第103話 光の勇者
カーダが刀剣召喚の魔法剣を上級悪魔の腹から抜き取ると、上級悪魔はそのまま青い霧となって消えていった。そして間接的に剣で腹を貫かれたリーナだけがその場に残り、そのまま力なく地面に倒れた。
クレアが急いでリーナの元に駆け寄る。
ユタはカーダにこう言った。
「随分ひどい事をするんだな。英雄様ってのは」
「ん? なんのことだい」
「白を切る気かよ。お前は村人が人質に取られてるのを知っていて攻撃したんだ。人質なんてどうでもいいと思ってるのかよ」
「ああ、そのことか。言ったよね。ボクにとって人質なんて意味ないんだよ」
「……てめえ」
そのとき手当のためにリーナの身体を調べていたクレアが大声でこう言った。
「ユタ! 大変だよっ 傷が」
「くそっ やっぱり俺の呪文で倒すんだった。 まだポーションは残っていたかな」
ユタは収納魔法を開いた。ここで死なせたらいよいよ面白く無さすぎる。しかしクレアは思いもよらぬことを言った。
「傷がどこにもないんだよっ」
「……は? 何言ってんだよ?そんなわけあるかよ」
ユタも急いでリーナの元に駆けつけた。そしてユタも自分の目でリーナに腹部を確認したが、そこには剣で貫かれた穴どころか小さな傷の一つもなかった。
「よかったっ まだ目は覚まさないけど、致命傷は見当たらないよ」
「でも、なんで傷が無いんだ……俺はたしかに刺されるのを見たのに」
するとネーダがこう言った。
「英雄カーダの魔法剣は特別な光の力があって、魔物だけを傷つける特別な魔法剣なんだぞ。リーナは魔物じゃないから刺されても平気なんだ」
「光の剣?まじかよ」
―勇者が持つ光の剣だって?本当にソレっぽいぞ―
それだけでなく上級悪魔を倒した時も、悔しいがかなりの達人だと分かった。カーダが噂通りの人物であることは間違いないようだ。
するとユタ達の様子を見ていたカーダは近づいてきてこう言った。
「ちょっとその子、ボクに任せてくれないかい」
「いいけどさー、回復呪文でも目を覚まさないんだよ どうする気?」
「うん、闇の魔法を受けてしまったようだからね。光の呪文が必要なんだよ」
そう言うとカーダは、目を開いたまま気絶しているリーナの額にそっと手をおいた。そして式句を唱えた。
「超光」
先ほどの激しい光とは打って変わり、穏やかな光がリーナの身体を包んだ。
「…………はっ! はぁ、はぁ」
リーナが息を息を吹き返した。
「気が付いたかい」
「ど、どうなって……あ、ママは」
「……今はゆっくり休んでね。 睡眠誘導」
カーダは相手を眠らせる呪文を使った。リーナが母親が死んだ事に気が付いて興奮するのを避けるためだった。
「これで大丈夫だね」
「ね、他の場所でも村人が捕まってるって聞いたわ」
「他の場所の悪魔はボクの仲間たちがもう倒してるよ。ここだけ離れてたから駆けつけるのが遅れてしまったんだ」
「そうだったの。さすが手際がいいわね」
カトラは感心してそう言った。
「あのさー! その仲間って、冒険団グングニルの事だよね!」
「そうだよ。 君、ボクの魔法剣の事も知ってたし色々詳しいんだね。 あ、ファンかい?」
「そりゃあファンだけど、ボクだよボク!」
そう言うとネーダは頭の兜を外してカーダに素顔を見せた。
「ええ!ネーダ?!」
「うん、兄さま! ご無沙汰してます!」
「魔力の量が大きくなっていたから気づかなかったよ。強くなったんだね」
「え、本当に?! ボク強くなった?」
「ああ。家を出たと聞いた時は心配したけど、たくさん頑張ったんだね!」
「あ……、うん!! ボク頑張ったよ!」
カーダはネーダの頭を撫でた。ネーダは成長を認められ嬉しそうに笑っていた。
「兄様が戦ってるところを久しぶりに見たけど、流石!やっぱり兄様の魔法剣は最強なんだぞ」
「いいや、ボクなんかまだまだだよ。それにネーダの雷魔法だってかなりの素質じゃないか。すごいと思うよ」
「え~そうかなぁ」
ネーダはそう褒められると髪の毛を掻きながら照れていた。
そしてカーダはユタ達の方に向き直った。
「そうか、皆さんはネーダの仲間だったんですね。どうもボクの弟がお世話になってます」
カーダそう言うと深くお辞儀をした。
「あ、ああ……。そうだな。その通り…………お世話してます!」
「お、おいユタ! 何てこというんだぞ!」
「はぁ? 別に間違ってないだろ~」
「ボ、ボクだって一応、この団の団長なんだぞぉ」
ネーダは顔を真っ赤にして抗議した。その様子を見てクレアとカトラもくすくす笑っていた。
「アハハハ ネーダ、いい仲間がいるんだね」
「に、兄様~」
「皆さん、もし宿が決まってないのならボク達のキャンプまで来ませんか。ボクも久しぶりに会った弟ともっと話したいですし……」
「兄様!」
ネーダの後押しもあり、ユタ達はカーダの提案を飲む事にした。
そしてルルドリアの小さな村を離れて、冒険団グングニルが魔王軍と戦っている戦闘拠点に四人は赴いたのだった。
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