第112話 異世界召喚
突如降り注いだ隕石の炎に焼かれて確かに死んだはずだった。
しかし、それでもなお自分の意識が未だ存在している事に、勇気アラタは混乱していた。
「ぼくは死んでしまったはずなのに、いったいどうなってしまったんだ?」
勇気は辺りを見渡した。ここには何もない。
そして自分の居る場所がとても異常な空間だという事に気づいた。身体に全く重さを感じないのだ。幽霊にでもなってしまったようだ。
「ここはどこだろう」
周りはふんわりとした霧のようなモヤで満たされていた。そしてその空間の中では、地場の強い森の中で方位磁石が効かなくなるように、自分の方向感覚が狂ってしまう事がしょっちゅうあった。霧の中を右に進んでいたつもりが、いつのまにか何かの壁をよじ登っていたという具合にだ。
このままここで永遠にさまよい続けるのか。そんな不安感に襲われた時、勇気の頭の中に突如声が聞こえて来た。
(「主よ、目の前の霧に惑わされてはいけません。それらには意思があり、あなたをそこから逃がさないように邪魔しているのです」)
勇気は声に聞き覚えがあった。学校の屋上であった不思議な恰好をした少女の声と同じだった。
「霧に意思があるって? だったらどうすればここから出られるの?出口はどこ?」
(「主の進む道は、主が決めるのです…………」)
それきり、少女の声は聞こえなくなってしまった。
「ちぇー。教えてくれたっていいじゃないか」
勇気は煩わしい言い方をする少女をいじわるだと思った。しかし彼女の言葉を思い返してふとある事に気が付いた。
「いや待てよ? 道は自分で決めるか…………もしかしてっ」
すると勇気は目を閉じて、頭の中でこの空間からの出口を想像してみた。自分でも可笑しい事をしてると思ったが、その時はそうするべきだと思ったのだ。
「なんてね、さすがにバカげてるよなぁ………」
「…………」
「……え」
目を開けた勇気は目の前に扉が出現していた事に驚いた。自分でも信じられずに、しばらく何度も目を開けたり閉じたりを繰り返した。
「嘘だろ……どういうことだ?」
扉は実際に触れることができた。勇気は頭の中で自宅の扉をイメージしたので、扉のデザインも丸っきりそれだった。
「どっきり……じゃないよな」
勇気は恐る恐るノブを握った。回すと扉は開いた。
そして気が付くと、勇気はまた別の場所にいた。
西洋の歴史的な教会にあるようなアーチ状の柱、豪華な装飾の施された壁や高い天井。そこはまるで、おとぎ話に出てくるような城そのものだった。
勇気が城の内装に見とれていると、向こうから誰かが近づいて来た。勇気はすぐにさっきの少女だと分かった。
少女は黒いゴスロリ風のドレスを着ていた。そして星のマークが入ったとても大きな帽子をかぶっていた。シルエットだけだと、まるでシイタケの化け物が歩いているようだった。
少女は勇気の前まで来ると、ドレスのすそを持って優雅にお辞儀をした。
勇気もあわてて会釈で返す。
「こんにちわ、勇気アラタさん。私の名前はシャドウ・ハート。この城の管理者ですの」
「管理者さん? という事は、ハートさんが王様?」
「いいえ。確かに、今日までは私がこの城の頂点として全てを管理していました。しかし今からはあなた様がこの城の主です」
するとシャドウハートと名乗る少女は、勇気に敬意を示すように跪いた。
勇気はただ困惑するばかりだった。
しばらく勇気の話が続きます。