第18話 魔法の修行
数日後
ビアードの魔力が完全に回復し、魔法学の講義が始まった。
優太達はビアードが休んでいる間に、もらった魔法の本で勉強をして簡単な魔法は練習していた。
しかし優太は、誰でも使えるという下級呪文の火でさえも発動させる事はできなかった。
そもそも魔力というのがイマイチ分かっていないのだ。魔物を倒したときには何か感じた気もしたけど、それを魔法として応用するにはどうも感覚がつかめない。
下級呪文は生活呪文とも呼ばれ、クレアは元々いくつかの下級呪文を扱えていた。
「もっとお腹からぶわーって感じ!」
「ぶわーっ…………かぁ」
「ええっ、バカじゃないもんッ」
クレアのやや抽象的なアドバイスも参考にしつつ、練習を続けていたが、ビアードに教えてもらう日までに優太は結局、下級呪文をひとつも覚えられなかった。
新しい家の庭で魔法の修行をすることになり、二人がそこで待っていると、ビアードは不思議な道具を持ってきた。金属のようで箱で、彼は手で重そうに両手でかかえながら運んできた。
「これは測量器さ。測量魔法の儀式魔法をするための魔道具だよー。これで二人の魔法適性を知るんだよー」
地面に鉄の箱をおくとビアードはふーっと腰をおろした。ステータスという言葉には優太は聞き覚えがあった。ゲームなどでよく耳にする単語だ。
「おじいさん、儀式魔法って何? 私、下級呪文しか知らないよ」
「そうだったね。わしゃあ、説明をし忘れていたよー。ユタは魔法を使うのが初めてらしいし、最初からおさらいをしておこうか」
するとビアードはこの世界の魔法について優太たちに解説をしてくれた。
彼が手の平の上にして二人の前に出すと、突然、手の上に小さな火の玉が出現した。
「まず、これは下級呪文の火だよ。下級呪文は特別な適性がなくても使えたり、魔法の力が弱い呪文のことを言うんだ」
ビアードが手を握ると手の上にあった炎も、どこかに行ってしまった。
「じいさん、俺練習したんだけど下級呪文を使えなかったんだよね」
「大丈夫さ、誰だってすぐに出来るようになったりしないよー」
そう言われると優太は少し安心できた。
「そして、これから二人が覚えるのは上級呪文ってやつだよ。それっ楽チンチン!」
するとビアードの周りに風の魔力が集まり、ふわりとビアードの体が浮きあがった。
「あー、それって呪文だったんだー……」
クレアがとなりであきれた顔でそう呟いていた。空に上がっていったビアードには聞こえていなかったようだが、彼女はどうやら何か誤解していたらしい。
「今みたいに、上級呪文は魔力をこめて式句を唱えることで発動できるんだ。それとわしは風の上級呪文を扱えるけど、魔法適性がないから火の上級呪文は使えないのじゃ」
「なるほどな、その魔法適性を測る機械がその鉄の箱ってことなんだ」
優太がそう言うとビアードは飛行魔法を止めて地面に降りてきた。
「そのとおり! それじゃあ、どっちから調べたいー?」
「おじいさん、まだ儀式呪文のことを教えてもらってないよ」
「おっと、そうだったね。この場合は、本来長い詠唱や複数人の魔法使いがいないと使えない規模の大きな極大呪文を、こういう魔道具とか魔法陣とかの力の触媒で代用してるんだよ。けど、今の二人にはあまり関係ないから、儀式呪文は強力な呪文とだけ覚えとけばいいよー」
「うん、わかったよ」
クレアは明るくそう言うと、ちょこんと測量器の前に座った。
「私からやってみてもいい?」
「いいよ お先にどうぞ」
「では失礼して」
優太は下級呪文が使えなかったこともあり、クレアが先にやってくれると様子が見れるので、むしろ助かったと思っていた。
「へへへ、なんかワクワクする」
ビアードはクレアの反対側に座ると彼女に魔力をこめながら箱に触れるよう指示した。
「測量魔法」
ビアードが式句を唱えると一瞬だけ箱が光ったような気がしたが、それだけで他に変化は見られなかった。
しかしビアードにはどうやら彼女のステータスが知り得た様で、ピカッと光った後にビアードはにまっと笑うとこう言った。
「ほほう、クレアおめでとう! わしと同じ風魔法の適性があるよー」
「風かあ、水魔法がよかったけど悪くないかな」
「風の魔法は空も飛べるんだよー 呪文はねー……」
「大丈夫っ 知ってるから」
「そ、そうかい」
孫に思いもよらず冷たくあしらわれてしまったビアードは少し落ち込んでいるようだった。
「つ、次は俺だよな」
「うん、そうだね それじゃあ座って」
優太は言われた通りに座ったのだが、その後にどうすればいいか分からなくなった。
さっきクレアは魔力を込めながら測量器の箱に触れるよう言われていたが、優太には魔力の出し方が分からなかったからだ。
ビアードにその事を尋ねた。
「俺は魔力の出し方なんて、分からないんだけど」
「ああ、優太は触れるだけでいいよ。見えてないと思うけど、今も優太の体から魔力が漏れ出てるんだよー」
「ふーん、そうなのか」
自分の体から魔力が漏れ出てる。そんな実感は少しもなかったが、優太はビアードのことを信じると箱の上に手を置いた。
準備ができると、ビアードはまた同じように式句を唱え測量魔法を発動させた。
「ううーん、これは珍しいよー」
ビアードは毛だらけの顔をを中心によせ、なにやら考えるようにそう言った。
「ユタには空間魔法の適性があるね……! かなりレアな呪文だよ」
「空間魔法? それはどういう魔法なんだよ。強いのか?」
「うーん、戦闘向きってよりは便利系かも。別の空間から物を取り出したり、なんか結界を張ったりできるらしいね」
「はあ、そういう感じか。確かに便利そうだけど、なんかちょっと地味じゃね」
ゲームに出てくるような火や雷の派手な魔法を期待していた優太は、空間魔法がサポートよりの能力だと知るとがっくりと肩を落とした。
「まあそう気を落とさないで、まだ他の魔法の適性が見つかる可能性はぜんぜんあるんだし」
「へ、そうなの?」
「うん 魔法を使い続けていく内にねー、体に魔力が馴染んで他の呪文も使えるようになるんだよー」
ビアードがそう言うと、自分の魔法適性に落ち込んでいた二人は笑顔になった。そのうち自分の使いたい属性の魔法も使えるようになるかもしれないと分かったからだ。
「そっか、それなら悪くはないかも、早く魔法を教えてよ」
「へへへ、私も練習始めたいなー」
ビアードはやれやれといった様子で二人を眺めていた。
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