振り向くことなく <mobile.ver>
さくっと読めるプチSFミステリーです。
これはモバイル版です。フォーマットの関係上、PC版はこちらからどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n7323hr/
最近、スパイが多いらしいぜ。
近隣の惑星でも話題になってたろ。
僕はスパイだ。
地球に危機が迫っているため、
潜入調査をすることになった。
あぁ、あの?タコみたいなやつらが
騒いでたやつか?
通称720生命体。
この名称は、彼らが720度周囲を
見渡すことができることから付けられた。
それで、どこの回し者かわかったのか?
そりゃな。
そいつはバレた瞬間に消えたが、痕跡は残っていた。
回線をトラッキングしたら、どこの星のやつかは一発だぜ。
720度という表現には違和感があるかもしれない。
だけど、360度では不足なのだ。
彼らは水平に1周だけではなく、垂直にも1周見渡せる。
それを便宜上720度と科学者たちは表現した。
へえ。それでどこだったんだ?
それがな、なんと一番の同盟国だったんだと!
うへぇ。そりゃ同盟も一瞬でおじゃんだな。
「君に世界の命運がかかっている」
僕はボスの言葉を思い出しながらアバターを着た。
その通りさ。
惑星はエネルギーだけキューブ化して抽出して、
あとは焦土と化したらしい。
これは便利だ。
周囲を完全に見渡せると振り向く必要がない。
常に全方向が見えるからだ。
なんとも便利な生活を送る彼らを少し羨ましくも思った。
そりゃまた物騒な話だな。
うちは大丈夫か?
最近同盟に加わりたいって妙なやつら入れてただろ。
僕はふうと息を吐いた。
大丈夫だ。地球の技術力、中でも3Dモデリングは群を抜いていてアバターは実物そっくり。その惑星の生命体でも見分けがつかないことは確認済みだ。
技術力もなかなかのようだし
あっさり受け入れてよかったんだろうか。
まったくお偉いさんの考えることはわかんねぇぜ。
僕は彼らの街を歩いた。彼らが歩くのとまったく同じように。
大丈夫だ。絶対にバレない。
「おい、背中のチャックが開いてるぞ」
僕はとっさに振り返り、背中を手でさすった。
まさか。このアバターは完全再現で、そもそもチャックなんてものはついていない。
僕に声をかけてきた生命体はにやりと笑った。
「あ……」
そして、すべてを悟った僕は心の中で地球に別れを告げた。