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第19話 魔法使いユタ

 魔法適性を調べた後にビアードに魔法を教えてもらった二人は、それぞれ二つの呪文を覚えた。


 クレアは日ごろからビアードの風の呪文を見ていたこともあり、呪文のイメージが簡単にできた。


「…………チ、チ、 チ○○○!!!」


 恥ずかしがりながらも式句を唱えると、彼女の体はふわりと浮かびあがった。そうして宙を二回ほど旋回してから優雅に彼女は着地してみせた。


「上手、上手! とても初めて風の魔法を使ったとは思えないよー。これならもう一つの魔法もすぐに出来るようになりそうだね」


「ほんとっ、やったねっ」


 褒められると彼女は可愛く歯をみせて笑った。


 ちなみに本来の飛行呪文は「チチンプイプイ」というのだが、ビアードはあえて短縮詠唱を行い、そのままクレアにこっそり覚えさせていた事は秘密だ。



 一方で、優太が使おうとしていた呪文は収納魔法(ストレージ)というものだった。

 それは亜空間を自由に開閉し、そこに武器や道具をしまっておいていつでも取り出せるといった非常に便利な魔法だった。


 しかしこれはビアードでも使えない魔法だったので、実際に手本を見せることが出来なかった。そのため優太はなかなかイメージがつかめずにいた。


 収納魔法と聞いたとき、最初に優太は引き出しのようなものをイメージした。しかしどの家にもあるような家具の引き出しとファンタジックな魔法のイメージが頭の中でかみ合わず、何度式句を唱えても成功することは無かった。


 その様子を見ていたビアードは、優太に魔法の幻想(イメージ)についてアドバイスをした。


「ユ、ユタ。イメージすることは大事だけど、もっと大事なのはその幻想(イメージ)を現実にする事だよ。ユタが今、頭の中で思い描いてる幻想(イメージ)が、ちゃんと現実になるって信じなきゃダメなんだ。君は自分のイメージをちゃんと信じられているかい?」


 そう言われ改めて考えなす。

 優太は理屈では魔法の引き出しを考えていたものの、そんなものあるわけがないと心のどこかで思っていたことに気が付いた。


「うーん、ちょっぴり信じられて無かったかもしれないな。今は収納魔法(ストレージ)を引き出しから出てくる風に考えていたんだけど、その考え方はもしかしたら俺には向いてないのかもしれない」


「そうか、ならもっと広く考えてみたらどうだい」


「広く?」


「収納魔法だけじゃなくて、何か魔法っぽい物でもさ……引き出しっていうのはいいイメージだと思うよ! でも、もっと単純に出し入れする感じのものでいいんだ。今まで見た物とかで何かないかい」


 ―魔法っぽいもの……―


 優太はこのツヴァイガーデンに来てから見たものを思い出そうとした。元いた世界よりもこっちの方が魔法の要素には満ち溢れていたからだ。


 そしてはッと思いつくと、イメージにピッタリなものを記憶から探り出した。


収納魔法(ストレージ)!」


 手を突き出し式句を唱えると、目の前にボヤッとした円状の影が現れた。試しに影の中に腕を突っ込み自分の上着を入れてみると、上着は影の中にある亜空間に収納され見事に収納魔法(ストレージ)の魔法が発動した事が分かった。


「ハッハー! やったぜ!」


「おおー、おめでとう! 一体どんなイメージを抱いたんだい」


 喜びながら収納魔法(ストレージ)から上着を取り出す優太にビアードは尋ねた。


「迷いの森を出るときに影の中を出入りする魔物にあったんだ。そいつの使ってたのが魔法だったのかは分からないけど、影鬼(シャドウデーモン)の技と、この魔法はきっと似ているだろうって思ったんだ」


「なるほどねー。考えたねっ」


 優太が収納魔法(ストレージ)を使えるようになったと知ると、先に魔法を習得していたクレアが駆け寄ってきた。


「やったねっ」


「ああ、ありがとう! …………うっ」


 その時、優太は胸の辺りから鋭い痛みを感じて身をよじるようにその場でもがいた。

 胸のあたりを苦しそうに抑え込む。


「急にどうしたの?!」


 クレアは心配してしゃがみ込んだ優太の背中をさすりながら優太の顔を覗き込む。


「すごい顔だよッ おじいさん、ユタの具合が悪そうなの」


「うん、やっぱりこうなってしまったか」


「え、それってどういう事なの?」


「うーん……ユタはね、迷いの森で生活していた間、ずっと魔力を使ってなかったんだよ。なのに魔力はどんどん増えていたから、そのせいで溜まり過ぎた魔力が魔法を使ったはずみで暴走してしまっているんだろうね」


 すると、ビアードは服の中から小さな木の入れ物を取り出した。

 入れ物の中には薬のようなものが入っていた。薬を取り出すと痛みに苦しむ優太を寝かせて、彼の口の中に薬を放りこんだ。


「少し苦いだろうけど、我慢して飲み込んでねー。それ、(ウォータス)


 ビアードは薬を無理矢理飲ませようとして水の下級呪文を唱えた。そして優太の口の中に大量の水が流れ込んできた。


「もががががっ」


 水魔法のせいで呼吸が出来なくなり、優太はあやうく溺れかけるところだった。あわてて起き上がると、激しくむせながらビアードに抗議する。


「溺れ死ぬってッ、いきなり何するんだよ」


「わはは、ユタは覚醒者(キャリアー)だから死なないくせにっ いきなり面白いこと言わないでよー」


「…………いや、マジなんだが」


 ―どこが面白かったんだよ……―


 陸の上で溺れるというバカげた死に方をしかけた優太は不機嫌になりながらせき込んでいた。


「大丈夫?」


「うん……ごほごほ」


 優太はクレアに背中をさすってもらっているうちに、だんだんと気分が落ち着いて来た。そしていつの間にか胸の痛みも綺麗になくなっていることに気が付いた。


「……痛くない」


「薬が効いたみたいだね あのまま魔力が暴走してたら危ないところだったよ」


「おかげで助かったようだけど、暴走したらどうなってたんだ」


「内側からドカンさ」


 その直後、優太の体にまたも不思議な事が起こった。


 突然、優太は頭皮に激しいかゆみを感じたのだ。


「なんだ? 急に頭がかゆいッ!」


 我慢できず優太が頭をかきむしると、ボロボロと優太の髪の毛がどんどん抜け落ちていった。


「やめてっ 髪の毛がなくなっちゃうよ」


「そんなこと言われたって……、痒いんだよッ」


 クレアが必死に止めるも優太はかきむしるのを止めなかった。そしてついには優太の頭から毛は消え去り、かきむしった後だけが残った。


 毛がなくなると痒みは嘘のように収まったが、自分の無残な姿になった頭に触れ、なぜこんなことをしてしまったのかと、優太は茫然自失していた。


 するとビアードが優太の側に来てこういった。


「大丈夫だよー、その頭でも十分魅力的さ」


「は? 喧嘩売ってるのか?」


 優太が拳を握りしめてビアードに見せつけると、ビアードは慌てて訂正した。


「ウソウソ、冗談だよー。君の頭はすぐ戻せるよ」


「本当?!」


「うん、ユタに飲ませた薬は強力なものだったからね、副作用もそこそこあるんだ」


 そう言うとビアードは服の中から植物の種を取り出した。それをなんと優太の頭にのせると、仕上げに地面から掘り起こした土を上からかぶせた。


「そーれ、元気に育つんだよ (ウォータス)


 優太の頭から滝のように水がこぼれ落ちてきた。その様子を見たクレアは我慢できずに笑い転げていた。


「おいッ……」


「まあまあ、見てなさいよ ちゃんと生えてくるからさ」


 そう言われて優太は渋々大人しくしていることにした。



 しばらく椅子に座って待っていると、頭の上で何かが動くような気がした。

 何が起こっているんだろうと思い上を向こうとするとビアードが止めてきた。


「じっとして、今が大事だから」


 優太には見えなかったが、頭の上で動いていたのは土の中の種だった。種子が超スピードで成長し、土から這い出ようとしていたのだ。


 そしてもぞもぞと小さな芽が出ると、それはあっという間に成長し、小さな黄色い花を咲かせた。


「わああ、可愛い!!」


「すごい気になるんだけどっ」


 しかしその花もすぐに枯れてしまった。だが花が枯れた瞬間に、優太の頭からぶわっと一気に、花と同じ色の髪が生えた。


 いきなり頭が重くなった感覚に違和感を覚えた優太は、頭を触って髪が生え戻ったことに気が付いた。


「やった!髪が生えた! けど、なんで金髪なんだ。これじゃあ校則違反だ」


 それを聞くとビアードは答えた。


「さっき君が飲んだ薬は、暴走した魔力を大幅に抑制するための薬だったんだ。髪の色が変わったのは副作用だね、効果が切れれば髪も元に戻るよ。けど今の君には薬で抑えられてない時の魔力は多すぎて扱え切れないんだよ」


「なんで俺にそんなにたくさんの魔力があるんだよ」


 するとビアードはこう言った。


「ユタは迷いの森でたくさん魔物を倒したんじゃないかい」


「ああー……、ゴブリンを毎日食べてたよ」


「毎日ね、そのとき青っぽい霧のような物が自分の体に吸い込まれていかなかったか」


「ああ。魔物を倒すと必ず出て、その霧を浴びると何故か力がみなぎる感覚があったんだ」


「それは魔力霧(アニマ)と呼ばれているんだ。魔物を倒して魔力霧(アニマ)を吸収すると、その分だけ魔力が成長する事が分かっている」


 優太はその話を聞くと、ゲームとかに出てくる経験値の様な物だなと納得した。


「それで俺はたくさん魔力霧(アニマ)を吸収しすぎたから、暴走したってわけか」


「まあ、…………そうだねっ」


 そう言った時のビアードの様子が少し変だったが、優太はひとまず納得した。


「あーあ、なんか気恥ずかしいな」


 そう言って優太は髪の毛を指でいじる。髪色がこんなにも急に変わるのは変な感じだ。しかもかなり派手な色だ。


「けどぜんぜん変じゃないよ」


「そう?」


「うん。黒髪も渋くてよかったけど、金髪のユタも素敵だと思うよ」


「ふーん…………そう」


 俺は庭の池を覗き込むと反射する自分の顔を確認した。


 そこには自分の顔が映っていたが、色々なことを経験した後だからか、以前とは雰囲気もだいぶ変わっていて、水面の中の派手な髪色になっていた自分はもはや別人としか思えなかった。


「ユタ、鏡なら家にあるよ」


「そうじゃな、ユタが鏡で顔を見るついでにわしらも休憩しようか」


「やったぁ」


 ―ユタ、か……―


 ユタというのは二人が優太の名前を間違えて言っている名前だった。

 何度か訂正したけど二人は優太の発音が言いにくいらしく、治らなかったので、優太も気にせずずっとそのまま放置していた。


 しかし、優太は二人に「ユタ」と呼ばれる内にその名前に慣れていた。


 ―容姿が変わった今、名前を変えるのも悪くないかもしれない―


 その時から優太は、この世界ではしばらくユタとして生きていこうと決意をした。

ご拝読いただきありがとうございます!


もしよろしければブクマや評価、感想やいいねなどいただけるととても励みになります!


この先もよろしくお願いいたします。



次の話は一旦時間が遡ります。

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