第123話 孤児たちの家
ユタ達は女の子の案内で、城下町ソルドのスラム街へとやって来た。憲兵もここまではやって来れない。
そこは掘っ立て小屋が立ち並び、怪し気な取引が頻繁に行われるような場所だった。
「私? 名前はミュウモ。見ての通り私は孤児だけど、ここでの暮らしには充分まんぞくしてるの!」
スラム街では盗賊ギルドという組織が色んな事を仕切っているようだった。おそらく冒険者ギルドの盗賊版だろう。
スラム街の入り口でも黒頭巾の男がスラムから出入りする人間を見張っていた。
彼は盗賊団の一員で、どう見ても怪しいユタ達に対しても警戒を示したが、ミュウモの連れだと分かると黙ってスラム街の中に通してくれた。
「ここなら安全。適当にくつろぎなさい」
ミュウモはユタ達を自分の家まで招待した。
家は風通しの良い平屋で敷地もそこまで広くは無い。だが住んでいるのはミュウモだけではなく彼女より小さな子供たちが一緒にたくさん暮らしていた。その中には赤ん坊まで居る。
「この子供たちは?」
「みんな色んな理由で住む場所をなくしちゃった子たち。私が面倒見てるんだ」
「でもお前だって、まだ子供じゃないか」
「私は、みんなより年上よ? 子供じゃないもん。それに、盗賊ギルドの人たちが色々助けてくれるから、へっちゃらよ!」
ミュウモはそう言うと、自分の元に歩いて来た三歳くらいの幼児の頭を優しくなでた。
「それにみんないい子だしね。しっかりしてる子ばかり」
彼女らは孤児という境遇ながらたくましく生きている。その事がひしひしと伝わって来た。
「ミュウモ、何か私たちにも手伝えることはない?」
力になりたいと思ったクレアは、ミュウモにそう言った。
「そうだぞ! 助けてくれた恩もあるしね」
「いいの? やっぱり、あなた達いいひとね!」
その後、三人はミュウモから手ほどきを受けながらも孤児たちの世話をした。溜まっていた洗濯物を片付けたり、子供たちの遊び相手になったり。ユタはというと自慢の料理を振舞った。
そうして気づけば時間は過ぎ、日も暮れかかっていた。
「はぁ、ボクもうへとへとだよ」
「ありがとう! みんなのおかげで、今日はとっても大助かり」
「へへ、お安い御用だぞ」
小さな子どもたちは、みんなもう既に眠りについていた。
だがそこで、クレアは布団の数が余っている事に気づいた。
「あれ? ミュウモー。なんか布団が三つ余ってるけどー?」
「ヒーフーミー…… 嘘、そんなッ」
「どうしたの?」
その時、ドタドタという騒がしい足音と共に、二人の男の子が家の中に入って来た。
「あッ! あなた達今までどこに行ってたの!もうとっくに寝る時間は過ぎてるのよ。
…………もう一人は?」
「大変だよ姉ちゃん。また、いなくなっちゃったんだ」
「本当??」
男の子の言葉を聞くと、ミュウモは表情に絶望を露わにさせた。
「ぐすっ、おれたちが目を離した隙に消えちゃって……それで今まで探してたんだい」
「……そうなのね。分かったから、あなたたちはもう寝なさい」
「うん……」
ユタ達はミュウモと子供たちのやり取りを見て、彼らに起こっている事象は只事ではないと察した。
「いったい何があったんだ? ああ、どうやら一人いなくなったとか言ってたよな。迷子だったら俺たちも手分けして探して……」
「ううん、違う。あなたたちは信じられないかもだけど、いなくなった子は神隠しにあったのよ」
「神隠しだって?!」
ミュウモはこのスラム街で起きている奇妙な現象についてユタ達に説明をした。
彼女の話によると、数年前からスラムで暮らす人間が帰って来なくなる事件が度々起こり続けていたそうだ。
しかしスラムの人間など国の上層部にとってはいなくなっても困らないので、長い間この問題は放置され続けて来たのだ。
この話を聞いたユタ達は、とある既視感を覚えた。
「あのさ、これってもしかして、カーダさんの言ってた人がいなくなる害の事なんじゃないかな?」
「うんうん!ボクもちょうどそう思ってたんだぞ」
「ふーん。偶然だけど結果オーライだな」
三人の意見がまとまると、ユタはミュウモに自分たちがノルデリアを訪れた理由を明かした。
「というわけで、俺達は人が消える現象の調査に来たんだ。知ってる事があったら教えてくれよ。 何か役に立てるかもしれない」
「勇者のお使い、そうだったんだ……。分かったっ、案内するよ! だからお願い、助けて!」
そしてミュウモは、孤児が消えたという禁じられた場所までユタ達を案内した。