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1、プロローグ


「……………それで?、#勇者様達が鉄臭い義手女に一体なんの御用ですか?__・__#」


「い、いやぁ、ちょっとリフィルに会いたくなっただけだよ」


「………………」



……取り敢えずギルドにある、酒場の席に座って話をする私達、落ち着いた後、皮肉たっぷりに疑問をぶつけると、冷や汗を流しながら、適当なことを宣うロゴミス。


ロゴミスだけでなく、ガンツ、シャーリー、イザベラ、勇者パーティー全員がその場にいた………明らかに作られた、愛想笑いを私に向けてくる………四人の顔に貼り付けられた歪な笑顔の仮面……ひどく私を不快にさせる………。


ーーーーーーーーーーーーーーーー




「君はクビだ」


魔王軍幹部の一人、『絶望のエニグマ』を倒した後の出来事だった。


最寄りの街へ帰還、宿に泊まり、食事の最中に勇者ロゴミスの部屋に呼ばれた。


ロゴミスの部屋には、他の三人の仲間も同席していた。


手にする大斧で抜群の攻撃力を誇る、斧使いガンツ。


並外れた魔力を持ち、竜のブレスを連想させる強力な魔法で魔物を薙ぎ払う、私の妹、魔法使いシャーリー。


あらゆる傷を癒やし、高位な光魔法はあらゆる魔物を浄化する、僧侶イザベラ。


「な、何を言ってるのロゴミス、エイプリルフールはとっくに過ぎてるよ?」


「………俺がくだらない冗談は好きじゃないって知ってるだろ?」


冗談だと思った私は笑って誤魔化そうとするが、ロゴミスはそれを許さない、苛立つようにテーブルを叩き、威嚇してきた。


「本気なの?」


「ああ」


どう見ても冗談を言っている空気ではないだろう。


「理由を聞いても良い?」


「アンタ、そんなこともわからないの?、我が姉ながらほんと恥ずかしい」


シャーリーが口を挟んできた。


「理由なんか一つしかないでしょ、アンタが役立たずだからに決まってるでしょ、鉄屑って言ったほうが良いかしら」


「シャーリー、言い過ぎですよ………彼女が役立たずなのが事実とはいえ………」


…………私は今まで仲間にこんなふうに思われていたのか?。


「私達ってパーティーメンバーじゃ……仲間じゃなかったの?」


私の言葉に返答を返す者は誰もいなかった、ただただ、路傍の石についてる虫の死骸を見ているような、そんな冷徹な目を向けてくる。


ロゴミスが再び口を開く。


「シャーリーが言ったように、君は俺たちパーティーのお荷物なんだ、まるで役に立ってない………君の場合役に立つどころか、みんなの足を引っ張ってすらいる、足枷なんだよ」


「………足枷」


「君も薄々気づいていたはずだ、気づいていなかったのなら大馬鹿者と言うしかない」


「………………」


「ひとつ聞くが、君の戦闘職はなんだい?」


「…………戦士……だけど……」


「そう、器用貧乏の戦士だ、勇者の俺や斧使いのガンツのような上位職は立派に前衛を果たせるし、魔法使いのシャーリーや僧侶のイザベラは後衛職として後方支援が優秀だ……比べて君は前に行ったり後ろに行ったり、どっちつかずにフラフラと、露払いといえば聞こえは良いが、実際は雑魚処理をしているだけ、そして持っている魔力量が少ない為、大技を使うと戦線から離脱して魔力を回復しないといけない………これを無能と言わずになんと言えばいい?、逆にご教授お願いしたいよ、それに君、魔鉄義手のせいで鉄臭くて鼻が曲がりそうだ、とっととこのパーティーから出ていってくれ」


言葉が出なかった、私、リフィル・ペンドラゴンはペンドラゴン家の分家の人間だ、竜人族の中でも有名なペンドラゴン家には主家と分家が存在し、私は魔力が低かった為、分家に属していた、分家に属する人間は貴族とは名ばかりで、マトモな食事すら回ってこず、殆どがゴミ山を漁ってなんとかその日を生きながらえていた……そして分家の中にも序列が存在し、私に回ってくるのは鉄屑だけだった……私は生きる為、日々、鉄屑やジャンク品を食べていたら………竜人族の中でも変異中の変異種、機竜人になっていた……ある日、私は妹のシャーリー・ペンドラゴンと一緒に、魔王を倒すための旅に出ることになる……力ある者の責務として、ペンドラゴン家からは代々、勇者パーティーへと主家と分家から一人ずつ参加しなければならないからだ。



………魔鉄義手というのは義肢の一種、鉄や鋼で出来た義手を装着者の魔力で生身の腕と遜色ない動きを可能にする魔道具だ………一番最初に戦った、魔王軍幹部の『烈風のシュラウド』との戦いの最中、ロゴミスが市街地で無茶な戦い方をしたせいで、逃げ遅れた一般市民を庇った私は右腕を斬り落とされた………いかに竜人といえど無くなった四肢はそう簡単に再生できない、せいぜい血を止める程度だ………本来であれば魔鉄義手を付けるには四肢の付け根に接続のための手術を施さなければならないが……幸か不幸か、私は変異種の機竜人、自身の力で接続機器を再現し、リハビリも短期間で終了させ、魔鉄義手を自分のものにした。



「俺達は魔王を倒すという崇高な使命を持っている、この世界全ての人の希望を託されているんだ………メンバーが揃っていない最初は器用貧乏の君は役に立っていたが、パーティーが成長しきった今、君はもういらないんだ」


「で、でも、じゃ、じゃあ………私との婚約は?、私の腕の件は自分にも多少責任があるから、責任として魔王を倒したら結婚してくれるってーーーー」


「ーーそんなもの破棄に決まってるだろう?」


「ーー!!、そ、そん………な……」


食い気味に婚約を破棄される私。


自分のせいで片腕を失った私に負い目を感じていたロゴミスはお詫びとして魔王を倒したら結婚しようと婚約してくれていたのに…………たとえ魔王を倒せたとしても私はペンドラゴン家の分家の人間、どうせ主家のシャーリーに手柄全て流れていくだろう、実家に戻っても生きるのすら難しい生活しか待ってない、それよりは仲のいい彼と暮らせるなら幸せだと………思っていたのに………。


………私は無意識の内に自分の生身の腕で魔鉄義手を握りしめる………やけに鮮明で冷たい感触が手の平に広がっていく……。



「ほんと馬鹿ねぇアンタ、ロゴミスは私と結婚するんだっての」


「…………え?」


シャーリーはロゴミスに甘えるように隣に座り、もたれかかり、そしてねっとりと、私に見せつけるように深い口づけを交わす………その光景は数秒にも、数時間にも感じた……….息継ぎをするように口を離す二人の間に、嫌な光を発する、唾の糸が垂れた………私はその光景が信じらず、我が目を疑った、数秒の間、心臓を鷲掴みにされたような、悪寒が全身に走り、微動だにできなくなり、静止してしまう。


「おとなしく身を退け、土台無理な話だったんだ、何も出来ないお前とロゴミスは不釣り合いすぎる」


「ですね、少し遠慮をしていましたが、最近は目に余ります」


………婚約破棄され、浮気相手のシャーリーとロゴミスとのねっとりとした触れ合いを見せつけられている私の傷口に塩を塗り込むように、辛辣な言葉をイザベラとガンツにかけられる………情けない事だが、涙が滲んできた。


私なりに頑張ってきたつもりだったが、世の中結果が全て、仲間達は認めてはくれてなかった、血を分けた妹ですら邪魔者扱い、婚約者ですら、いや、元婚約者ですら私の事を煩わしく思っていたのだろう。


「…………わかった、私はパーティーを抜けるよ………今まで一緒に冒険できて、楽しかった」


「やっとわかってくれたか」


「漸く役に立ったわね、お姉ちゃん」


「シャーリー、最後なんですから少しはオブラートに包みなさい」


「だって~今までの迷惑を考えたらこれくらい言わせてもらわなきゃ割に合わないって、イザベラだって笑ってるじゃん」


「………まぁ、否定は出来ませんね」


「ま、とっとと出ていってよ、鉄臭くて敵わないからさ」


………拳を握りしめて、俯くことしかできない。


私に出来る事とと言えば、シャーリーの言う通り、迅速にこの場から消えることだけだった。


「………リフィル、装備と金を置いていけ」


「え?」


ガンツはほぼ放心状態の私に追い討ちをかけてくる。


「その装備は俺達勇者パーティーのためのものだ、そして、その金は俺達が世界を救う為に稼いだものだ、パーティーを脱退するお前に持たせるわけにはいかない」


「わかった………これでいい?」


確かに、この装備はパーティーで集めたものだし、お金だって勇者パーティーへの寄付やその他…………パーティーを抜ける私が持っているのは納得できないだろう。


最上級の装備達を外し、財布と一緒に彼らに差し出す………。


「ふむ……せめてもの慈悲だ、これぐらいは返しといてやる」


「………助かるよ」


金貨や銀貨を根こそぎ奪った後、軽くなった私の財布を返却してくるガンツ………見苦しいかもしれないが、流石に無一文よりはマシなので、正直有難い…………身軽になったのと引き換えに、彼らとの繋がりも途絶えた気がした。


「本当はその機械義手も返してもらいたいけど………それがないと君片腕になっちゃうからねぇ、見逃してあげるよ」


「キャハハ、ロゴミスってば優しい~~」


「…………」


無言で私は部屋を出た………微かに聞こえてくる嘲笑の声に背を向けて歩き、自分の代金を払って宿屋を出た。



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