第125話 幻想と妄想
見覚えのある道。
見覚えのある建物。
そんな記憶の中の光景を辿りながら優太はふらりふらりと歩き続けた。
―どうしていきなり? テレポレアで飛んだ? それとも害がなにか関係してるのか?―
色々考えようとしたが、どうにもこうにも頭がスッキリとせず結論に至らなかった。
そうして、気づけば自分の家の前まで来てしまっていた。家というのは地球の富士見優太が住んでいたボロアパートの事だ。
優太はアパートの階段を登り部屋の前まで来た。
―そもそも、ここは本当に地球なのか?ありえないじゃないか。こんな、いきなり、戻って来るなんて―
優太は肩から掛けてあったスポーツバックの中から家の鍵を取りだした。今の自分の服装は迷いの森で遭難した頃と同じになっていた。
髪の毛も金髪ではなく黒のままだ。身体には戦闘の傷など一つもなく、まるで異世界での冒険など初めから何もなかったよう。
「…………ただいま」
人の気配はない。だがさっきまで誰かが酒盛りをしていたようで、部屋の明かりをつけるとそこら中に発泡酒の空き缶が散らばっていた。部屋の中には強いアルコールと精液の匂いが充満していた。
十中八九あのクソ野郎だ。
「チッ こんな世界なんて」
会社の経営がご破算になった父親が今も遊び歩いて居られる理由は、たくさんいる仲のいい女たちの紐になっているからだった。
こんな場所には一秒もいたくない。
それに、父親と鉢合わせになりたくなかった優太は、金と他に必要そうな物を手に入れるとそこから立ち去った。
優太はいくつかの隠れ家をもっていた。主にばれないように勇気をいじめる為の場所だ。
そのうちの一つの誰も立ち入らない廃倉庫で今夜は眠る事にした。
「…………テレポレア!」
式句を唱えた。しかし魔法は発動しなかった。
「っ 何だってんだよぉ…………」
その夜、優太は久しぶりに一人で眠った。泣きながら眠った。