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6、風呂上がり



ふとした瞬間、まぶたを開け周りを確認する、世界には塵が積もれば山となるなんてことわざがあるらしい。


一理あると感じさせる光景が広がっていた。


屑鉄が積もって一山作られ、歪なバランスで保っていたが、時間とともに崩れてまた新たな屑鉄が頂点に乱雑に積まれていく。


大半は上に引っかかることもできず、騒音を立てながら落ちていき、最後に甲高い音を立てて地面に叩きつけられる。


地面に落ちた屑鉄は二度と陽の目を見ることはなく、一生を終える、いや、終わったからこそここに行き着いたのか。


運良く万が一、頂点に残れたとしても次に弾かれたらそこまで、後は転がり落ちるだけで地面という最底辺へ落ちていく。


確かに集まれば山になるだろう、しかしそれに価値はあるのか?


小さい事でもコツコツとやれば山になる、そこに善悪の区別はない、なぜならこうして乱雑に処理したごみ山がいくつも集まってできたのが、不毛の地、廃品解体処理屑鉄投棄場


生き物はおらず、魔物だってここには近づかない、ここにあるのはただのガラクタのみ、最初からか途中からかは判別がつかないが、無駄、無意味、無価値、存在否定の烙印を押され、原型を止めることすら許されない、せめて嵩張らないように朽ちてくれ、捨てた人間の心理はこんなところだろう。



(…………私は……そうだな………さしずめ人間の形をした塵………)



無価値な屑鉄塗れの世界で唯一、人が眼中に入れてくれる存在かもしれない、邪魔臭いという理由で。


なんとなくそれでも誰か見てくれるだけマシか、そんな歪んだ価値観になんの疑問も持たずに納得する。


形があり、木材やら硝子よりも硬度を誇っていた、鉄や鋼が今やただのガラクタ、元の姿など面影もない、いや、硬く、一度形を決めてしまえば後は変えづらい、だからこそここまで執拗に潰されるということなのだろうか?



ともかく、有形物ですらこの有様なのだ、最初から形などない無形な記憶などいくらでも歪み、改竄され、無から有にすらなる、さながらいらない物を叩き、潰し、切り刻み、有形物をバラす解体処理工程のよう、一つ違うのは減ることはあっても増えることはないということだけ。



それでも妄想に浸れる分まだ意味がある気がする、無形物にすら負ける鉄と鋼、その事実に辟易する彼女。



何にもわからない彼女が自信を持って言えるのはこの世で最も脆く不要な物、それは鋼と鉄、なぜならリフィルという無価値な自分に回ってくるのだ、価値があったら上の人達が食い散らかして終わりだ。



硝子も木材も石も、存在を許されるが、鋼と鉄だけは許されず削られ、燃やされ、溶かされ、屑鉄という残りカスになる事すら出来ない物もある。



哲学とも言えない幼稚な考えを頭の中で展開するが、胸の中の憂鬱が増しただけだった。


(……………鉄と鋼なんて……脆すぎるし、無価値だ………)



上から他のに比べると巨大な塵が落下してきて奇跡的、または必然的に当たらなかったのか、それすらわからない。




彼女と同じ最底辺に落ちてきたものを横目で確認する。


……人形型のゴーレムだ……自身と同じ、人間の形を型取った塵、ただ自我あるかないかそれだけの違いしかない。


「………こんにちは……

…私は…………外の世界に行くよ………

……貴方を置いていくことを……

……許して……

…こういう時人って……

……貴方の分までで生きることが葬いになる……

……なんて言うけど……そんなの生者の理屈よね……きっと私が貴方だったら………

こうして見下ろして……

外に出る私を恨みがましく見るんだろうね……

……でもね…………それでも…………許して……」


よく見なければ微かにしか光が見えない淀んだ彼女の瞳から、雫が落ち、彼女が言うには人間の形をした塵の瞳に溜まった後、頰を流れていく、濡れた頰を拭ってあげる彼女、しかし、拭われた塵本人は彼女のことを光のない空虚な瞳で見ていた、まるで嫉妬と憤怒が織り混ざった末に漆黒に染まった、そんな風に思い込んでしまいそうになる。


瞳ではなく、ぽっかりと空いた穴と言われれば納得できてしまうほど、深淵の色を宿した瞳だった。


これはとある少女の遠い昔の記憶。



ーーーーーーーーーーーーーーー


「………また懐かしい夢を見たな………」


………いつの間にか、寝ていた自分………。


「風呂出たぞ~」


「……グッドタイミングだったからよしとするか」


居眠りをしてしまったが、私が起きるのと同時にルーガスの風呂が終わったらしく、着替えを用意、ルーガスの姿が見える。


「ーーーブルルルルッッッ」


「冷たッッッ」


「あ、わ、悪りぃつい………」



獣人の習性なのか、体を震わせて体毛から水分を飛ばす、猫や犬のよく見る行動だ、いきなり飛んできた水滴にびっくりした私は思わず声を出してしまう、謝るルーガス。



「わ、悪いと思ってるなら……それ、触ってもいい?」


「へ?\\\\\」


水分が飛んだ、狼耳や狼尻尾………初めて会った時から実は気になってはいた、これ幸いと口実を見つけたので触らせてくれるように頼むと顔を真っ赤にするルーガス



「\\\、な、ななな」


「ね、お願い、ちょっとだけだからさ」


「ーーーわ、わかった……や、優しくしてくれよ\\\」


「それじゃあ失礼して……………」


手を合わせて、お願いすると、赤面しながらも承諾してくれるルーガス。


「ーーーッッッッッ」


「おお、これは中々良い感触………」


しっとりと濡れている狼耳を触ると中々の好感触…………これは完全に乾いている時も触りたくなるな…………。


「ーーーっって!!!、耳かよッッッッ!!!」


「へ?」


触り心地を堪能していると、ルーガスが不意に叫ぶ。


「あ、いや、その…………\\\\\」


「………へぇ、ふぅーん……どこ触れると思ったの?」


「ーーーー!!、べべべべ、別に………」


「ルーガスも結構ムッツリじゃん♪」


「ーーークッッッ\\\\\」



私の言葉を勘違いしたらしいルーガスを揶揄う私、赤面するルーガス……なんか可愛い………。


「フフッッッ、ま、揶揄うのはこれくらいにしてっと、お風呂貰おうっと~」


着替えを持って脱衣所に行く私。






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