第121話 王都ノルデリア
次の日、ユタ達はべリスゼンの街から旅立つ事になった。
ギルドには街に出た不審な人影の正体はゴブリンの物では無かったと報告した。
「皆さん、私のわがままを聞いてくれてありがとうございました。これで街のみんなも安心して暮らせます!」
「ああ、気にするなよ」
ユタはギルド職員から少量の報酬金を受け取った。
「ボクびっくりしたんだぞ。まさかユタが、昨日のうちに一人で解決しちゃってたなんて!さすがだぞ」
「ま、まぁな! 俺にかかればこのくらい……」
実際は私用を済ませていただけだ。だがキルシュの名誉の為にも、時には嘘をつくことも必要なのだ。
「でもさー、人影の正体が無害なアストラル系の魔物だったって本当なの?」
「本当だよ! だってとっても可愛い女の子の幽霊だったんだから!」
そういう設定である。
「とっても可愛い~? ええ~っ、嘘ぉ…… やっぱり、ちゃんと倒しておいた方がいいかも」
「わわ! 大丈夫だって!」
危うくクレアがボロ小屋まで戻ろうとしていたが、ユタはなんとか彼女をなだめた。
「ふふ、皆さんとっても仲良しなんですね」
「ははは、どうも……」
「どうか、良い旅を!」
べリスゼンを出れば王都ノルデリアまではもう目と鼻の先だ。
一日も歩くと、ノルデリアを囲む最初の城下町ソルドが見えて来た。ソルドは兵士や町人の住む町で、さらに上の階層の城下町シルドには王侯貴族が暮らしている。
「そこの冒険者。止まれ!」
ソルドの城門にたどり着いたユタ達は、憲兵に声をかけられた。おそらく検問だろう。
「ボクたち、この国に入りたいんです」
「ふむ。入国目的は?」
「えっと、兄様からの依頼で、王都の調査だぞ」
「は? 何を言っている。お前の兄というのは一体だれだ」
「ふふん。あの英雄カーダ兄様さ!」
「なに? この大ウソつきめ! お前のようなちんちくりんが英雄様の弟なわけないだろ!」
「ナンだとォー!!! このッこんのー!」
馬鹿にされたネーダはそのまま憲兵に殴りかかりそうだった為、ユタはあわてて彼女を押さえた。
―はあ、ネーダは小さな旅人の団長だけど、もう二度と交渉事は任せられないな―
(「おい、ネーダ。カーダからなんか貰ってただろ?」)
(「え?なんの事」)
(「ほらアレだよ。勇者からの任務依頼証明てきな…………」)
二人がこそこそと相談している最中も憲兵は怪し気な三人をじろりと睨みつけていた。
「うむ? よく見たらお前たち、旅の荷物を何一つ持っていないじゃないか! ますます怪しい……」
「ああ。それは俺の空間魔法ですべて収納しているだけだよ」
「また嘘か! 三人分の荷物を全部しまえるほどの容量を持つ空間魔法使いなど聞いた事もないわ!」
「嘘じゃないって」
「だまれ! こうなったら三人まとめて牢屋にぶち込んでくれるわ」
憲兵はそう言うといきなりユタに殴りかかった。
「うわぁ」
ユタは顔を殴られて地面に倒れた。それを見て検問を待っていた他の入城者も何事かと騒ぎ出した。
「くっ」
「コイツ!」
「待て、憲兵と争うのは流石にまずいだろ」
「っ……そうか」
しかし憲兵は容赦なくユタ達を捕縛しようとしてくる。
「さあ、もう少し痛めつける必要がありそうだな。 んっ なんだ女」
憲兵が再び拳を振り上げたとき、クレアが間に割って入り憲兵の腕を掴んだ。
「ユタを殴るなんて、許せない!」
「くそ、なんて馬鹿力なんだこの女ッ ぐあああ!」
クレアに腕をわしづかみにされた憲兵はとても痛がっているようだった。
「クソ、仕方ない。逃げるぞ!」
もうすでに事は起こった。ユタ達はこんなところで捕まるわけにもいかないので、城門をすり抜けるとノルデリアの街に不正入国したのだった。