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第127話 記憶の膿

 授業の間。退屈だった優太は、今日もぼんやりと窓を眺めていた。

 教室の中で、自分の席は窓際の一番後ろ。効率よく()()するには最強のベストプレイスだ。


 すると、とつぜん頭頂部に衝撃が走る。


「いたっ」


「コラっ いくら成績優秀だからってその授業態度は感心しないぞ」


「す、すみません」


 よそ見をしていた優太は授業担当の教師に出席簿で頭を叩かれてしまった。こんな古風な体罰も逆に珍しいっつの。


 すると優太の周りの生徒たちは、それを見ておかしくなり笑いだした。


「ははは 会長ったら」


「へぇーそういう所もあるんですね!」


 優太を中心に教室は和気あいあいとした空気に包まれた。


「アハは…、すみません」


 彼らの異常なフレンドリーさに優太はどうすればいいか分からず、ただ頬を引きつらせながら苦笑いをしていた。



 あの夜から、俺は今いるこの世界に対しさらなる強い違和感を感じるようになっていた。


 一つ目がゴミ生徒共が必要以上に馴れ馴れしいことだ。

 俺の記憶の中では、ここまで彼らとの心の距離は近くなかった。確かに優秀のうえ慕われている生徒会長ではあるが、俺自身がそれを望んでいない……はず。


 二つ目は生徒名簿に勇気アラタの名前が無かった事だ。

 勇気が目の前から消失した翌日、俺は彼の名前を調べた。しかし、そんなモノは最初から無かった事になっていた。勇気の叔母が暮らす家も訊ねたが、アラタという少年の親戚はいないという事だった。



 賢い優太はすでに自分の記憶と現実の世界との間にズレが生じている事に気づいていた。


 ―どちらかが間違っているんだ。現実にいない人間を妄想するなんて、俺の頭はどうにかなってしまったのか。 いや、そうではない。勇気アラタは確実に存在したのだ。だとすればこの世界がおかしいのか?

 でもそんな事って、あり得るのか?―



 そして、もう一つ変わった事がある。それは時々、自分のいるべき場所が、ここではない他の世界なのではないかという強い気持ちを感じる事だ。


 そんな時は、優太はぼーと空を見上げた。

 するとどこにあるかも分からない別世界の記憶(イメージ)が、ふっと湧いて出てくるような気がするのだった。


 ―とにかく、俺には失われた記憶がある。それを取り戻す必要があるな―


 優太は行動を開始した。



 ―といっても、何から始めればいいのやら―


 正直、優太は途方に暮れていた。


 生徒会の仕事が長引き、辺りはすっかり暮れてしまっている。夜の冷たい空気が肌をかすめる。

 今から家に帰るのも遅くなってしまうし、今日も隠れ家で寝泊まりする予定だった。


 優太は自分と世界の事や委員会の仕事の事を考えながら、遮断器が上がるのを待っていた。


 だがその時、優太はとても奇妙なものを目にした。


「きひっ」


「ん、なんだ?」


 優太の背後をナニカが横切った。猫、かとも思ったがそれにしてはやけに大きい。


 ―蛇?いや、狸かな―


 都会に野生動物が出るなど珍しい。気になった優太はナニカの後を追いかける事にした。


 線路沿いの真っ暗な道のりを進み、袋小路までその奇妙な動物を追いかけ続けた。


 優太はスマホのライトを点灯した。するとそこに立っていたのは、小さな子供の背丈ほどの醜い肌を持つ角の生えた小鬼の姿だった。西洋風にいうならゴブリンとでもいうのだろう。


 優太はゴブリンの姿を見ると底知れぬ恐怖を感じた。まるで身体がその感情を覚えているかのようだ。がくがくと膝が震えて止まらない。


 そしてゴブリンは追ってきた優太に気づくと、にたりと気持ち悪い笑顔を浮かべた。そして両手をかかげておそいかかってきた。


「ギャギャッ」


「うわぁぁっ」


 優太はとっさに右手を前に突き出した。そして本人の知らず知らずのうちに、自然と口は動いていた。


超火炎(エルフレム)!」


 すると、優太の前に出現した高熱の炎はゴブリンの身体を焼き尽くした。


「うわっ 一体、なにが起きたんだ!?」


 優太は急に立ち昇った炎をあっけとられながら見つめていた。


「気持ち悪い子供?いや、人じゃなかった。化け物が襲い掛かってきたと思ったら急に燃えだして……もしやこの炎は俺がやった事なのか?」


 その直後、優太は激しい頭痛に襲われた。


 ―そうだ。これは魔法だ。目の前の動物は小鬼(ゴブリン)。コイツには何度も殺されたんだった―


 そして優太は、記憶を取り戻した。


「そうだ。俺は優太じゃなかった。俺の名前はもうユタなんだ」

ご拝読いただきありがとうございます!


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