第17話 プレリュード
村に戻るとクレアと優太はビアードの元を尋ねた。
ビアードは自室で療養中だった。魔軍団長との戦いで負った怪我はだいぶ癒えていたが、魔力がまだ回復しきっておらず本調子ではなかったのだ。
「おや、もう帰って来たんだねー。 さてはユタ! 何かクレアを怒らせることをしたのかい。ダメだよ、クレアみたいな可愛い女の子とデートで気持ちが高ぶってしまうのは分かるけど、時には我慢するがわしのようなイケてる男子になるコツだよ? おもわず水浴びを覗きたくなる気持ちも分かるけどね」
「んんっ……いやっ、あれは事故だから!」
「ええ? 本当に覗いたのかい? やるなあ」
優太はビアードの冷やかしに必要以上に動揺していたが、母の事を考えていたクレアはそれどころではなかった。
「別に私たちデートしてたんじゃないよ。私がユタにお礼が言いたくて呼んだの。それよりおじいさんに聞きたいことがあるの」
そう言うとクレアは、優太が渡した金のロケットを取り出すと、ビアードにそれをみせた。
「これは! かなり前になくしたって言ってたけど、見つかったんだね よかった」
「うん。ユタが迷いの森の中で見つけてくれたんだって あ、ううん。見て欲しいのはこの中の絵なの」
「絵?」
クレアはロケットのネジを外すと、蓋を開き中の絵をみせた。ビアードは中を見ると一瞬だけ驚いたように見えたが、すぐに落ち着いた様子でこう言った。
「ロケットの中には小さな絵が入っていたんだねー。……美しい絵だね」
「ねえ、この絵の女の人、私のお母さんじゃないかって思うの おじいさん何かしらない?」
クレアはビアードにそう尋ねた。
「いや、わしゃあ、知らないよー ……クレアはなんでこの絵の女の人が君のお母さんだと思うんだい、ただの乳母かもしれないよ」
「だって……この人が赤ちゃんを見る目がとても優しい目をしているでしょ。きっと私を生んだお母さんじゃなきゃ、こんな目はできないよ」
するとクレアはさらにこういった。
「私、お母さんに会ってみたいんだ」
「……つらい事を言うようだけど、君の母はむかし君を川に捨てた人だよ。会っても拒絶されるだけかもしれないよ」
「それでも……、遠くから一目見るだけでもいいの。私はおじいさんがいたから、お父さんの事は割と気にならなかったのっ。でもたまにお母さんがいたらどんな感じなんだろうて思ったりしてさ。だから自分の目で確かめてみたいんだー」
クレアが自分の思いを打ち明けた。彼女が話している間、ビアードは真剣に話を聞いていた。
そしてビアードはクレアの強い思いを見て観念すると、長いため息をついた。
「いつか、こんな事を言い出す日が来るんじゃないかと思っていたよー……村を出てお母さんを探しに行きたい、そういう事だね」
「いいの……?」
「ふふ、ダメだよーっ」
「そ、そんなぁー」
するとビアードはベッドからゆっくりと身体を起こした。
そして本棚から一冊の本を取り出すと、それをクレアに渡した。
「おじいさん、それは何?」
「ん?呪文の教則本さ。今のままじゃ村の外になんて行かせられないよー。基本的な魔法は使えるようになってもらわなきゃ」
「おじいさん……ありがとうっ 大好き!」
ビアードは同じ本をもう一冊取り出すと優太にも渡した。
「君も魔法は覚える必要があるよ。いい機会だから一緒にやろう。ユタの中の魔力を制御出来るようにしとくんだ」
―俺も魔法が使えるようになる?―
魔法を使った自分を想像すると、優太はちょっと楽しい気持ちになった。
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