俺をパーティーから追放して欲しい
「今日はみんなにお願いがあるんだ……」
俺たちはしがない冒険者。
そこそこ強い俺たちはそこそこの地位まで登り詰めていた。4人パーティーと少ない人数だが、それでも俺たちは頑張ってきたんだ。
今日、俺たちを呼んだのはこいつ。うちの支援担当、盗賊くんだ。
「どうしたんだよ! 転職か? 勿論経費で落ちるから安心していいぞ」
「いや、盗賊って職は気に入ってるからいいんだ……そうじゃなくて、本当に自分勝手で申し訳ないんだけど、俺をパーティーから追放して欲しい」
しばらく沈黙が続いた。次に口を開いたのは俺たちの頼れる固定砲台、魔法使いの姐さんだ。姐さんって言うのはそう呼べと強制されている。
「何か嫌なコトがあったのねん!? 何!? アタシ!?」
「いや……みんなは何も悪くないんだ。本当に俺の中の問題、って言うか……」
「もっと上を目指してみたくなった、とかか……?」
「いや……強さにも満足してるんだ。ぶっちゃけこの国でもかなり強いと思うし……俺たちのパーティー……」
「まさか引退なのん? 盗賊くんまだ20代でしょ確かに盗賊はアクロバティックな動きが多いけどん……」
「もしかして実家関係か? お母さんが倒れたとか……でも追放なんてできねーよ……!」
「落ち着くのだみんな。盗賊にだって事情があるのだ」
矢継ぎ早に質問する俺たちを止めたのは頼りになる小さな巨人、盾役の騎士さんだ。
「ここまで聞いて答えないのだ。何かよっぽど深い事情があるのだ。そうだろう? 盗賊くん」
「いや……ないですけど……」
「ないのかよ!?」
「いや。理由ならありますけど、深いかと問われるとちょっと……」
「どちらにせよ俺たちは盗賊に抜けて欲しくないのは一致してるんだ。いやなところを言ってくれればできる限り善処したいとも思ってるし……それにお前の支援がないと、俺たちやっていけねーよ!」
そうだそうだと騎士さんも姐さんも頷いてくれた。盗賊はちょっと嬉しそうだけど、やっぱり追放してほしい意志は変わらないらしい。
「盗賊の気持ちはわかった……うちを辞めたいんだな……確かに俺たちも、お前の支援に頼りっぱなしで負担を強いていたかもしれない……休職じゃダメか……?」
「いや? 正直このパーティーの事はめちゃくちゃ気に入ってるけど。それに、辞めるんじゃなくて追放して欲しいんだ」
「お前は何がしたいんだよ!!!!!!」
思わず立ち上がりビンタしようとする俺を姐さんが羽交い絞めにする。大人しく席についた俺は咳ばらいを一つして、冷静な心を取り戻した。
「追放なんて無理だ。そんなこと知れたら世間体が悪すぎるし、そもそも盗賊を追放する理由なんてない。ずっといて欲しいし……」
「いやぁ~照れるなぁ~」
「じゃあパーティーに残ってくれるか?」
「いや、それは別の話」
「なんなんだよ!!!!!!」
思わず立ち上がりチョップしようとする俺を、騎士さんがどついて黙らせる。俺は患部をさすりながら、深呼吸をして冷静な心を取り戻した。
「ふぅ……どんなちっぽけな理由でもかまわないから教えてくれないか……」
「いや、えぇ。う~ん……色々あるんだけど……」
「色々あるのか!?」
「いやいや、こっちの話。例えば最近の話だと、大陸の勇者パーティーの話とか、伝説の勇者の日記とかにさ、役立たずだとパーティーから追放されてから活躍する話が多いじゃん。俺もそれやってみたくて。役立たずだと蔑まれた俺に同情して美少女たちが慰めに来て、俺の真の力がみんなに理解されて美少女軍団と最強無双~みたいな?」
盗賊くんを殴る俺を止める者はいなかった。
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