082
昼過ぎの冒険者ギルドの酒場。大体が作りは同じ。広く席の多いテーブルセットが並び、階段横にはポーション売り場がある。
あえて、ど真ん中に陣取った。
隅だと囲われたら身動きとれない気がしたんだよね。複数のグループが牽制しあえば騒ぎも大きくはならないだろう。まあ、騒ぎを起こす要素は美人の五人の奥さん達だがな。
過度なのには介入するが、とりあえず転職を悩む。
二文字職 村正
レベル10
二文字職 戦術
レベル10
二文字職 強癒
レベル10
三文字職 残具創
レベル15
三文字職 心技体
レベル14
四文字職 妖刀村正
レベル1
五文字職 -
レベル-
六文字職 -
レベル-
とまでは暫定的だが決めた。五文字職や六文字職で有名なバグ職は「怒羅権」シリーズだろう。「怒髪拳士」と「森羅聖霊師」と「権謀術策士」の当て字だ。
この中で「怒髪拳士」と「権謀術策士」はもう得てたりする。
「怒髪拳士」は、モンスター千匹を一撃連続討伐、という楽な職業だ。雑魚狩りに勤しんでいた俺には楽な条件だったな。
「権謀術策士」は特殊なのだが、クランやギルドやパーティであり対人戦で圧勝する、というものだが元ギルドマスターで判定があったのだろう。
最後の未取得な「森羅聖霊師」は、土属性魔法で五千匹討伐、だ。先の話と思い全く触れていない。土属性の武器すらないが、デザイン変更で達成可能だ。五千匹かぁ。遠いよ。
ここで気付くだろう「怒羅権」シリーズは三文字だ。三文字バグ職には「怒羅権」は存在しないのだ。三文字だと弱いからな。
頭に二文字か三文字を追加される。それも面倒なんだよな。代表的なモンスターのドラゴンは六属性ほど存在する。それから強さが上下するが分類を分けるなら、火水風土と光と闇……こっちなら白と黒か……が存在する。
何を狙うか。
火の「烈怒」、水の「悪蛙」、風の「壊蛙」、土の「斬怒」、この二文字が追加されて五文字となる。
光の「螺威渡」、闇の「堕蛙弓」、この三文字が追加されて六文字となる。
ここで色々なファンタジーゲームのドラゴンの価値観について述べよう。基本的なファンタジーならラスボスや裏ボスにもなってもおかしくはないだろう。それでなくても上位モンスターになるだろう。
俺の愛したVRMMORPG八百万は、中級の敵で落ち着いているのだ。しかも群れる。体長二メートル程度の中型なのだ。結構な数のドラゴンバスターが存在するが、この称号には、まあ意味はない。
そう、群れて仲間思いなモンスターが八百万のドラゴンの位置付けだ。
「そうなんだよなぁ。パーティに影響があるんだよなぁ」
「ご主人様ぁ。ヘルプですよぉ!」
おっと、取り巻きが奥さん達のパーソナルスペースを犯してる。けしからん奴等だ。一番対応が甘いフィーリアが涙目だな。
「おい! 俺の奥さん達に触れたら命がけの決闘をするぞ!」
強く威圧する。が。
「優男が美人五人の旦那だぁ?」
「おい。こいつ殺ったら未亡人だぜ!」
「「「賢いな!」」」
受諾された。一応、掛け金も用意させる。一万ルーク。この辺で結構な数が脱落。最近までは人のことは言えんかったが、この貧乏人め。
残ったのは五人。一対一。俺だけ連戦。不戦敗でも掛け金は支払う。生死は問わない。職業は見せない。以上のルールがロザンナの仕切りで決まった。
冒険者ギルドの職員は一部は暇。「交渉人」も「公証人」も暇していたので公証で契約してスタートとなった。
○ ○ ○
ふむ。とっても面倒だな。かといって無駄に手札を見せたくはない。こちらの世間一般的な最高品質の装備で挑むか。
「「「えぇえーーー!!!」」」
ゴブリンフルアーマー(黒属性)で登場。演出のため、魔力を通して黒いもやを纏っている。なお、武器はゴブリンソード。
「ちょ!? 90万はする黒属性のゴブリンフルアーマーなんて聞いてないぞ!」
もう、一人目から戦意が見られない。
「ハンデにゴブリンソードにしてやってるだろ。ほら、奥さん達を未亡人にするって気合いはどうしたんだ?」
フルフェイスのゴブリンフルアーマー。声が隠る。逆に威圧的に聞こえたようで、完全に沈黙している。後ろに控えてる順番待ちもそうだ。
「一万ルーク。足元に置いて降参しろ。それ以外の動作は試合開始ととる。さっさと選べ」
ちょい強めに黒オーラ。
「「「ひぃ!」」」
慌ててアイテムボックスからお金を出して数えて置いていく。小銭が多いな。両替しといてもらえば良かった。
「返事が無いぞ」
「「「こ、降参だ!」」」
よし、五万ルークゲット! 実際、この鎧って俺には向かないんだよね。動き辛い。むしろ、着ている方がハンデだな。
「あ、あの! 買い取りは無理でしょうか?」
ギルド職員が言ってくる。商魂逞しいな。
「なんぼだ?」
「55万ルークで如何でしょうか?」
「ふむ。値切りたいようだな。この鎧と110万ルークを賭けて決闘にするか? 勝てばタダだぞ。負ければ倍額だがな」
執拗に黒オーラ。
「ひぃ! し、失礼しまし「お、いいな!」……マスター?」
「商品になるんだ。脱いで勝負だろ?」
女……だが、脳筋じゃないな。強い。下手に煽るんじゃなかったか。
「即金110万ルークだ。用意して公証の契約をしろ」
「あー、立場的に死合うのは駄目だ。何処かのバカはそれでギルドを混乱させたって聞いてる。降参でいいなら、戦おうぜ」
○ ○ ○
サクサクっと話が進んでしまった。引き返せないので手札を一枚切るか。殺さないって難しいんだよね。大体が致命傷だ。
鎧を脱いでいつもの装備になる。うん、動き易い。
「珍しいな。カタナってやつか? 聞くより短いんだな」
「小太刀だ。片手用なんだよ」
「なあ? なんで左なんだ? しかも右には舐めたようなゴブリンソード。本気なのか?」
「決闘は始まってるよな? まあ、これはこう使うんだ」
俺と女マスターとの空間にゴブリンソードを投げ付ける。女マスターは一瞬身構えたが、咄嗟に、そして全力で後方へと跳んだ。
シュゴォーン!
へぇ、黒属性の威力マシマシだと、音はくぐもった爆発音になるんだ。
「すまんな。この攻撃に耐えられる武器は少ないんだ。だから使い捨てのゴブリンソードにしている。決して舐めている訳じゃないんだ。あと、命を奪わないようにするが、後遺症は責任取れんぞ。こっちを振るうと最低でも致命傷だからな」
左手の小太刀から黒オーラを発する。ついでに右手にはゴブリンソードを追加。
「ははっ。化け物か? 技量的に同レベルだと思って楽しみたかったのに、この決着か? 普通に打ち合わないのか?」
「済まない。諸事情で攻撃を食らうとあんたが傷付くんだ」
「何だ、それは?」
「どこぞのバカはそれで負けたんだよ」
「あー、三文字バグ職ってお前か。あのバカの全力の一撃を無傷で防いだってのは聞いたが、返すのか」
「自分が放つ必殺の一撃が自分の命を削るんだ。実力が拮抗していると当ててしまう。いや、当たってしまう。命をかけるならいいが、手加減できない以上は無事を保証できない」
「それで、この結末か。隠し手を二つも晒して私に配慮したんだ。潔く敗けを認めよう」
「いや、引き分けでいい。一時いるから、ここのバカ達に奥さん達にナンパはしないように言ってくれ。決闘を汚したしな」
「惚れていいか?」
「あっ、駄目だ! いや、フィーリアさん。これ、ナンパ、違う。ねえ、聞いてる?」
むちゅ~ぅ♡
「っ、ぷはっ! いや、人前で嫉妬しないで。ちょ、みんなも止m……ぷはっ! やめっ。これ以上は駄目だって!」
フィーリアのディープな口封じの応酬を繰り返してると、女マスターがロザンナと話し出した。
「あれ、どうなんだ?」
「若いわよねぇ。ねえ、本気なの?」
「ああ、結構な。あの強さなら文句なく私の代わりになる。それで私は夢の専業主婦だ」
「ですって、フィーリアちゃん。やっぱりナンパよ」
ロザンナ!? 煽ってどうすんの? いや、こんな場所じゃヤらないよ! ズボンから手を離して! 下げちゃ駄目だって!
やーめーてー!
落ち着くまで暫しの時間を要した。日が暮れそうだ。