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第104話 誓いの碑

 英雄カーダの率いる冒険団グングニルの戦闘拠点はユタ達がいた硬葉樹林の森から東に進んだ場所にあった。


 ムーン帝国の大部分は西の乾燥地帯ルルドリアと寒冷な東側アルターエンドに別れていた。

 魔王軍が攻めてくるのは東のアルターエンドからなので、東の最前線にある戦闘拠点は魔王軍にいつ襲われてもおかしくない危険な場所にあるという事だ。

 しかし、白く輝くモニュメントの周りに築かれたグングニルの戦闘拠点は多くの人でにぎわっていた。

 その中には魔物と戦う冒険者だけではなく年寄りや小さな子供が駆け回る姿もある。


 ユタ達がその光景に驚いているとカーダはこう言った。


「ここには近くの街や村から多くの人が避難して来ているんだよ」


「ふーん、そうか。どおりで冒険者じゃなさそうな人間が多すぎると思ったよ」


「ははは 今じゃちょっとした町みたいになってて、みんなはルミナスシティって呼んでるんだけどね。でもボクは元の呼び方の方が好きなんだ」


「元の呼び方?」


「うん、あれを見てよ」


 カーダはそう言うと、人々の集まる拠点の真ん中に堂々とそびえ立つ三角形の白い石のモニュメントを指し示した。

 石のモニュメントは、その場所に立てられてからかなりの時間が経っているようで、表面はところどころ風化してしまっていた。ユタはそれがまるで墓石のようだと思った。


「あれは誓いの碑というんだよ」


「何かの記念碑って事か」


「そうだね。記念っていうのは少し違うかもしれないけどね」


 すると話を聞いていたカトラがこう言った。


「その名前、あたし聞いたことあるわよ? たしか戦争の時に作られた物だって聞いたわ! 

 …………え? でもこの石碑の風化具合は、どうみても百年や二百年の劣化じゃないわよね」


「そういえばそうなんだぞ。でも魔王軍の魔物が人間を襲い始めたのはたしか百年前だから……え、どういう事なんだ??」


 ネーダは理由がわからず首を傾げた。

 その様子を見ていたカーダは穏やかな表情で頷くとこう言った。


「誓いの碑が作られた時に起きた戦争っていうのは、今の魔王軍との戦いの事じゃないんだ。大昔にあった人間どうしで起きた魔法大戦の事なんだよ」


「ええっ 人間どうしで戦っていたの? 一体そんな事をして何の意味があるのさー」


 ユタからすると戦争の理由なんていくらでも挙げられたが、魔物との戦争しか知らなかったクレアには当然の疑問だった。


「そうだよね。今じゃ考えられないよね。でも昔の魔物はおとなしくて、人間を襲う事もあまりなかったんだ。」


 太古の時代、魔物と人間は別々の場所に暮らしていた。

 魔物と人、両者のテリトリーは本来なら時空の干渉でも起きない限り交わる事がなかったのだが、魔王の出現により、魔物は人間の住む土地への侵攻を始めたのだった。


「そして千年続いた大戦争の後に、荒野となった大地と築かれた死体の山を見て、人々はやっと自分たちの過ちに気づいたんだ。

 もう二度と過ちを繰り返さぬよう人族全体の団結を誓って石碑を立てたんだよ」


「へえー、そんな事があったんだっ 私初めて聞いたよ」


「ハハ、ずっと昔の事だから知らない人の方が多いんじゃないかなあ」


 ユタはカーダの話を聞いて、フォレストモアに初めて訪れた時に感じた謎が解けた。あの城塞都市は本来は魔物から街を守る為ではなく、人間との戦争の時のなごりだったのだ。

 大討伐戦の時に現れた暴竜相手ならともかく、ゴブリン相手にあの要塞は過剰防衛だと思っていたが、砲撃や街への侵入を防ぐ目的ならあの高さの壁も納得だ。


―それにしても約束しただけで戦争をばったり止めるなんて、この世界の人間は随分律儀なんだなあ―


 元の世界だったら同盟なんて一時のものだと、歴史がそう語っている。



 するとその時、向こうから誰かがユタ達に近づいてきた。

 カーダはその分厚い戦闘用のコートを身にまとった女性に対し、気さくに手を振った。しかしその女性はカーダに近づくと、突然カーダの耳を思いっきり引っ張った。


「いたたたたッ 痛いよアリアンナ! 離してよ!」


「遅いですよ団長。午後の会議はもう始まってますよ? それと私の事はアリーとお呼びくださいませ」


「あれ?そ、そうだったんだ。 んーソレ行かなきゃダメかい?」


「ダメに決まってます!!!」


「あいたたたた…………」


 アリアンナはいっそう眉間にシワを寄せると、カーダの耳をさらに強く引っ張った。


「ところでそちらの方々は……」


「あ、そうだったね。彼らはボクの弟の……」


「なるほど。ネーダさんとそのお仲間さん達ですね。どうぞよろしく」


「あ、ああ……どうも」


「よ、よろしくなんだぞ」


 いきなり現れた新キャラ(アリアンナ)に戸惑っているユタ達をよそに、アリアンナはとても機敏な動きで、まるで機械のように正確無比に全員と握手を交わした。


「なんだか、凄いしっかりしてそうな人だねー」


「ええ。ていうか、いちいち忙しい女ね」


 アリアンナは握手を済ませると、コートから手帳を取り出した。そしてとあるページを開くとカーダにそれを見せながらこう言った。


「見てください! もうこんなに予定時間から遅れてるんです! 早く急がないと、この後の訓練の時間がなくなってしまいます!」


「ア、アリアンナ そ、そんなに焦らなくてもいいじゃないか」


「だからッ ……アリーとお呼びくださいませ…」


 どうしても面倒な会議に行きたくないカーダは話題を変えようと別の話を切り出した。


「そういえば。ルルドリアの人達はどうなった?」


「はい。避難してきた人たちは全員受け入れが完了しています。弟さんたちが救出したリーナさん達も無事に避難していますよ」


 それを聞いたクレアはほっとして胸を撫でおろした。


「そっか! よかったーっ」


 既に悪魔に掴まっていた村人の中にもまだ治療が間に合う者が数人いて、彼らはこの拠点で治療を受けている最中だという。


「その件に関しても議題に含まれています。さあ、行きますよ団長」


「はあ、仕方ないか。じゃあネーダ。後であのテントに来てくれないかい。面倒事が終わったらゆっくり話そうよ」


 カーダは誓いの碑の側にある大きなテントを指し示した。


「うん!分かったよ! 兄様もお仕事がんばってください」


「よし、行こうかアリアンナ。時間が惜しい! バリバリ会議するぞ!」


「あ、あの…………アリーとお呼びくだしゃい……」


 アリアンナはやや頬を赤くさせながらカーダの後を追いかけていった。


ご拝読いただきありがとうございます!


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この先もよろしくお願いいたします。

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