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第12話 巨星

 優太はクレアを連れて来た道を駆け上った。背後からは今もまだ地響きのような音が続いていた。おそらく、まだ石像だったヌダロスが起き上がっている途中なのだろう。


 ビアードは優太たちを逃した後に魔法で飛び立ちヌダロスに近づくと、今度はまた別の魔法を発動させヌダロスの動きを遅くさせていた。逃げるための足止めをしていたのだ。そのおかげでなんとか洞窟の外まで出る事が出来たのだ。


「クレア、怪我はない?」


 優太はそう声をかけた。しかしクレアは繋いでいた手を振り返いすぐに洞くつの中へ戻ろうとした。慌ててそれを止めようとする。クレアの手を再び強く握りしめた。


「離して! 私、おじいさんの所へ戻らなくちゃ」


「ダメだ、あっちには化け物がいる。そんな危ない所に君を行かせられない」


「でも、まだおじいさんがいるのよ」


 クレアは焦りと不安が混ざった表情でそう言った。俺はクレアを安心させようとわざと明るくしゃべってみせた。


「ビアードならきっと大丈夫さ、だってあのじいさんは魔法使いだろう もしかしてあの魔軍団長(ゾディアック)とやらも倒せるんじゃないか」


「ううん、絶対無理」


 クレアはきっぱりと言い切った。そして足をとめ優太に向き合うとこう続けた。


「おじいさんは基本的に風の魔法しか使えないの ほら、見たでしょ 空を飛んだりするやつ」


 優太は村の牢屋に閉じ込められたときに、ビアードの体につかまり空を飛んで脱出したのを思い出した。


「他にもちょっとした魔法ならいくつか使えるらしいけど、風の魔法はそもそも戦い向きじゃないし、あんな強そうな魔物と戦える魔法は使えないよ」


「そうなのか……」


 もしかして何か勝ち目があるのかもしれないと思っていたがそうでなく、ビアードは命がけで俺たちを逃がしてくれたのだ。正確には孫のクレアを助けたかったのだろうが、結果に変わりはない。


 しかしこのままだと結局ビアードは助からず、あのヌダロスという怪物にやられてしまうだろう。ここまで戻った意味がない。


 そのとき、洞くつの中から大きな何かが崩れる音が聞こえた。


「ねえ、行かせてよ このままじゃおじいさんがッ」


 クレアは俺の手をほどこうと強く引っ張った。だが優太はクレアの手を逆にがっしりにぎるとこう言った。


「…………分かった。だけど、俺もいく。クレアは後ろから離れずついてくるんだ」



 二人は再び洞くつの底の生贄の部屋にもどる為、さっき必死になって駆け上った道を戻っていた。戻っている最中にも、何かが崩れる轟音が洞くつの中で響き続けていた。


「危ない! よけて!」


 突然、頭上から大きな岩が降って来た。優太はギリギリのところで落石をよける。

 クレアが教えてくれなかったら、あのまま頭にあたって大怪我をしていたところだ。


「大丈夫?!」


「た、助かったよ クレア」


「いいの、気にしないで」


 よけた拍子に尻餅をついた優太に、クレアが手を差し出した。優太はその手を掴んで立ち上がる。


 そのときに見えた彼女の表情がどことなく曇ったように見えた。


「やっぱり不安なのか?」


「うん……」


「大丈夫さ、……あのじいさんなら簡単にやられはしない」


「そ、そうだねっ」


 しかしその直後、二人は部屋の方から老人の悲鳴のようなものを聞いた。


「今の声は……!」


 クレアはその声をきくと一気に青ざめた。そして地下まで一目散にかけて行った。優太も急いで後を追う。


「クレアっ 待てよっ」


 頭上からは落石が降ってくるが彼女は気にもとめずどんどん洞くつを下って行った。


「くっ……」


 突如一際大きな岩が二人の間に落ちてきた。幸いに優太に直撃することはなかったが、そのせいでクレアと別れてしまった。


「私、先にいくねっ」


「なっ、危険だ! クレアッ?」


 優太の制止も聞かず焦るクレアは一人でビアードの元へとすすんだ。



 クレアはビアードとの間に血のつながりは無かった。

 まだ彼女が母親の乳を吸っているような幼い頃に、グロッチ村の側の小さな川(ちょうど迷いの森の境目、優太とはじめて出会った場所の辺り)で、木の網かごに入れられ川辺に流れ着いているところをビアードに拾われたのだ。


 血縁ではなかったが、ビアードは実の孫のように深い愛情をもって大事にクレアを育てた。またクレアにとっても実の親の顔など知らなかったため、ビアードが唯一の祖父であり父であった。


「おじいさんっ」


 クレアが下の部屋の戻るとたくさんいた村人たちは既に逃げ出した後で、ビアードが一人ヌダロスと対峙していた。しかしだんだんと魔法の効果が弱まっているようで、ヌダロスの拘束は少しずつだが解け始めていた。


「クレア?! 今すぐ戻りなさい ここは危険なんだよ」


「分かってる だからおじいさんも一緒に……」


「ダメだよっ 魔法をかけているから、ここから離れることはできないんじゃ。だけど……もうそれも限界が近いみたいなんだ。さあ、早く戻ってっ」


「おじいさんも一緒じゃないといやだよ」


「クレア……わしゃあ、君には生きて幸せになってほしいんじゃ その為ならわしゃあ、自分の命なんて惜しくはないんじゃよ」


「でもっ、おじいさんがいないと、幸せになんてなれないよーっ!」


 クレアはビアードに駆け寄ると彼の服をつかんだ。


「お家に帰ろうよ」


 だがしかし、魔法の使えないクレアには分からなかったが、まさにその瞬間にビアードの魔法の効果が切れてヌダロスが完全に動きだした。風の鎖が形を維持することができなくなって、そよ風となって霧散してしまった。


 ヌダロスが巨体を起こし手に持った嘴の形をした大斧をゆっくりと振り下ろした。大斧の速さは遅かったが、ビアードにしがみついていたクレアはまだ気づいていない。


「つ、つかまって!」


 ビアードはクレアを守るように抱えると、残された僅かな魔力で空をとんで大斧をよけた。

 ヌダロスの大斧は地面に当たると岩のかけらをまき散らしながら、大きな亀裂を作った。


「今宵の供物は、お前たち二人でよいのか……」

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