第105話 グングニルの会議
グングニルの会議では、主に魔王軍の侵攻について話し合った。
誓いの碑の側にあるテントの中で会議は行われた。テントの中は空間呪文により防音結界が施されており、外には見張りの冒険者も立ち厳重な警備のもと執り行われた。
もし会議の内容が魔王軍のスパイにでも漏れたなら、団員の命だけでなくゆくゆくは世界の命運にも関わるからだ。
テントの中にはカーダを含めて四人の男女がいたが、いずれも神妙な面持ちだった。
「今までは魔王軍の侵攻区域は帝都クレイドルの東側までに抑えられていました。しかし最近になって魔王軍の勢いが急激に増し、ついには山脈を越えた西側のルルドリアの集落にまで進行を許してしまいました……」
アリアンナが資料を見ながら魔王軍との戦いの現状について説明した。
するとカーダは苦笑いしながらこう言った。
「ハハハ…………困ったね。」
「笑いごとじゃないですよ。魔物の被害も増えていて、物資も不足気味なんです」
「どうして急に敵は力をつけたんだ? 何か理由があるのかな」
「団長。原因を考えるのも大事ですが、今は早急に崩れかけている戦線をどうにかしないといけません」
「うん、そうだね。防衛ラインを横に広げるしかないんじゃないかな」
それを聞くとグングニルの戦闘部隊長のラディエルは大きなため息をついた。
「はぁ、勘弁してくれよォ。団員達も現状で手一杯なんだ。これ以上は人員を割く余裕はないぜ。」
「うーん、そうか。やっぱり無理かな。だったら他の手を……」
だがラディエルは、カーダの無理という言葉に反応し、突然かついでいた大剣を地面にたたきつけてカーダの言葉を遮った。
「いま何って言った団長! 誰が無理だって? 俺をあまり舐めてもらっちゃこまるな」
「え、そんな事はないよ。ただボクも無理のある作戦だったかなって思って」
「無理? そんなわけないじゃないか! 団長、任せてくれ! 魔物なんかに負けないように俺がガキどもをきっちり鍛えておくからよ!」
「そうかい? それは頼もしいよ」
「おう! おっとそろそろ訓練だ。俺はここで抜けさせてもらうぜ」
そう言うとラディエルは大剣を背中に担ぎ、テントの外へと出ていった。
「あいかわらず言ってることは無茶苦茶ですけど、あの人は戦いになると頼もしいですからね」
アリアンナはカーダにボソッとそう言った。
「そうだね。でもラディエルさんにばかり頼ってられないよ。防戦ばかりじゃなくて、どこかで突破口を見つけ出さなくてはならない」
「はい!」
カーダはテントの隅にいる一人だけ冒険者と違うきらびやかな服装をしている男に声をかけた。
「ジーホーン隊長」
「……はい、なんでしょう」
「ムーン帝国正規軍の動きはその後どうなっていますか? 南の守備をもう少しこちら側に回してくれると助かるのですが」
「何度も言う通り、正規軍の第一の使命は皇帝を守護する事であるから、あまり大きな戦力をこちらに配備するわけにはいかないのだ。」
「はい。それはもちろん心得ていますが……ここも人が足りないのです」
カーダが何度も頼むと、ジーホーンはしぶしぶといった感じでカーダにこう言った。
「……もちろん、追加の人員を寄越すようにと、すでに魏魂人で伝令は送っていますよ。まだまだ時間はかかるかもしれないがね」
「そうですか! ご協力感謝いたします。ジーホーン隊長」
「いや、これぐらい軍隊長として当然ですとも」
カーダはジーホーンに頭を下げたが、ジーホーンはカーダの方など見ようともせずテントから出ていこうとした。
「そうだ。団長殿、吾輩の部下も自由に使ってくれて構わないですからね」
「はい、ありがとうございます」
ジーホーンが出ていく間際、我慢できなくなったアリアンナは眉間にシワを寄せながらこう言った。
「べーッ あんたのとこの部下なんて、戦いにもいかずに拠点でポーカーと酒しかしてないじゃないの! この脳なし!」
「おいおいっ アリアンナ、そんなことを言ってはいけないよ」
カーダはヒヤッとしながらテントの出入り口の方を見た。怒ったジーホーンが出てくる様子はなくアリアンナの愚痴は聞かれていなかったようだ。
「アリーとお呼び……じゃなくて! 隊長!もう我慢できません!あんな奴らお荷物ですよ。追い出しましょう!」
アリアンナはカーダにそう言った。彼女は自分の尊敬する英雄カーダがあんな扱いをされた事に腹が立っていた。
だがカーダは怒って興奮するアリアンナの頭を撫でて諫めるとこう言った。
「団長?」
「アリアンナの気持ちも分かるよ。でも、ここはムーン帝国の土地だ。彼らを無下に扱うわけにはいかないよ」
「でも、あいつらは戦いに参加しないじゃないですか! 安全な南のシルリアに引っ込んで、正規軍が戦わないのに私たちは命をかけてる。おかしくないですか」
「みんなには済まないという気持ちがある……」
「あ、そんなつもりじゃ…」
「でも、ボクは冒険者だから、最後まで弱者を守るために剣をふるっていたいんだ」
「団長……」
するとカーダの言葉を聞いたアリアンナはそっと側を離れた。
「……団長が自分の意思で戦ってるならいいんです。私、あの能無しに無理やり脅されてるんじゃないかって思っちゃって。私は団長にどこまでもついて行きますよっ」
「うん。ありがとう…!」
「ふふっ」
アリアンナはくすっと微笑むとそのままテントの出口をくぐって外に出ていった。
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