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俺の許嫁は専属メイドをしている

作者: 夕霧蒼

「坊っちゃん、朝です。起きてください」


「起きてますよ〜。それと、坊っちゃんって呼ぶのやめて欲しいんだけど…」


 毎朝部屋に入って起こしに来るのは、この家に住む大浪涼太おおなみりょうたの専属メイドの川神麗亜かわかみれいあ

 それを返事しながら、受け流すのがこの家の朝の日課になっている。


「それはできません。何故なら、そう私は涼太様の〝専属メイド〟なのですから!!」


「いやいや、強調しなくても分かってるから。それに、専属メイドだからと言って坊っちゃんはない。しかも今、普通に名前で呼んだよね?」


「はい。坊っちゃんと涼太様のどちらかを私の気分で呼ばせていただいてます」


「なら、せめて名前で呼んでほしいです。追加の要望とすれば様付けもなしで。毎回この話するのが段々と面倒くさくなってきた」


「無理です」


 そう言って、麗亜はビシッと横ピースを目元に添えてウインクする。


「はぁ、なんでこんな一般家庭に専属メイドなんてものがいるんだよ…」


「それは、涼太様の専属メイド兼許嫁=嫁修行をしているからです」


 そう、川神麗亜は大浪涼太の許嫁でもあった。

 だからと言って、嫁修行で専属メイドになるのには理由にならない。

 

 話は麗亜がこの家に来た半年前に遡る。


「りょうた〜話があるから下に降りてきて〜」


「今行く」


 一階にいる母親から二階にいる涼太を呼ぶ声が聞こえた。

 その声が聞こえて、涼太は返事をしてすぐに一階へと向かった。

 リビングに入ると目の前にロングの黒髪をした麗しい美少女がいた。


「だ…誰だよその美少女!!」


 涼太は思わず本音を叫んでしまった。

 そう、美少女という本音を。


「この子は川神麗亜ちゃんと言って、涼太の許嫁の子だよ」


「えっ、許嫁!?その許嫁と言うのは将来結婚すると言う許嫁?」


「そうよ。もう、涼太は馬鹿なのかしらね〜」


「いや、許嫁の人の前で馬鹿と言うのはやめてくれ」


 母親は麗亜の前で笑いながら言ってきた。

 麗亜は反応に少し困っている。


「で、麗亜ちゃんはこれから嫁修行でこの家に住む事になったから」


「へ?住む…ここに?その子が?部屋なくね?」


「急に変な声出すんじゃないよ。お父さんが急な転勤で私も付いて行く事にしたから、部屋はあります」


「転勤の話は聞いてないのですが…」


「えぇ、今初めて話したんだもん」


 母親からその事を伝えられ、涼太はジト目をして見つめた。

 そんなジト目を受け流しながら「こんな息子でごめんね〜」と言われ更に深いジト目になった。


「大丈夫です。例え、親同士の許嫁でも、私は涼太さんの事はお写真で見た時から好感度高いですから」


「あら〜。麗亜ちゃんはなんていい子なの〜私が結婚したいくらいだわ」


「あの…俺の意見は…?」


「そんなのはないわ。これは強制なの決定事項なのよ」


「そう…ですか…」


 涼太は母親の意見に反論できずに受け入れる事しかできなかった。


「さて、麗亜ちゃん。家ではこの服を着てもらいたいのだけどいいかしら?」


 そう言って出してきたのは、メイド服。


「これを着ればいいのですね」


「そこは疑問に思う所だと思うけど?」


「そうよ。そして、麗亜ちゃんは涼太の専属メイドとして嫁修行してね!」


 スルーされた涼太は、もう溜息を吐くしかなかった。

 そして、母親の台詞に麗亜は一言も呟かなかったが首肯してメイド服を受け取った。


 これが、麗亜が俺に専属メイドになった過程だ。



「坊っちゃんそろそろ起きて朝食を食べないと遅刻してしまいますよ?」


 涼太が思い出しながらベットで頷いていると、麗亜に呼び戻された。

 思ったより時間が経っていたらしく、涼太も時計を見て慌ててベットから出た。

 坊っちゃんと呼ばれていたが、それはもうスルーする事にした。


「麗亜…着替えるから下で待っててくれないか?」


「いえ、これは私の仕事ですのでこちらを向いてください」


「いや、例え結婚したとしてもそこまではやらないだろ」


「冗談ですよ。では、私は下でお待ちしております」


 涼太は滅多にからかうことがないので「麗亜が冗談を言っただと…!?」と驚いた表情をした。

 そして、麗亜は踵を返して下へ降りて行った。



「お待たせ。今日も美味しそうだな」


「滅相もございません。嫁修行の一環として料理を覚えるのが楽しくて、今ではレパートリーが増えています」


「それは良かったよ」


 涼太は苦笑いしながら、朝食を口にした。

 朝食はトーストしたパンにバターが乗っていて、サラダが小鉢に盛られている。

 そして、牛乳が置かれていた。


「それでさ、仮にも俺たちは許嫁なんだから敬語は辞めないか?」


 涼太はずっと疑問に思っていた事を素直に聞いた。

 許嫁ならもっと親しくなりたい。でも、相手が敬語で話すと自分まで少し距離が出来てしまうと考えていた。


「いえ、このスタイルで突き通していきます」


 麗亜は強固として敬語をやめるつもりはないらしい。

 それに対して、涼太は「結婚してからも?」と聞き返してしまう。


「それは…考えておきます」


 麗亜の反応に、涼太は思わず目を見開いて「えっ…!?」と言う表情をした。


「それより、ほんとうにお時間がやばいですよ?」


「えっ、あっ、やば!!もう行かなきゃ」


 そう言って涼太は急いで身支度を整え、ドアを出ようとした。

 その時に麗亜に呼び止められた。


「いってらっしゃい。あ・な・た」


「………いきなり辞めてくれー!!!」


 突然の不意打ちに涼太は一瞬時が止まったが、我に振り返り顔を赤くしてドアを勢いよく飛び出して行った。


「私の涼太さんはほんと可愛いですね」


 涼太を見送ったあと、麗亜は〝うふふ〟と言いながら呟いた。



「あー…もう、麗亜の奴いきなりあの呼び名はやめてくれよ…」


 通学路でブツブツ呟きながら、いつの間にか学校に着いていた。


 涼太はさっさと教室まで行き机に鞄を置いて、座って寝ていた。

 基本的にいつも誰とも話さずにホームルームが始まるまでこの状態が多い。

 なので、周りも気にしないし、話しかける事もないのだ。

 

 五分後に先生が教室に入ってきた。


「え〜、ホームルームを始める前にこの時期に珍しく転校生を紹介したいと思います」


 そう言って、教室の外にいる転校生に話しかけていた。

 教室内は〝転校生〟と言う言葉に「どんな子が来るかな〜」や男子の場合は「俺は絶対に女子がいい!!」など圧倒的に欲望がでてる。


 周りの反応を見ながら先生は呼び寄せた。


 入ってくるなり、周りは「きたー。女子だー!」「可愛い〜それに髪綺麗〜」など様々な言葉が聞こえるが涼太は「有り得ない」っていう表情をしながら目を大きく見開いていた。


「初めまして。私は川神麗亜と言います」


 麗亜は自己紹介をして、一旦涼太の方を見ると改めて口を開いた。


「そこにいる、大浪涼太さんの専属メイドをしております」


 麗亜による爆弾発言を落とされた。

 それを聞いた教室の生徒達は一斉に涼太の方を見てから「なぜ…なぜ、あいつがご主人様なんだー!!!!」「あいつ許さない…」「えっー!!川神さんその話詳しく」と男子は絶叫し、女子は興味津々であった。


 一方、涼太はと言うと…


「勘弁してくれ…俺はただ平穏に過ごしたいのに」


 と、へこんでいた。


 それからと言うもの、授業中は皆んなの視線が涼太と麗亜に向き、昼休みとなれば二人に質問攻めをする事になった。

 



 学校での生活をなんとか乗り切り帰り道、涼太は麗亜と帰路についていた。


「なぁ、朝に転校してきたとか一言言えなかったのか?」


「言えませんでした」


 涼太は朝に転校の事を聞いていたら、多少の覚悟とか出来たのにな…っと思っていた。

 そんな気持ちとは裏腹に、麗亜はそれはもうキッパリと返答してきた。


「な、なんで言えないんだよ。俺の許嫁で専属メイドなんだろ?伝える義務とかあるんじゃないの?」


「面白そうだから伝えませんでした」


 涼太はその事を聞いて「えっ…」って表情をしてその場に立ち止まってしまった。

 そんな姿を見て"ニヤニヤ"としてくる麗亜。

 

 麗亜は普段はクールだが、時々あざとい感じで普段見せない表情を見せるから、涼太も麗亜の事がどんどん好きになる。

 なので、威厳がなくなる涼太である。


「さっ、帰りましょう涼太様」


「様はやめてくれ…」


「帰りましょか。あなた」


「それもやめてほしいです…」


「涼ちゃん帰りましょか」


「……妥協するしかないのか。あぁ、帰ろう」


 〝様〟はやだ。〝あなた〟もやだ。

 そんな中で、涼ちゃんは前の二つよりも妥協すれば可愛いものだと思った。


 それを聞いた麗亜は"あらあら"とした素振りを見せながら、二人はまた歩き出した。



 家に着くまでの間、会話はそれ以降なく涼太の頭の中では「これから先、俺はほんとに大丈夫なのか…」と悩んでいた。

 麗亜は涼太の悩みを想像しながら、悩んでいる姿を横目で見て「これからもよろしくお願いしますね。あ・な・た」と心の中で呟きながら微笑んだ。

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