第20話 勇気の復讐
勇気アラタはいじめられていた。
たまに呼び出されては逃げられないように二人以上で囲まれて、しこたま殴られる。
そう言う日は帰るのが遅くなるから、コンビニに寄り道しては友達と買い食いしてたって親に言う。
ピンポンパーン
コンビニから出て来るなり、勇気は大きなため息をついた。今日も殴られたからだ。手に持ったビニール袋の中には、チキンと一緒に消毒液と絆創膏が入っていた。
「あいつら、強く殴りすぎなんだよなぁ。いたた」
その時勇気とすれ違いで、仲の良さそうな親子がコンビニに入っていった。親子の背中を見送った勇気はさらに大きくため息をついた。親子の姿が勇気にとっては眩しかったからだ。
勇気は昔事故で弟を失くしていた。その時のショックで母は狂い、勇気の事も忘れてしまった。今は別々に暮らしている。
―弟を失った辛さは痛いほど分かる。だけど母さんにはぼくの為にも生きて欲しかった―
当時海外で働いていた父はそのまま消失。幼かった勇気は叔母夫婦の元に引き取られた。
しかし幸いな事に、叔母夫婦はこんなぼくにも優しく接してくれた。二人には感謝してもしきれない。だからいじめられてるなんて、余計な心配はかけられないのだった。
しかしだ。勇気をいじめていた優太の事も、本気で恨む事は出来なかった。
ぼくらは昔幼馴染だった。小学校の途中まではよく遊んでいた。
だがある日、優太の父親の会社が倒産して、優太の家族は住んでいた家から出ていくことになった。引っ越しが決まる少し前から優太の表情はだんだん暗くなっていたが、それは父親から暴力を受けていた母親が耐え切れなくなり優太を置いて家を出て行ったからだと、後になってから知った。
…孤独を知るという点で二人は似ていた。
勇気は優太のそんな過去を知っているからこそ、同情のような気持ちも生まれ、かつての友からの理不尽な暴力にも耐えうる事が出来た。そしていつか、再び分かりあえると思っていたのだ。
優太がかかえる苦しみを、気が済むまで受け止めてやろうと思ったのだ。
しかし、日に日に優太のいじめはエスカレートしていった。
勇気はその日も屋上に呼び出されたが、いきなり縛られると目隠しをされ、いつもよりも過激な暴行を受けた。勇気の体に何度もこぶしの打撃がはいった。
「ぐふっ、もうやめてよ」
「おらっ死ね」
しかし誰かの声がしたと思うと、その声の主は僕と優太達の間に割って入って来た。
―今の声は……理沙ちゃん?―
何んで彼女がここに……。
たしかに幼馴染の彼女には、どうしても辛いときに話を何度か聞いてもらったことはあったが、この場所を教えたことはなかった。
「勇気! 勇気! ねえしっかりして?」
「り、理沙ちゃん……」
彼女に頭を抱きかかえられると勇気は力なく彼女の名前を呼んだ。
―ダメだって……理沙ちゃんはこんな事には関わらなくていいんだ―
しかしそんな思いも虚しく、羽月理沙はボイスレコーダーで優太達の会話を盗み取っていた。それを見つけた優太は、里沙から奪い取ろうと逃げた彼女を追いかけて行った。
「おい、ここでじっとしてやがれ」
「う゛っ」
勇気は取り巻きから容赦のない蹴りをもらうと、そのまま気絶してしまった。
そして勇気は大きな揺れと共に意識を取り戻した。
目を開いて辺りを確認すると、いつの間にか僕をしばっていた縄がほどけていた。
蹴られて痛む足でよろよろと立ち上がると危うく転びそうになってしまった。しかしそれは痛みのせいではなく目が覚めたときの揺れがまだ続いていたからだった。
「まあまあ大きい地震だ」
揺れのことも気になったが勇気には二人に追いかけられていった理沙の方が心配だった。
一刻も早く彼女の様子を確かめたいと思った勇気は校舎の中へと急いだ。
しかしその時、勇気は誰かに呼び止められた気がして振り返った。
「主よ、お待ちしておりました」
不思議な恰好をした少女は微かに聞こえる声でそう言うと、霞みとなって姿を消した。
「今のは一体…………」
目の前で起きた不可解な事象に少しの間あっけにとられたが、優先すべきは理沙の方だと思いなおすと、再び歩みを進めた。
校舎の中は不自然なぐらいとても静まりかえっていた。
しかし、階段を降り進めたところでゴトゴトという物音が聞こえる階があった。
勇気は物音が聞こえた階に降りるとまっすぐ廊下を進んでいった。
すると突然、大きな棒が目の前に吹っ飛んできた。驚いた勇気は吹っ飛んだ棒をよく見ると、それがカメラの三脚だと分かった。
「これは優太が持ってた物だっ という事はこの近くにいるってことなんだ」
勇気が横を見るとそこには女子トイレがあり、三脚もそこから飛んできたのだと分かった。物音も中から聞こえているようで、勇気は嫌な予感がしたので急いで中に入った。
「理沙ちゃんッ!」
「ッッ ゆ゛う゛き゛ぃッ!!!」
理沙は優太の側にいた取り巻きの学生によって羽交い絞めににされていた。
理沙は必死にもがいて抵抗するが、取り巻きは理性を失い野獣のようになって、力と体格で無理矢理押さえつける。
彼女の髪はみだれ、服は半分脱がされていた。
「助けて!!!」
理沙の悲痛に満ちた助けを呼ぶ声を聞いて我に帰った勇気は、廊下に転がっていった三脚を持ってくるとそれで理沙の上に乗っかってる取り巻きの頭を殴った。
すると取り巻きの生徒は気を失ってバタリとその場で倒れた。
勇気に助けられて安心したせいか、羽月理沙は男子生徒から解放された瞬間にワンワンと泣き出してしまった。
なんと声をかければよいか分からなかったが、ひとまず彼女を起こそうと思った勇気は床に仰向けになっていた理沙の側に近づいた。
しかし理沙は勇気が体を持ち上げようとしたとき、勇気の胸に思いっきり頭突きをした。
「さわらないでッ」
彼女は物凄い形相で勇気のことを睨むが、相手が勇気だと分かるとおとなしくなった。
「…………ごめん、本当にごめん。理沙ちゃんが巻き込まれるなんて思わなくて」
「…………ううん、自分から突っ込んだんだから、勇気は悪くないのよ」
そう言うと彼女は勇気の胸に顔をうずめた。
「あいつら、絶対許さない……。私はなにも悪くないのに、本当に、絶対許さないんだからッ」
胸の中で彼女は泣きながら震えていた。
勇気はその彼女の姿が今までにないくらいとても弱弱しく見えた。
理沙を見ているうちに、勇気はだんだんと色々な事が許せなくなってきた。
優太を思った故こんなことになるまで彼を放っておいた自分が許せない。
理沙ちゃんをこんな可愛そうな姿にした優太が許せない。
勇気の心は後悔と激しい怒りの念によって支配された。
その頃窓の外では赤い星が次々と降り注ぎ、街をその火で燃やしていた。
―僕が優太の過去を知っていたから、変に同情していじめを許した。これは僕の偽善が招いた結果だ。すなわち僕のせいだ。だからケジメも僕がつけなきゃいけない―
「決別の時だ」
勇気は泣きじゃくる理沙を抱きながら決意を固めた。
そして隕石により二人はそのまま灰となった。
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