第115話 特別な力
半年が過ぎ、勇気は最初は嫌いだった城での生活にもだんだんと慣れてきた。
城の住人は少しずつ人間と違った異形な姿をしていたが、みんな自分を王と呼び慕ってくれ、とても優しく接してくれたのも新しい環境に順応できた理由だった。
「あら王様、どうかなさったんですか? まだ昼御飯までには時間がありますよ」
城の厨房に忍び込んだ勇気に背後からそう声をかけて来たのは、料理番のラルゴおばさんだ。種族はリザードマンで、手にはでかい包丁を持っていた。
「まさか、また食料を盗み出そうとしてたんじゃありませんよねえ」
「い、いやだなぁラルゴおばさん。その、ただ道に迷ってただけだって! ほら、この城は広いからさ」
「あら王様、もしかしてまだご自分の寝室まで戻れないんで?」
「あ~。うん! 実はそうなんだ」
勇気はラルゴおばさんと会話してる間、部屋の奥に潜んでいたアルン達に目で合図を送っていた。
合図を受け取り勇気がラルゴおばさんの気を引いている内に、アルン、タムリン、ジェリーの二人と一匹は厨房の貯蔵庫からパンやお菓子を運びだした。
(「はやくはやく!」)
(「気づかれない内に全部もってっちまうぞ」)
しかし二箱目を運びだしている時に、ラルゴおばさんが勇気の目の不自然な動きに気づき後ろを振り向いてしまった。
「あ!! アンタたち! またヤッタね!」
「まずいッ 逃げろ!」
アルンが言葉を皮切りに、三人と一匹はバラバラになって逃げだした。アルンたちは厨房の裏口から走って一目散に逃げ出したようだった。
「やべっ バレた」
作戦が失敗すると、ラルゴおばさんの手をすり抜けながら、なんとか窓から飛び出した。
「飛行呪文、チチンプイプイ!」
勇気が式句を唱えるとその身体は宙に浮かんだ。
「王様ー! 戻ってきなさーい!」
しかし勇気はすでにラルゴの声の届かない高さまで飛んでいた。
「まったく、仲がいいのはいい事だけど、素行の悪さは問題ね」
そう悪態をつくとラルゴは昼食の支度に戻っていった。
勇気は城の中庭で、戦利品を抱えたアルン達と合流した。勇気とアルン達はいつもその場所を待ち合わせに使っていた。大きな城の庭は当然大きいので、大人たちにこの場所を知られることは無かった。
「ユーキ!やったな! たんまり頂いたぜ!」
「うん」
勇気は少し照れながら、突き出された拳に合わせフィストバンプをした。
「でもさ、もうちょっと取ってこれそうじゃなかった?」
「まーなー。ユーキが手伝ってくれて悪戯もレベルアップしたけど、あのババァも余計に勘が鋭くなったよな」
「こらっ ゥババァッ! なんて汚い言葉使っちゃいけません!」
「はあ~やれやれ、まったくタムリンは細かい事を気にすんだな」
タムリンは頬っぺたを膨らませながらぐずぐず不平を言うアルンに対し怒っていたが、突然かおをしかめると膝を抱えてしゃがみこんでしまった。
「お、おい?」
アルンが駆け寄るとタムリンの膝には青痣が出来てしまっていた。ジェリーも心配そうに覗き込んでいた。
「さっき怪我しちゃってたみたいね。大丈夫だと思ったんだけど」
「タムリン!ここには治療の道具なんてないし……おれ、城まで取って来る!」
しかし勇気は慌てて戻ろうとするアルンにこう言った。
「大丈夫だよ。ぼくが直せるから」
「えっ お前ほんとかよ!」
勇気はタムリンの側にしゃがむと、怪我した膝の上に触れずに右手を被せるように乗せ式句を唱えた。
「超癒霊」
勇気の唱えた回復呪文により、タムリンの青痣は綺麗さっぱり無くなった。痛みの消えた足を嬉しそうに動かしながらタムリンは勇気に礼を言った。
「ありがとうユーキ! さすが魔王様ね」
「ああすげえよ! 空も飛べるし治癒も出来て、お前は何でも出来るんだな」
「ううん、そんなことないよ。ぼくも役に立ててうれしい」
言葉では謙遜をしていたが、勇気はこの半年で実に様々な力が自分に身に付いた事を実感していた。それは元の世界ならばスーパーヒーローの持つ力と言って過言でなかった。
自分には本当に特別な素質があるのかもしれない。勇気はシャドウハートの言ったことを信じ始めていた。
また何より、力を得たことで、仲間からの信頼をも得たことが勇気にとって嬉しい事だった。なので勇気はアルンたちにこう言った。
「ねえ、前にもっと広い場所を冒険してみたいって言ってたよね」
「ああ。この庭も十分広いけど、冒険しつくしたからな。一度城の外に出てみたいぜ」
「それなんだけどさ、この前つかえるようになったばかりの呪文があって…………、それなら外に出られると思うんだ」
「ええっ本当か! でかしたぜユーキ!」
勇気の思った通りアルンはとても喜んでくれたようだった。力づよく肩を組まれながら褒められて勇気も嬉しくなった。
しかしタムリンはあまりよく思っていないようだった。
「ダメよ。ハート様がお許しにならないわ。外に出てはいけないって言ってたじゃない」
「黙って出てけばいいだろ? なあユーキ」
「うん。すぐ戻れば大丈夫だって」
その後二人に説得され、タムリンも城の外に冒険に出かける事に賛成した。
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