095
さて、帰る準備だ。帰路も7日かな?
「と言っても、何を準備するんだ?」
「一応の保存食、でしょうか? あとは野宿用のマント?」
「宿は用意してくれるとは条件だが、構えとくか」
依頼主が全く未知だからな。宿が奴隷扱いなら馬屋とかありうる。食事は昼の分かな。朝も怪しいか? 夕は宿場町で食えるか。
「武器とかスキルは見せていいのか? 秘密が多いんだろ?」
「属性攻撃は控える。それでいいだろう。サロワナ、すまんが武器はエフェロナのロングソードで対応してくれ」
「ああいいぞ」
「ご主人様、転職をしていいですか? 薙刀には「剣姫」より「杖術」の方が向いています」
「私も、ロザンナも、「術射」を、「杖術」にする」
「俺も四文字職をそろそろ隠したいな。転職をしたら買い物だ」
「「「はい」」」
○ ○ ○
みんなは予定通りな転職。
俺は「妖術使い」と「正刀村正」と「村人」と「正人」の四文字バグ職「妖刀村正」。四文字職の中では好みが別れるバグ職。ゲームではそこまで強くない。
スキル構成は攻撃スキル二つにパッシブスキル二つ。
逆風、左斬上、左薙、逆袈裟、に魔力斬撃が乗り射程が伸びる『逆斬り』。「村正」と同様な刺突技に魔力斬撃を乗せ射程が伸びた『刺突』。攻撃スキルに華はない。
人気なのはパッシブスキル。攻撃が全て吸血効果を持たせる『妖刀』。「村正」では耐久値の回復と武具性能二割程度の上昇であった吸血効果の上限を五割まで解放する『血狂い』。この評価でゲームでは使い手を選ぶ。
まあこっちじゃ吸血効果が強い。本当に強い。ゲームじゃまともな判定では無かったのに、こっちじゃ狂ったように強い。獣の血抜き不要だ。生きてても吸われる。俺は食らいたくはないな。
「終わりましたか?」
「ああ。これでお偉いさんを全て隠せた」
「次はお買い物ですね」
「………………ああ」
○ ○ ○
奥さん達は適当な男に逆ナンして振ってった。まあ、ただの聞き込みだ。広いし土地勘ないからね。王都を網羅するのは無理なので既製品の新品の服を取り扱う服屋へ。
オーダーメイドも取り扱うようだ。客層は中間層からちょい上のそこそこ金のある人。王都では案外多いし、客商売の商人が訪れて外向きの服を買うようだ。
「気に入ったら買っていいぞ」
「「「はーい♪」」」
まあ、買わない。仕入れるのは知識。商品の男女比率は半々か。目的の雨具兼夜営用寝具のマントの取り扱いは少なめ。でも雨具は毛皮であり高級品のようだ。安い皮製は薄くて痛みやすい。ウルフの毛皮を繋ぎ合わせるのが主流。ここは違うようだな。
まあ、先に述べたように仕入れるのは知識。コボルト骨布製のコートが化けるだけ。ここで情報と言わずに知識なのは、一般に公開しているから。統制されていない情報は価値が極端に低くなる。大体がタダ。まあ、全ての情報にお金がかかったら会話ができんよな。
「これ、いい」
「これも悪くないわ」
「いや、こっちだろ!」
「「それ、男物よ」」
「いいじゃんか。あー、胸がな」
「もぎます?」
「ひっ! フィ、フィーリアちゃんにはこっちじゃね?」
「いいのは色ですよね。赤はないですよ」
長くなるとは思ったが、買う気が見られない。あー、アリエッタさんへの土産に王都の服にするか。多分、かなり世話になってると思う。それなら商品も買うし、冷やかしにならないだろう。
「「「浮気ですか?」」」
「薬師男衆が絶対に迷惑かけてるって。あいつらポーションより調味料を作りたがるだろ。詫びだよ、詫び!」
微量な回復効果があるのでポーション扱いしてくれているが、あれは冒険者ギルドの商品じゃない。多分、困ってる。うん。そういう理由で選んでもらう。サイズの辺は俺より人を良く見るお姉さん達が詳しいからな。
「……ギルティ」
「フィーリアさん、マジで下心ないよ。お土産だよ」
「男が女に服を送るのは脱がせるためです」
「じゃ、ここで欲しい自分用はあるの?」
「あるわけ無いじゃないですか」
「声は小さめに。おもいっきり冷やかしじゃん。店に悪いから苦肉に策なの。分かってよ」
「今晩、いっぱい服を脱がしたら許し……妥協します」
「許してはくれないのね。でもそれでお願いします」
昼が過ぎるまで、奥さん達は服屋を漁ったよ。それにしても既製品でも新品は高いな。五着で2000ルークだったよ。まあ、いいか。
○ ○ ○
詫びの一つに富裕層団地方面に構える飯屋で昼食。300ルークなり。普段の食堂なら十回食える。最後に仄かに甘いデザートは好印象だったよ。
その後は日持ちする食材を買って帰宅。奥さん達は夕食作り。結局、お風呂の湯は入れ替えなかったな。「やりましたよ」とのロザンナ。それでお湯が汚れてないのか。ありがとう。
玄関を一人で出て、庭に話しかける。
「お世話になりました。明日の朝出ますが、掃除は広すぎて無理です。それでもいいですか?」
姿なく声が帰ってくる。
「全く問題ありません。我らを許していただき有り難く思います」
「隠密さんに敵意がないからね。ご苦労様でした」
「はっ」
この老齢の隠密さん。声すら何処からするのか誤魔化せる。魔王ごっこの時、この人だけは感で呼んだんだよね。うん、この人なら殺されそう。
○ ○ ○
ファッションショー。で、俺が脱がすのが一連の流れ。服のデザイン変更は選択肢が膨大らしくて、王都ファッションとはズレていたんだよね。何処か現代風なアレンジから、ファンタジー街娘に近付いたよ。でも、溢れる色香が包みきれない。
それを脱がす俺。
うん。勝ち組。ああ、脱がすだけで終わらないのが奥さん達だよ。朝は控えるように言ったら。
「日が昇るまでね」
との鮮烈な解釈で、ゆっくりと、ねっとりと、夜は更けていった。
○ ○ ○
眠い。いや、俺も誘われたら乗るから悪いんだけど、睡眠時感がやっぱり少ないな。しかし、外で気配がするので問答無用で動き出す。奥さん達は何で元気なんだろう?
朝食? 寝坊には与えられはせんよ。
「おはようございます。護衛の身分で依頼主に出向いてもらい、申し訳ありません」
「いえ、何も問題ございません」
ザ・セバスチャン。初老の執事だ。依頼主でありファースト領の新領主は馬車かな? 挨拶はどうしよう? とりあえずザ・セバスチャンにしとくか。
「先ずは挨拶を。これから護衛任務に就かせて頂く冒険者のドライです。奥は、フィーリア、ロザンナ、ミーディイ、サロワナ、エフェロナ。以上の六名です」
「これは丁寧にありがとうございます。私は旧ファースト領に執事として派遣されるセバスと申します。私の主人に当たるユーリナお嬢様は人見知りゆえ、時を見てご挨拶させてください」
ふむ。良かった。無理に依頼主に出てきて貰わないで、反感を買うとこだったか。しかし、全く見定められないな。ユーリナお嬢様と言うのが王家の末席の人物か。
「早速ですが、出立して宜しいですか」
「はい、どうぞ」
二頭引きの馬車に護衛が徒歩の兵士が四人。んー、兵士はそこまで弱くは見えない。あと、この世界は急ぎでもないと護衛は徒歩だ。一般人は当然だが、貴族でもゆっくりならば徒歩にペースを合わせる。
何故か? 馬を育てる環境が小さいからだ。モンスターは人を狙うのだが、飼い慣らしたい馬を放置の放牧で育てられはしない。人の手がいる。野生馬は扱いに困るからだ。で、数は少ないので、荷を引っ張る馬が主流。
ゲームでの移動手段は徒歩だ。職業レベルによるステータス向上が速度に直結する。まあ、行きの後半と同じ感じだ。走れば早いのだ、馬よりも。走る職業にスキルもあり、ワープかと思うほどの超加速も実現可能だった。
なので、急ぐ場合は俺らが走る。
そんなことしなくてもこの世界は、徒歩半日ちょいで宿場町が存在するので街道は双六のように一マスずつ進む。一日一マス。
と言うことで、衛星都市に出発だ。