表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/129

第16話 金のロケット

「となり、座っていい?」


「うん……」


 しばらく優太とクレアは、思わず抱き合ってしまった恥ずかしさのあまり、まともに顔を見る事さえできなかった。


 クレアは大人しそうな見た目だけど、洞くつではひとりでビアードを助けに来たりと男勝りに活発な一面もある。

 しかし、後さき考えずにいきなり抱き着いてきたりと、お茶目で可愛い一面もある女の子なのだ。


 気まずい空気の中、なんとか会話を切り出そうとして優太はこういった。


「クレアってきれい好きなんだね……」


「え、どうして?」


「だってこの前も水浴びしてたじゃん」


 クレアはこくんと頷いた。そして川の方を眺めながらこう言った。


「あーうん、綺麗にするのは好きだよ」


「あれ、でも村にもお風呂はなかったけ」


「あるけど、たまにしか使えないでしょ。火の魔石は村にあまりなかったから」


「へえ、そういう物なんだ……」


 ―けど結局川で水浴びしてたら、お湯じゃないんだし火の魔石は関係ないのでは―


 優太はそんなことを思った。

 そんな心情を悟ってか、クレアは優太があまり納得していないのを感じ取るとこう語った。


「実はね、昔ね、無くし物をしちゃったんだっ。ほら、私達が初めてあったあたりの川で。だからもしかしたら見つからないかなって……」


 きっと迷いの森の境にある川の事だ。あそこはここより薄暗くて何かを落としたら見つけ出すのは大変そうだ。


「どんな物をなくしたんだ?」


「私がおじいさんに小さい時に拾われたのは知っているでしょ。そのとき私と一緒に木籠の中に入ってたもの」


「そうだったんだ……それは残念だったね」


 きっとクレアにとって思い入れのある大事な品だろう。横に座る彼女は、水面を悲しそうに見つめていた。


「でもいいんだっ どうせ私を捨てた親なんて、ろくな人じゃないよ。それに私にはおじいさんがいるからいいんだっ」


 クレアは心配させないように、無理に明るく見せていると思った。


 ビアードがクレアにとっていい父なのは確かだと思うが、それでも実の両親のことは気になるのだろう。また自分の本当の故郷も、彼女は知らないのだ。


「じいさんはいい人だよ 俺にもよくしてくれるし」


「へへへ、そうでしょ 私のおじいさんだから」


 彼女は嬉しそうにそう言った。

 その後、クレアは気になる事を言った。


「けど惜しかったなぁ……」


「何でだよ。じいさんが居るからいいって話じゃないのか」


「それはそうだけど……、川に落とした実の両親の形見なんだけどさ 黄金でできたロケットだったんだよっ 絶対すごい価値のものだったよ」


「ええ!!! 金のロケットだって?」


 そのアイテムには優太は聞き覚えがあった。なぜなら今までに恐怖を感じる度に、ロケットを眺めて勇気をもらっていたのだから。


 服の内側に首からかけてあったロケットを取り出すと、クレアにそれをみせた。


「ユタ…………それをどこで?」


「迷いの森で拾ったんだ。こいつには森で独りのとき、たくさん勇気をもらったよ」


 そしてクレアの手を取ると、彼女の手の上にそっとロケットを置いた。


「いいの?」


「もちろんさ、もともと君の物なんだろう」


「ありがとう……!ほんとに、ありがとう!」


クレアはロケットを受け取ると泣いて喜んでいた。


「…………という事は、中の絵の赤ん坊はクレアなのか?」


「中の絵って?」


 クレアが分からないようだったので、俺はロケットを受け取ると下部のネジを回し蓋を開けて中を彼女に見せた。

 ロケットの中にはドレス姿の女の人と彼女に抱かれる赤ん坊の姿があった。


「ロケットにこんな仕掛けがあったなんて知らなかった……とっても綺麗な人ね それに赤ちゃんを見る目がとっても優しそう」


 クレアはそう言うとしばらくうっとりとしたようにロケットの絵を眺めていた。


 その様子を優太は隣で見ていたが、中の絵を見て確信するとこう告げた。


「ほら、やっぱりその絵の赤ちゃんはクレアだよ」


「えっ?」


 するとクレアはハッと驚いたようにこちらをみた。


「だってそのロケットは、クレアの実の両親が持たせてくれた物なんだろ。……よく見れば、目の色とか似てるしさ。きっとそうだよ」


 今思えばきっとロケットが希少な金だというのも、クレアの両親が彼女の生活などを思って入れてくれた物なのかもしれない。


 優太がそういうと、クレアは再びロケットの絵を目を大きくしてじっと眺め出した。


「これが私……という事は、この人が私のお母さん?」


 そう呟くとクレアは絵を見たまま動かなくなってしまった。


「クレア?」


「私、お母さんに会ってみたい……!」


 何年も前に生き別れた実母と再会することなど難しいだろう。それは無茶だ。だからそのクレアの思いつきをユタは否定しようとした。しかしそう言った彼女の瞳からは、とても強い意志を感じた。とても真向から無理だなんて言えない。


「きっと出来るさ」


 クレアのためなら、俺もできる限りを手伝うつもりだ。


 その後二人は、ビアードがクレアの母の事を何か知っているかもしれないと思うと、彼がいる村へと戻っていった。

ご拝読いただきありがとうございます!


もしよろしければブクマや評価、感想やいいねなどいただけるととても励みになります!


この先もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ