝っていた。


 二人で手分けして森で木の実を集め、それで硬いパンを作った。クレアによるとこの木の実パンは固くて食べるのが大変だけど、とっても長持ちするのだそうだ。

 ビアードに作り方を教えてもらったらしい。

 ユタも試しに一口食べてみたが、あまりの硬さに歯が折れそうになったほどだった。


「そんなに勢いよく噛んじゃだめだよ 木の実パンは硬すぎてすぐにはたべられないから、こうやって、しばらくしゃぶって柔らかくしないと食べられないんだよっ」


 そう言うとクレアは木の実パンを丸ごと口の中に放り込んだ。するとパンの形にクレアのほっぺたが膨れ上がる。


「んー! ん、ん!」


 何か言ってるようだったが、パンが口の中にあるため全く聞き取れなかった。


「あはは、それじゃ何いってんだか分かんないよ」


「んんんー(見ててっ)」


 するとクレアはパンの入った口をキュッとすぼませた。ちゅるちゅると音がするとクレアの口の中で一気に大量の唾液が分泌され、あっという間に木の実パンが柔らかくなってしまった。


「もぐもぐ…………へへへ、すごいでしょ これできるの私だけなんだよっ」


「ああ…………すごいのは、たしかに分かったよ」


 ユタは半ばあきれつつもそう答える。


 その後も二人は次々とパンを作り続け、ついにすべての木の実をパンに変えた。



 パン作りを終えひと段落したところで、ふとユタはあることを思い出した。


「そうだ いい物があった」


 するとユタは収納魔法(ストレージ)を開くと、自分の学生鞄をとりだした。そして鞄のなかから緑色の塊を何個かとりだしてみせた。


「それなにさ?」


 クレアは恐る恐る尋ねた。


「ゴブリンの肉だよ。迷いの森で生活していた時にいくつか燻製にして保存しておいたんだ。まだたくさんあるから、何個かあげるよ」


 ユタはそう言って乾燥した緑色の肉の切れ端をクレアに差し出した。


「ええ? けどすごく美味しくなさそうだよっ」


「そんなことないって。まあ、多少臭さはあるけど、慣れれば何ともないぜ。ほら、試しに一口食ってみろよ」


「ヤダ! ヤダ!」


 結局彼女はゴブリンの肉を食べなかった。


 そしてパンを入れるものを持ってくるというと、クレアは一旦調理場を後にした。


 クレアがいなくなった後でユタは自分で出したゴブリンの肉を一口食べてみた。


 それは確かにとっても酷い触感だった。木の実パンにも劣らず硬いし、しかも臭く美味しくない。しかし、少しずつ噛んでるうちにだんだんと肉っぽい味がしてくるのだ。

 

 それでも森でろくに食料が取れなかった生活では、美味しい食事の部類だったのかもしれない。



 そのうちにクレアが戻って来た。クレアは大きなカバンを持ってくるとユタにこう言った。


「全部入りきらないかもだけど、とりあえず入れられるだけこの中に突っ込んでよ」


 クレアの持ってきたカバンは彼女の背丈の半分ほどもあって、両手で抱えなければ持てないくらい大きかった。


「はあ? なんだってんだよ、そのバカでかいカバンは。まさか、それを持っていく気なのか」


「そ、そうだよ。コレならたくさん入るでしょ。それにもしもの時ってあるでしょ? ほら、何が旅には何が起こるか分からないしっ。備えあればなんちゃらってね」


 クレアは自信ありげに自慢のウンチクを交えながらそう言った。しかしユタはきっぱり否定した。


「いや、要らないよ。これぐらいなら俺の収納魔法(ストレージ)に全部入りきるからな」


「え、どうゆう事? ユタの収納魔法ストレージに入れても、ユタは村に残るんだから意味は無いじゃん」


「ああ、そうゆえば言ってなかったな……俺もこの村を出ようと思うんだ」


「え?」


 グロッチ村での戦いが終わりコロッパ村に移った後、ビアードからはここに住み続けても構わないと言われていた。しかしユタにその気はなかった。


「村のみんなは家族のように良くしてくれるけど、やっぱりここは俺の本当の故郷じゃない。それに村で過ごすうちに、迷いの森に迷いこむ前に暮らしていた故郷の事を思い出しちゃってさ。懐かしくなったんだ」


「でも…………ユタが森に入ったのはもう百年も前の事だから、もうアナタの故郷には……」


「ああ、おそらく誰も生きてはいないだろう。それどころか建物すら残ってないかもしれない。それでもいいんだよ。それでも帰りたいんだ。そうじゃなきゃ現実をみれそうにないんだよ」


 というのが建前だ。なにせ、俺の故郷はこの世界ではない。地球だ。

 元の世界に帰りたいというのはユタの本心だったが、故郷を懐かしいなどと思った事は一度もなかった。


―俺は昼間から酒に溺れるようなろくでもない両親の元に生まれた。だからといってトンビの子はトンビではない。俺はあいつ等とは違う!屑になんてなってたまるか―


 その証明をするために優太は誰よりも努力し結果を出し、己の優秀さを示し続け生徒会長にもなった。

 その道程はまだ終わりではなく、証明は続いている。


 そのためにも優太は帰らねばならなかった。……あの窮屈な世界に。



 クレアは作り話とも知らずにユタの言葉を真剣に聞いていた。


「そっか、じゃあユタも私と同じなんだね」


「えっ、何がだよ?」


 自分のつらい過去を簡単に同じと扱われ、イラっとしながら返答した。するとクレアはこう言った。


「だってそうでしょ、ユタも私も自分が生まれた場所を探すために旅出つんだから。私もお母さんを探しだすってことは故郷を知るってことと同じでしょ。だからユタと同じだよっ」


「うん。まあそうなるかもだな……」


「ね、同じ! がんばろうね」


 一人じゃない。わずかでも共感してくれるクレアをユタは心強く思った。

 

 そこでユタは思い切ってクレアにある提案をした。一呼吸してから筋を立て相手を説得するように話だした。


「クレア」


「うん?」


 ユタのどこか真剣みのある調子を察してクレアもより真面目に話を聞こうとした。


「村からでたら俺たちの最終的な目的地はぜんぜん違うけど、お互いに故郷に行くっていう目的自体はちょっと似てるだろう」


「うん。そうだねっ」


 クレアは頷く。


「……村から出たら途中まで、一緒に、行かないかい? き、きっと旅の途中でも、いろいろ助け合えると思うんだよ」


 ユタは勇気を出して旅に誘ってみたが、直前で恥ずかしくなってうまく話すことが出来なかった。するとクレアはこういった。


「何言ってるのさ?」


 ―やっぱりダメか、変な奴だと幻滅されてしまったかも――


 しかしそうではなかった。


「今更なに言ってるの? わたしはてっきり、もう一緒に行くものだと思っていたよ」


「え、そうなのか」


 ユタは驚いてクレアの方を振り向いた。


「うん……だって私達、もう友達でしょ」


「友達? 俺とクレアが?」


「え? そうじゃないの……?」


 ユタが疑問を浮かべるとクレアは少し悲しそうな顔になった。


「いや…………そう、そっか。俺たち友達か」


 元居た世界では幼いころ以外で、ユタにはあまり友人がいなかった。

 自分を高めるために学業などに勤しんでいたからだ。


 なのでクレアに友達だと言われたとき、とても新鮮な気持ちになれたのだ。


「もしかして嫌だった?」


「いや、嬉しいよ。とっても」


 するとクレアはにこりと笑った。


「よかった。 じゃあ、これからよろしくね」


 そういって彼女はユタに手を差し出した。そしてユタはその手をしっかりと握りかえした。


 もうすぐ春がくる。


 きっと地球では、寒い冬の間に東南アジアなど暖かい場所にいた燕たちが、子供を育てるために故郷の日本へと帰ってくるころだ。


 ―俺も故郷に帰れるだろうか―


 ふと()()はそう思った。


ご拝読いただきありがとうございます!


もしよろしければブクマや評価、感想やいいねなどいただけるととても励みになります!


この先もよろしくお願いいたします。

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