第99話 聞こえて来たもの
翌朝、焚火の始末をした後、四人は林道に沿って森を歩き始めた。
森の中にできたこの道は明らかに人の往来によってできた物だ。だから、道に沿って歩いて行けば、いつか人のいる集落にたどり着ける。
ユタは一晩しっかり休んでだいぶ調子を取り戻した。きっとクレアが回復呪文を使ってくれたおかげでもある。
「元気になって良かったねっ 昨日より顔色もいいよ」
「ああ。クレアの回復呪文のおかげだよ」
「へへへ、どういたしましてっ」
クレアは首を少しかたむけ、にこっと歯をみせて笑った。
すると突然クレアは顔を近づけてきて、自分の額をくっつけてユタの熱を測る素振りをした。
「う~ん、熱もないみたいだねー」
「ク、クレア? ちょ、近いよ!」
「え? あっごめん…………っ」
ユタに指摘されるまでは触れていても無自覚だったのだが、急にクレアは恥ずかしくなり顔を真っ赤にしてパッとユタから離れた。
その様子を見ていたカトラが二人の事をからかう。
「あー熱い熱い。ずいぶんお熱いのね。そんなんじゃまた熱があがっちゃうわよ」
「そ、そんなんじゃ! …………ないもんっ」
するとネーダもこう言った。
「そうそう! それにだぞ、ユタ。」
「な、なんだよ」
「ユタが元気になったのは、ボクの作った獣肉の丸焼きで元気がついたおかげでもあると思うんだぞ?」
「は…まーー、ちょびっとはそうかもなぁ…………」
「ええ?ちょっとじゃないんだぞ???」
その後もユタ達は森の中を進み続けた。しかし四人はやがて異変に出くわした。それは森の中の林道が広くなり始めた時だ。
「きゅい!」
「やっぱりチニイも感じるのか」
ネーダとチニイが森の中で何かの異常を察知した。
「どうしたの? 何かあったの?」
二人の異変に気付いたクレアがネーダに尋ねた。
「うん。どうやらこの先の森が燃えてるみたいなんだぞ」
「ええっ 森が燃えてるって火事ってことだよね?」
ネーダによれば風に乗って木の燃える匂いがしてくるのだそうだ。四人がこのまま進めば、火事の現場にぶつかるらしい。
「この辺りは乾燥してるから、森林火災もよくあるのかもしれないんだぞ。それで迂回するか?それとも行ってみる?」
「うーん。そこに誰か人はいるのか」
「火の匂いで分かんないな。でもボクは迂回した方がいいと思うぞ。だって火で危ないもん」
「まあ、そうだよな」
不用意に近づいて飛んできた炎で火傷なんかしたらたまったもんじゃない。だからユタも迂回した方がいいと思った。
しかしクレアが全く逆の意見だった。
「ううん。このまま行こうよ!」
「え、どうしてだよ。森が燃えてて危ないんだゼ」
「だって、もしかしたら火に巻き込まれて誰かが困ってるかもしれないでしょっ 早く助けてあげなきゃ」
「ええ? クレア、それは」
ユタは居るかどうかも分からない誰かのために危険な火の中に行くなんておかしいと思っていた。だからクレアがそう言った時に最初驚いたが、よくよく考えればクレアならそう言うだろうと思った。
「そうだね。それにボク達は冒険者。人助けが仕事なんだぞ。だからいいよね!」
「うん。行こう!」
―クレアが行くならもちろん行く。それに俺だって、目の前で燃えてる人がいたらきっと森に助けに行くだろう―
そして四人はルートを変えずにそのまま道を進み始めた。
「ちょっと待ちなさいよ」
だがその直前に、カトラがユタにこう言った。
「あんた、剣をしまったままでしょ。一応出しときなさいよ」
ユタはいつも、使わないときは暴力の黒剣を収納魔法の中にしまっていたのだ。
「は? なんでだよ」
この先には燃えてる森があるだけで、魔物はいない。
「あんた馬鹿ねえ。もしかしたら火の使う魔物が起こした森林火災かもしれないでしょ」
「考えすぎじゃ」
「念のためよ! ほら行くわよ」
「あ、おい!」
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