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第14話 魔法の世界

「不死身だと? そんなことがあるものか」


 ヌダロスは二度も自分の攻撃を邪魔されたことで苛立っていた。そして瓦礫の上に立つ優太に近づいていく。


「だけど事実だ。俺は今までなんども死を経験してる」


「ほう ならこのヌダロスが、今一度確かめてくれるわッ」


 そう言うとヌダロスは斧を振りかぶり優太に突進を始めた。しかし優太は瓦礫の山から飛び降りると、持ち前の足の速さを活かして難なくヌダロスの突進を躱した。


「やった! ユタ凄い!」


「まあね、これぐらいだったら余裕さ。 おい、蜘蛛目野郎! 来いよ、のろまぁ」


 優太の言葉を聞くと、ヌダロスはますます苛立ちをみせながら再度突撃の姿勢をみせた。


「すばしっこい奴め……」


 姿勢を低くし四つの腕を地面につけて、まるで陸上のクラウチングスタートのような構えをみせた。あのままロケットのような凄い勢いで飛び出されたら流石に避けることはできないだろう。


 おそらくまた死んでも生き返る事が出来ると思うが、優太は突進の構えをみせたヌダロスの迫力に怯んだ。とてつもない恐怖を感じた優太は無駄だと分かりながらも背を向け逃げ出した。


「くそっ」


「はははは やはりなっ …………死ね」


 しかし、次の瞬間。ヌダロスは突進を出来ずに大きく態勢を崩した。しかもヌダロスから感じられた強烈な威圧感も、何だか勢いが弱くなっている気がしたのだ。


「しまった 魔力切れか」


 見るとヌダロスの体の一部が、徐々に元の石像の姿に戻りつつあった。


「おいじいさん、急にあいつの動きが止まったぞ 一体どうなったんだ」


魔軍団長(ゾディアック)の言った通りだよー 魔力が切れたんだ。わしらの勝ちだよ!」


 ヌダロスは既に体の半分以上が石像に戻っていた。


「…………良い。今回は見逃そう。但し次にあった時は、必ず貴様らを滅ぼしてくれるぞ」


 最後の力をふり絞りヌダロスは三人に向けてそう言い放つと、完全に石の姿に戻った。


「死んだのか?」


「いや、ちがうよ。そもそもこれは元々ただの石像なのじゃ」


「え? なわけないだろ ただの石像があんなに激しく動けるわけあるかよ」


「ユタ、話はあとだよー 早いとここの石像を壊してしまうんだ」


 そういうとビアードは自分のところにクレアを呼んだ。そして小さな紙を取り出すと何やら書き出しそれを彼女に渡した。


「いいかい 家にある金庫から魔法のスクロールをとってきてくれ それと途中で村長のところによってこの事を伝えて。これがすんだら村人全員で引っ越ししなきゃだから」


「でも、あのスクロールは大事なものだって」


「うん、でも今が使いどきだと思うんだよー さあ、お願い」


「うん! 分かった」


 そう言うとクレアは部屋から出て行った。


「魔法のスクロールって、何なんだよ」


 優太はビアードに尋ねた。


「スクロールには魔法使いが込めた魔法が刻まれている。家の金庫にあるスクロールの魔法なら、魔力の尽きたわしでもこの石像を破壊できるのじゃ」


「石像石像って…………こいつが魔軍団長(ゾディアック)じゃないのかよ」


「これは魏魂人(ドール)といって、奴が遠くからの監視用に使用していたただの魔道具だよー。魔軍団長(ゾディアック)級の魔力が込められてたから、監視以外にもいろいろ出来たんだろうねー。でも魔力切れを起こした今なら、すぐには戻って来れないはずなんだ。壊すなら今がチャンスさ」


魏魂人(ドール)とはつまり魔法で作る使い魔のような物だろうか。


―今のが魔軍団長(ゾディアック)の本体じゃなくて、ただの石人形だったていうのか……―


 優太はその事実に驚愕した。魏魂人(ドール)よりもヌダロス本人の方が強大で怖ろしい存在であることは、わざわざ聞かなくてもはっきりと分かることだった。



 そうこうしているうちに、クレアがスクロールを持って戻ってきた。ビアードはそれを受け取ると二人を下がらせてからスクロールに封印されていた魔法を発動させる。


「極大呪文:緋焔乃渦(インフレムギグ)


 式句と共にスクロールからでた爆炎はあっという間に石像を包み込むと、石像を一瞬で燃やしつくし灰にしてしまった。石像の炎が燃え尽きると、ビアードの手にしていたスクロールも粉塵となって消えていった。


「村長さんに伝えたよ みんなもう、村を出る準備始めてる」


「分かったよ、わしらも行こう! …………ユタ、君も一緒に来なさい。ユタには色々聞きたいことが出来た」


 ビアードがそう言うと優太は少し身構えた。ビアードの言いようから、今までにないような高圧的な印象を受けたのだ。こういう場合、人間何か裏がある。


「な、なんだよ……俺に聞きたいことがあるなら今聞けばいいじゃないか」


 するとビアードは少し考えてから優太にこう尋ねた。


「じゃあいうよ。さっきの戦いを見ていたから、わしゃあ、ユタが死んでも生き返れる特別な力を持つ人間だと分かっている。この世界では魔法以外でそういう特別な力を特殊能力(キャラ)というのじゃ」


「キャラ……?」


「うん、またの名を隠された力とも言うね。神様が地上の生き物の全てに等しく与えた力と言われているのだけど、危機的状況でしか力を発現させることができないから、運よく力を発現させられた人はとても少ないんだよー。それで、ユタはその力にいつ目覚めたんだい?」


 優太はとっくに今いる場所がかつていた地球とは別の世界だと感づいていた。そりゃあ、ゴブリンや魔軍団長(ゾディアック)ヌダロスのような魔物のいる世界だ。どんなに鈍くても気づく。


 しかし、自分が不死であるのに関しては、ここが地獄で繰り返される死は何かの罰なのかもしれない。という考えがこの時までわずかにあった。だがビアードの言葉を聞いてそうではないと知った。


「いや…………、たぶん最初っからだと思う。俺もよく分かってないんだ。迷いの森だったか、森の中でゴブリン達にずっと殺され続けて、三年経ってやっと出られたんだ」


「「ええ?!」」


 優太がそう言うとクレアとビアードの二人は同時に大きな声を出して驚いた。

 てっきりゴブリンに何度も殺されたことに驚いたのだと思ったが、そうではなかった。


「さ、三年?!! ユタ、ほんとにあの森の中で三年もいたの??!」


「え、うん……三年はちょっと長かったけど、意外とゴブリンて美味いんだぞ」


「いやいや、長すぎだよぉッ!! ユタ知らないの? 迷いの森で三年も過ごすってことは、外の世界―ツヴァイガーデンでは百年も経ってるってことなんだよ」


「……百年? は? なんでそうなるんだよ」


 クレアの言っていることがイマイチ理解できなかった俺はそう聞き返した。


「迷いの森は特別な場所で、時間の流れがおかしくなってるらしいんだ。魔力もぐちゃぐちゃになってるから、普通は三年も生きていられないって事なんだけど……」


 そう言うとクレアはビアードの方を見た。すると察したようにビアードが補足をした。


「たぶん、ユタの特殊能力(キャラ)が関係しているんだよ。死んでも生き返るんだし……」


 それを聞くとクレアは一応は納得したような態度をみせた。


「そういえばさっき気になることを言っていたよな 確かツヴァイ……」


 優太はふと尋ねた。


「そっか、百年前の人だから知らないのかもね」


 そう言うとクレアは優太に教えた。


「この世界はね、滅びゆく混沌の世界―ツヴァイガーデンって呼ばれてるの」


 優太は心の中でその名を復唱した。

 

 滅びゆく混沌というのは一体どういう事なのだろう。


ご拝読いただきありがとうございます!


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この先もよろしくお願いいたします。

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