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088

 夜明けを待たずに起床。うーん、高級宿との落差が激しい。せめて毛布は買っておくべきだったか。


「朝食です。昨日の残りですが」


 見越して多めに調理してくれてたようだ。ありがとう。ササッと食って薄暗い宿場町を出る。



  ○  ○  ○



「走るのも楽だよな」


「サロワナは走っててもよく喋るよな」


「暇じゃないけど、ウルフが弱いんだよな」


「失敗しました。「剣姫」のスキルが使えません」


 あー、薙刀は西洋剣じゃないな。分類なら刀と杖。昨日はスキル無しで試してたから忘れてたや。走るのが楽なのは体力を「強癒」が回復するからであって、魔力は微量に減ってるぞ。


 先頭は俺とサロワナとエフェロナ。後ろに後衛組。ウルフを中心にボアも稀に出る。特に気にはならないが、走っているので不意打ちが危ない。モンスターは夜目がきく。獣なのに目で判断する。耳や鼻は飾りか?


 なんやと言っている内に次の宿場町。



  ○  ○  ○



「荒れてる!」


「これは、うん、荒れてるな」


 王都を拠点としている冒険者が最後まで面倒見なかったのだろう。冒険者ギルドの支所が大混乱。護衛がいないのだろうか。まあ、方向は逆なので面倒を見る気もない。


「食事は……次の町も怪しいですね」


「いや、空いてないかな? 王都の衛星都市だろ?」


「飽和してなければ、ですね」


 食堂も大混乱。元々がキャパが小さいのだ。団体を複数さばけというのが酷な話である。特に応援もできないが、心で頑張れと祈る。


 脱出。



  ○  ○  ○



「こんなに、走れるのが、不思議」


「そうよね。気持ちがいいわ」


 体を売るが肉体労働ではない夜の蝶。さらに貧困で痩せていたのだ。もう半日程度は走っているのに疲れ知らず。運動は気分も持ち上げると聞くしな。善き善き。


「ブラジャーが無かったら胸が千切れてますね」


「……もげろ」


「フィーリア。これからだって」


 奥さん達はフィーリア以外は特盛である。背の低いミーディイが一番だったりする。俺の触診の測定結果だ。出会った頃は痩せていたのにも関わらずしっかりと主張していた。今ははち切れるほどにパンパンです。ご馳走です。


「フィーリアー。それは不味い。薙刀は洒落にならん」


「私のを愛して!」


「いっぱいマッサージするよ。許して」


「今晩は野宿でも所望する!」


 おおう。どこで覚えたか、抱かれれば育つ、ってのを実践するらしい。いや、多分だけど、胸の前にお腹が膨らむよ。あぁ、それは望むところね。



  ○  ○  ○



「入領税は一人100ルークだ」


「はい。合わせて600ルークです。お納めください」


 どこぞのWeb小説では冒険者はタックスフリーらしいが、この世界は無条件に税が徴収される。商人なんかは時間も食う。関税対象商品なら税金の支払いがあるからね。


 ここでアイテムボックスの扱いだが、商業ギルド所属以外はフリーだったりする。全て調べてたら大変なんだとさ。だから結構な抜け荷がある。あー、冒険者でも商業ギルド所属の商人の護衛は対象になる。面倒な。


 無事に通過して、関所の少し先の衛星都市に到着。


 ここは王都から南と東の合流地点。所属はルーク王都。ファースト領の首都よりデカい。流動が激しいので、王都に集約させないようにクッション的な街になっている。


 時刻は体感で昼の二時かな。留まるか、王都に駆け込むか悩むが。


「宿? 新国祭から荒れていて、ここも王都も紹介は無理だ」


 と言う、衛星都市の門番からのありがたい助言だ。どうしろと? とりあえず門を潜れば大変な数の人が溢れていた。んー、ここでも宿が怪しい。王都はどのくらい混乱してるだろうか?


 手分けして聞き込み。男性の口は奥さん達には軽いのだ。美人って得だよな。俺? フィーリアに頼んでるよ。幼くても美人さんだからね。その代わりあしらい方が下手なので俺が居るんだよ。


「王都の方が空いてるってよ」


「それは、怪しい。安全な宿、空いてない」


「らしいですね。他国の来賓の方々はまだ残っているようですから、警備がそちらに向いているようですよ」


「でもさ、ここも警備って面なら同じじゃね?」


「そう言われると、どっちも一緒って事ですね」


 みんなの目が集まる。ここから王都までは徒歩で二時間ちょい。そこまで離れてはいない。離れすぎると不便だしな。それはいい。ふむ。走れば夕方前には着く。ならば、目的地で探す方が良くね?


「もうひと踏ん張り、頑張ろう!」


「「「はーい」」」



  ○  ○  ○



「注目されますね」


 美人集団の爆走。誰もが見る。男は見過ぎて首を捻る。まあ、揺れる揺れる。今考えても、情緒ない旅行だよなぁ。


「さすがに付け根が痛いわ」


「支えれば楽じゃね?」


「やるの? 私は、遠慮する」


「そうね。無意味に主張していて恥ずかしいわ」


「……みんな、もぐぞ!」


「「「ひぃ!」」」


 この爆走で一番痛いのはフィーリアのコンプレックスかもしれない。フィーリアはお世辞にも揺れ……が少ないのだ。危ねっ! かすったよ。


「今から豊胸マッサージを所望します!」


「路上で!? 王都はもうすぐだから、刃物は仕舞おうか。フィーリアが第一夫人だよー」


「宿見つけたら覚えとけ!」


 フィーリアがグレた? ダークサイドに堕ちやすい娘だよな。優しくしてるのになぁ。直ぐに嫉妬に妬みが入る。そして、最終的に俺に降りかかるんだよな。困った奥さんだ。



  ○  ○  ○



「えっ!? あの、お住まいは?」


「はい? ファーストに定宿と借家はありますが……どうされました?」


 王都の門番が妙に畏まってる? 何故だろう?


「確認がとれました。冒険者のドライ様ですね。もし不都合がなければ、王都での予定と、滞在先をお伺いできればと思います」


 様? なんで?


「宿は今からなので……えっと、オークションが王都であるので冒険者ギルドを経由して出品を……えっと、これでいいですか?」


「少々お待ちください。おい! 休憩室に案内しろ! あっ、失礼しました。こちらで宿の空きを伺ってこようと思いますので、もし苦痛でなければこちらの休憩室にてお待ちください」


「あの? なんで?」


「ご本人なのでお伝えします。新王からの勅命で、粗相のないように丁重にもてなせ、と伺っております」


 あっちの対応からして、怒ってはないっぽい。「王子」を剥奪したんだけどな。「新国王」はあげたけど、帳尻あってる? 相手の性格が全く分からないから反応し辛い。


「(ご主人様。少し流されてみるのもいいと思いますよ。武力では油断しても勝てるのではないですか?)」


「(俺より、みんなが心配。どう?)」


「(私は騙してるようには見えませんよ)」


「(うん。少なくとも、末端は、賓客待遇)」


 内緒話もしっかり距離を取ってくれて聞き耳すらたてていない門番さん。丁寧な対応なので。


「では、お言葉に甘えます」


「(ほっ。)では、ご案内します」


 待てば宿の手配をしてくれる王都の兵士。俺がどんな立ち位置なのかよく分からんが、流されることにした。

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