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S003

 くっ。まさか父上が亡くなるとは。私を傀儡にしようとしていたのは明白であったが、王位さえ奪えばどうにでも扱えると思っていた。その「国王陛下」が父上が死しても委譲されない。


「フォンベルズ王、国葬を執り行いますか?」


「いや、これは不味いな。未だ「王子」のままだ。それも継承権が二番目、私は今は王ではない」


「「王太子」と同じく「国王陛下」までもが支払われたと」


「そうだ。あと少しでこの王国の頂点に立てたのだがな」


 財務卿も私に賛同し、「国王陛下」に就いたら真っ先に特別役職枠を与え、貴族派閥を全て一緒に塗り替える予定であった。無駄に派閥なんぞが出来上がっていたせいで、私は兄上を越えることは敵わなかった。


 今回の兄上の死去の一件で慌てた貴族はリストアップしている。それらを降爵し、私達の息のかかったものを陞爵する。そうして私の「国王陛下」は磐石になる予定であった。


「財務卿よ。その情報はそれほどの物だったのだな」


「はい。少なくとも国庫で賄える額を越えておりました。この度の情報は私も「王級公証人」にて縛らないと自分の身が危ないゆえ、もうお伝えすることは叶いません」


「父上もまさかルーク王国の歴史でもある特別役職枠を全て注ぎ込むとは思わなかったが、ふむ、毒を抜くにはいい機会ではあるな」


「そうですな。「王子」である以上は臣民の忠誠により、「国王陛下」は戻ってくるでしょう」


 そう、「国王陛下」は民が選ぶのだ。一時的にかの者のなっているが、王位継承権のある「王子」の私がいれば、冒険者程度の無名な輩には敗けぬ。国を動かす者、臣民が国を預けるという人物にこそ「国王陛下」は選ばれるのだ。


「父上の国葬は王位継承の後にゆっくりと公表しよう。式典はめでたいものでなければな」


「分かりました。そのように執り行い「うぐっ!?」……王子? どうされましたか? 医者を……」


「くそがぁあぁーーー!!! たかが冒険者の分際で「王子」を奪いよったぞ! くそっ! くそがっ! 何故、冒険者が『王命』を使えるんだよ!」


 地位との差をベースに魔力消費が決まる『王命』は、たかが冒険者程度で扱える魔力消費ではないと踏んでいた。無名な輩には莫大な魔力消費が必要な筈だ。父上ですら連発は出来なかったんだぞ。


 そう、国の頂点で最高の地位にあり、六文字職の魔力を持ってしても、公爵を奪うのにその日は寝込んだときく。有能な公爵は地位の差が狭いゆえ、力ずくの魔力消費で奪った筈だ。


 無名な輩に、時期国王の私。地位の差は明確だ。ならば魔力消費による無理矢理の行使しかない。一体、どうやって、その魔力を補ったのだ? 全く想像がつかない。


「「王子」を奪われた……のですか? それでは……」


「ああ。「国王陛下」を奪い返す権利がない。父上は私以外の特別役職枠を残していない。かの情報の対価は、この王国の歴史に相当したということだ。くそっ」


「王子……いや、フォンベルズ王。新国設立しか手が有りませぬぞ」


「財務卿。今なら、財務卿でも王になれるぞ。国は臣民の富だ。誰であっても成れるのだぞ。臣民が選べば誰でも王に成れる」


「私には過分な地位です。このまま式典を行い、ルーク王家の名声を利用して、かの冒険者には国を渡さぬ以外の手がありませぬ」


「……そうか。これ以上、あの冒険者に与えてやる気はないな」


「左様でございます。新生ルーク王国の初代国王にフォンベルズ様が成られるのです」


 これは苦肉の策だ。この先十年、国を運営した実績がなければ「国王陛下」には就けん。その間、かの冒険者に怯えて過ごすことになる。


 それに、特別役職枠のない国なぞ、他国から見れば信用のない国と言っている様なものだ。特別役職枠の数こそが、正常に国を運営してきた証であり歴史なのだ。


 新国設立はリスクが大きいぞ。



  ○  ○  ○



 時は無情だな。


 式典は朝からだ。各国の来賓も交えて「この国は一度潰れて、再建します」と伝えなければならない。臣民の反感を買えば、もう再建の前に各国の領土争いの戦地になるだろう。


 向こう十年。かの冒険者の動向も気になる。だが、臣民の同情を得て、結束を固め、他国からの侵略に備えなければならない。


 訴えた。臣民に。他国にも。この国には可能性が眠っていると。それを早急に欲して父上は全てを失って亡くなったと。それほどの財がこの国には埋まっていると。


 かの冒険者を利用した。詳細は全て濁した。私はその情報を知らないからな。何を言おうともかの冒険者へ不利益はない。ただ、ルーク家がその価値を評価しただけだ。


 父上には王国滅亡の汚名を着せ、臣民の怒りは先王へと向ける。


 私は新国の設立を宣言する。新生ルーク王国の設立を。この逆境は臣民の力で取り戻すのだと。いや、餌もばら蒔いた。貴族がただの統治者に落ち着くのだ。権力の失墜。下克上の可能性。成り上がる可能性を。


 向こう十年、その真価で貴族が選ばれる。そう、私が掬い上げてやると。正しき治世を臣民が作るのだと。


 この国は一般民でも貴族に成れる、と。



  ○  ○  ○



 気が付けば私は特別役職枠の「新国王」を得ていた。これは「国王陛下」の前段階。このルーク王国は新生ルーク王国と認められ、この先十年を見事に統治すれば、私は誰もが認める「国王陛下」になる。


 これは、旧ルーク王国の滅亡に同意した、かの冒険者からだろう。


 財務卿が情報は濁して伝えてきた。神が隠して連れ去ってきた異国の者らしい。ファースト卿に目をつけられ、情報を差し出したと。ファースト卿にはバグ体質の者の救済を報酬に要求したそうだ。


 ファースト卿が素直にかの冒険者と協力して、かの冒険者の情報として扱っておればこのような事態にはなっておらなかったか。ファースト卿も、父上も、独占を狙っていたからの結末。


 かの冒険者は悪ではなかったのだな。


 今では百人ものバグ体質の者の面倒を見ているそうだ。娶った妻は最高級の衣服で着飾り、とても幸せそうだと。この国にはバグ体質は奴隷以下の実情がある。私欲へ駈られた者への報復と考えれば、私達が悪だったか。


 今さら詫びはないな。かの冒険者は私達が不審であろう。陰ながらの協力で許されるまで待つとするか。


 会わないとは思わないが、偶然にでも会えることを期待しよう。

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