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009

 欲求と理性がせめぎあうと俺は強制シャットダウンするらしい。昨晩もよく寝た。シーツを剥ぎ、腕に抱きつくフィーリアを見る。


 フィーリアの寝巻きからパンツがフェードアウトして、シャツとショーツの肌色多めになっている。この世界の下着はトランクスタイプが主流か。隙間に興味が……朝から強制シャットダウンしそうだ。


「フィーリア、起きて。離れてくれ」


「んぅ、もっとぉ♡」


「冤罪だ!」


「ヘタレです」


「起きてるなら離れてくれ。生活危ないんだぞ」


 今晩の宿はあれど、前払いだ。朝には120ルーク払って少し余裕を持たせる予定だ。だが同時に財布の余裕が消失する。


「なあ、俺って臭うだろ。離れとけって」


 未洗濯が2日。自分でも臭うと思う。


「人の匂いって安心するって実感してるんです。もう少しだけ」


 親に捨てられて、孤独で必死な生活をしてたフィーリアには同情はする。が、上に被さって胸板の臭いを嗅ぐな! フィーリアのお腹辺りに朝の生理現象が……


「元気なのになぁ」


 ぐふっ!



  ○  ○  ○



「あれ、入るのかなぁ?」


 手でリアルな寸法を表すな! 平均サイズだと思ってるぞ! 童貞はその辺のデリケートな情報に敏感なんだよ!


 朝帰りの夜の蝶が寄るだろう定食屋で5ルーク定食の朝飯。宿の親父に2晩の前払いで財布残高は37ルーク。寒過ぎる。


「お姉さん、このくらいの……」


 カウンター席の隣のお姉さんにサイズを聞いてらっしゃる。夜の蝶なお姉さんの色香で酔いそうだったから、止めたかったが止められなかった。情報を遮断して黙々と食らう。


「へー。ありがとう♪」


「いえいえ。若いってだけでスゴいわよ♡ 腰は労ってね」


 夜の蝶はヒラヒラと手を降って飛び立った。いい人っぽいけど、猥談を朝食で話すな! 得意分野とばかりに色々とフィーリアに吹き込んでただろ。あんなのフィーリアがしたら理性が負けそう。ああ、やっぱり聞いてしまったのだよ。俺も男。気になるじゃん。


「ご主人様♪」


 ご機嫌だが、冷めた朝食を早く食え。あと、こっちの平均サイズで男の尊厳は守られた。新品だけど。



  ○  ○  ○



 この世界は、ゲームなのか、リアルなのか。2日過ごして体感はここに生きていると訴えるが、ゲーム出会ってほしいとも願う自分もいる。


「ゴブリン♪ ゴブリン♪」


 るんるんで耳を削ぎ落とすフィーリアには申し訳ないが、俺の実力ならもっと奥へと進める筈だ。しかし、このゴブリンを殴る感触が否応なく伝えてくる。俺が食らったら死ぬと。


 ゲームであれば、リプレイを押すだけで身も綺麗に復活だ。しかし、ここはそんなギリギリの戦いを挑める環境ではない。詰めば死だ。だから、ゴブリン(最弱)で止まっている。


 こっちの初級ダンジョンに来てからエンカウントは増えたので危険は増しただろうが、相手がゴブリンだ。稀にソードマンが混ざるがそれだけだ。使わないゴブリンソードのストックが増えていく。


「ご主人様? 考え事してると怪我しますよ」


「すまん。ちょっと自分の弱さにヘコんでいただけだ」


「心の強さは自信からですよ。武力は同レベルから逸脱しているので、そんな悩みではありませんよね。男は女を抱くと強くなれるそうですよ♪」


「それは蛮勇だ。(おご)るだけだ。俺はそんなに安いか?」


「違いますよ。そっちのバカな男じゃないです。守るものがあれば踏み出せる一歩もあるって言うことです。でも、ご主人様はこれでいいです」


 守るもの? そんなの無いぞ。急にゲームのようでリアルな世界に放り込まれたのだ。


 守るもの? あっちの世界にあったっけ? ぬくぬくと扶養の恩恵を受けていた学生だ。親に恩があっても、ここで強くなる意味がない。


 守るもの? フィーリアか? 不遇な美少女を奴隷からの解放が俺の守るものだろうか? いや、強さの先にあるものではない気がする。これは別の問題だ。


 守るもの、か。


「んー、ご主人様って生きてるって実感が薄いのですか? 何故か、強いのに危ない気がします。焦らないでくださいね。貧乏でも生きてる方が勝ちです」


「なあ」


「はい?」


「俺って異世界(ここ)に捨てられたのかな?」


「なら私は幸せですね。ご主人様を拾っちゃった」


 つい最近のことでも過去か。フィーリアは前を、未来を見てる。うん、俺って拾われて救われたんだな。


「フィーリアは奴隷から解放されたらどうする?」


「また奴隷に落ちてご主人(ドライ)様に買ってもらいます」


「ははっ。フィーリアはすごいな。奴隷じゃなきゃ隣には居てくれないの?」


「ご主人様は弱いと思っているので、立場が下の方がご主人様の傍に居るのに適してますよ。早く全てを奪って所有物にしてくださいね。私も不安なのですよ」


 守るもの、か。なら、今の守るものはフィーリアの安心だな。うん。俺って童貞で男だから単純でいいや。ここまで言われたら騙されてもいいや。フィーリアを大切にする。


「いや、襲ってくださいよ」


「それは別の部分が強くなったらな」


「平均より上で若いから大丈夫です」


「違う! メンタル部分! 童貞は夢見るものなの!」


「変に偏屈ですね。今晩はもう一枚減らしましょう」


 どっちを!? 上? 下? どっちもヤバイって! せっかく大切にするって誓ったのにその晩に汚すとか……俺、卒業間際か?


「ご主人様。40匹でアイテムボックスが一杯です。もう1つは汚したくないです」


「アイテムボックスって汚れるの? まあいっか、帰ろ」


「今日のお昼は何かな~」


 戦果は上々。話ながらも手は動かしていたしね。一杯の食事で満たされる幸せもあるよな。


 うん。こっちの方が生きやすい。息が楽だ。社会は遅れてるし、俺の知る世界はまだ狭いが、不便で狭いのも心地よい。治安も悪いだろうけど、そこはゲームの情報を上手に使って強くなろう。


 あー、あっちに帰るのが惜しいな。こっちで楽しめるだけ楽しもう。まあ、帰る目処はないから、一日一日を楽しもう。

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