第109話 新たなる旅立ち
クレアの故郷に行くという一つの大きな目的を果たしたユタ達は、グロリランド王国にあるフォレストモアに帰還する所だった。
だがその前に、一度ルミナスシティにいるカーダに会いに向かった。
カーダはユタ達が自分の想定していたよりもずっと早く戻って来た事に驚いた。
「おかえり! てっきりもう少し長く向こういると思ったんだけど。もしかして、良い結果では無かったのかい」
「あー… クレアの故郷は見つかったんだぞ。でも、クレアのお母さんはもう…………」
「そうか。力になれなくてすまなかった」
カーダが頭を下げるとクレアはこう言った。
「ううん。そんなことないよっ カーダのおかげで私は生まれ故郷を見ることが出来たんだし。それに一番知りたかった事は知れたから満足してるんだよ」
「そうなのかい。 うん、そうだね。そう言われれば、前に会った時よりどこか吹っ切れた顔をしているね」
「へへへ そうかな」
「うん。何かの役に立てたようなら良かったよ」
仲間ではないカーダの目からも分かるように、ユタから見てもクレアの変化ははっきり分かった。
ずっと悩んでいた自分の過去やルーツの疑問が解消されたクレアは、旅立った頃に比べてもずっと明るくなったように感じられた。おそらく旅の中で力をつけた事も関係しているのだろう。
クレアの笑顔を見ると、自分がここまで頑張った甲斐があったなとユタは実感した。
その後、カーダはユタ達をあの会議用のテントに連れて行った。三人に話があったからだ。防音結界ももちろん作動させる。
「またここかよ? 今度は何の話なんだ」
カーダはユタ達がクレアの故郷に旅立つ前に、用事が終わったらまた自分に会いに来てほしいと伝えていた。その時、ユタ達に頼み事があるとも。
「ネーダ。これからフォレストモアに帰ったら、何か急ぎの予定はあるのかい」
「ううん。ないよ。 うーん、しばらく街を空けてたから、また冒険者依頼を探さなきゃ」
「そうか、そうなんだね! だったらボクからの冒険者依頼をうけてみないかい?」
「え、兄様からの?」
「うん。難しい任務だけど、君たちなら出来ると思ったんだよ」
「え、そうかなぁ~」
カーダに褒められネーダは身をねじらせて照れている。
カーダはこくりと頷くとネーダの後ろに居たユタとクレアとカトラにも視線を移した。
「どうだろう。ボクの冒険者依頼を受けてほしいんだ」
「まあ、ネーダがいいならいいけど。肝心のクエストの内容はどんなことをするんだよ」
「それは……受けてくれる人にしか言えないんだ」
「え? 言えないだって?」
それを聞いたカトラはこう言った。
「やめときなさい!いくら英雄様からの依頼だとしても、内容が秘密のクエストなんて絶対後悔するわよ! それに言ったじゃない。王国以外で受ける冒険者依頼は色々ダメなんだって!」
「ハハハ…………、返す言葉もないよ。でもカトラさんは、国外のクエスト事情にも詳しいんですね」
「へ? ええ、まあ! 私くらいの冒険者ならね、博識だしねっ」
当たり前である。なにせ数週間前まで実際にそのやっちゃダメなクエストをやっていたのだから。
「報酬、弾みますよ」
「聞かせてちょうだい」
だがその時、テントの中央にあったベルが音を立てた。連絡用の魔道具だ。カーダはそれを起動した。するとベルから、聞いたことのある女性の声が聞こえて来た。
「アリアンナ。どうしたんだい」
「はい。グロリランド王国から魏魂人が届きました。鳥型の通信ドールです。それと、私のことっ………」
カーダは魔道具のスイッチを切り音声を停止させた。
「王国から魏魂人が来たそうだ。誰か心あたりがある人はいる?」
「多分あたし! きっと団長のドールだわ! ちょっと見てくる!」
そうしてカトラはテントを飛び出していった。
その通信に記録されていたのは、長い間無断で街を飛び出していた事に対する叱責と向かえを寄越すという内容だった。帰ったら懲罰が待っているとも鳥は語った。
「やばっ そういえば誰にも言ってなかったっけ。早くにげなきゃ」
(「逃げようとしても無駄だ! カトラ、しっかりと罰を受けた後は、今までにお前が溜めた仕事をすべて消化してもらうぞ。今の内に覚悟をきめるんだな ~…ブツ」)
「団長ぉ! そんなぁ」
数日後、カトラはルミナスシティまで迎えに来たドラゴンライダーのクルミと共に、一足先にフォレストモアの街に帰っていったのだった。
「カトラ~! ここまでありがと~!」
「クレア~! 助けでっ たすけてぇ」
「元気でねーーっ」
ユタ達はしばらく、西の空に消えるワイバーンとその背の上にのる旅を供にした仲間の姿を見送っていた。
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