第124話 地獄の窯が開いた
「ここよ」
そうしてミュウモが案内した場所は、スラム街からソルドの市街区に出られる道の一つだった。
「この小路からは最短で商店街まで行けるの。でも神隠しが起こるようになってから封鎖されたんだ」
この小路は古い建物に挟まれた場所で、曲がりくねりながらの上り坂になっていた。どこからかかび臭い匂いが漂ってくる。
「人が消えるなんて危険があるのに、なんで孤児たちはわざわざこの道に来るんだよ」
「私も止めてるよ。でもさっきも言ったけど、ソルドに出る他の通路よりここが格段に近くて便利なんだ」
孤児だけでなくスラムの人間は、日々の様々な稼ぎの為に頻繁に街出る必要があったのだ。
クレアは周囲をみわたした。
「確かにちょっと不気味な所だよねっ。でもどうして人が居なくなっちゃうんだろ」
「えっと、何か秘密があるはずなんだぞ。そうだな。例えばどこかに秘密の隠れ道があるとか?」
「そんなのどこにあるのさ」
「待って。おいチニイ! この辺りにおかしな所が無いか探してくれない?」
そう言うとネーダは兜の中にいたシマシマリスのチニイを外に出した。動物の野生の勘を捜索に利用しようと思ったのだ。
「きゅい!」
「頼んだよ」
チニイは鼻をひくひくさせながら路地の端の方を素早く走っていった。
もし何か異変を見つけたら、チニイは真っ先に知らせてくれるはずだ。
「よし、ボクたちもこの場所の調査をするんだぞ」
「うんっ あれ、ちょっと待って」
「クレア? どうしたの」
「ユタはどこ?」
―ついさっきまで、俺はクレア達とスラム街で失踪事件の調査をしていたはずだったのに―
とつぜん、目の前に霧のようなモヤがかかったと思ったら、次の瞬間、みんなが側にいなかった。
どうやら自分だけ全く別の場所に移動してしまったようなのだ。肌に触れる空気が先ほどよりぬんめりとして暖かい。
「気づかない内に、寝ぼけてテレポレアを使っちゃったかな?」
ユタは目に擦りまとわりつく霧を払いとると、周りの様子を確認して自分が誤ってどこに瞬間移動してしまったかを確認しようとした。
そして絶句した。
目の前では石油を固めて舗装された道路の上を銀色の鎧をまとった馬車がいくつも交差していた。街の建物は木や単純な石ではなく鉄格子に特殊な粘土を流して作られており、天まで届くような塔がそこら中に立ち並んでいた。
戻って来てしまった……。
富士見優太は、ただその場で立ちすくんでいた。
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