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S002

 あの忌々しいファースト卿め! 愛しの我が息子を亡き者へと陥れおって! 直ぐにでも首を跳ねて殺りたいがそうもいかん。国家反逆の疑いで軟禁にしか今は出来ん。


「この情報で間違いないか」


「はっ! これ以上の流布は避けるため原本のみの作成としました。謁見の詳細でございます」


 「王級公証人」のスキルで確定しておる。確かに間違いはないのじゃが、これ程の情報がルーク王国を揺るがすとはの。


 バグ職の転職手段。


 ファースト卿め。自分の身の可愛さに王国を巻き込みよった。やはり目の前で殺したい。だが、駄目だ。今や、この情報をもたらしら者へ利を与えることにしかならん。


 国を興して十年。国と呼べる形になるまでを考えれば歳月ははかり知れん。そうして得ることのできる特別役職枠の四文字職業「国王陛下」。そこから更に盛り上げて積み重ねたスキル『役職貸与』。


 今や我が王国は他の国とも見劣りせぬ役職の数よ。特別役職枠の数は国が富む証であり、他国への発言力ともなっておる。


 最愛の息子の死で分かったのだが、特別役職枠すら奪われる。故にファースト卿を殺すことが出来ぬ。あの血族は全て殺すのは我輩の中で決定しておるが、ったく忌々しい。


「父上! 父上!」


「どうした? フォンベルズよ。第二王子が慌てるなぞ……」


「聞いてください! 私が「王子」でありながら第一継承権を所持しております! ウェンベルズ兄様に何があったのですか!」


 何っ!? かの者は王太子を捨てたのか? これは好機と見てよかろう。速やかに行えば勝てる。ちとギャンブルにはなるが、これしか手はなかろう。くくっ。我輩の王国は逆境で強くなるようだな。



  ○  ○  ○



 まず執り行ったのは特別役職枠の返上。「王級交渉人」の見積もりに合わせたら、特別役職枠が全て必要であった。故にスキル『王命』で無理矢理に返上させる。


 先ずは今回の謁見で関わった貴族。今回の権利を我輩に移すことで自分の身が安全になる。この情報を一切口にはできない「王級公証人」による拘束があるため、無理にでも破れば奴隷落ちじゃ。我輩とてリスクを背負うのだ。背負え。


 次に遠くの領地から返上させる。『王命』により問答無用で接収出来るのだが、何も(とが)のない貴族からの接収は我輩への負担が大きい。これは爵位も影響がある。急がぬと思いつつ無理は出来ぬ。


 周囲が騒がしくなってきたが、病床に伏していると言い面会は受け付けぬ。代わりに第二王子が取り仕切っておる。あやつも聡い。どうとでも言いくるめようぞ。


 王都在住の貴族からも特別役職枠を『王命』で接収する。暴動になる前に第二王子が動いた。世代交代だと謳い、近々、王都を挙げての盛大な催しをすると。ちと早い気がするが、間に合うじゃろう。



  ○  ○  ○



「国王様、これにて契約を履行します」


「うむ。実行せよ」


「はっ。『王級公証契約』」


 この契約は王とて無理には反故できぬ。故に絶対じゃ。第二王子の「王子」以外は全て特別役職枠を消費したが、契約は成立した。


 契約内容は我輩の持つ全ての特別役職枠を、バグ職転職手段の情報の対価に充てること。これで国庫を削ることなく情報が我輩のものへとなる。


 ここには落とし穴がある。対価を無断で売却や譲渡は出来ぬが、奪われるのは契約外じゃ。そう記した。そうじゃ、第二王子が王権を奪うのじゃよ。聡いフォンベルズはしっかりと理解しておる。


 我輩は何ら関与しておらぬ。


 この契約の譲渡には当てはまらんのじゃ。王権の奪取は祭事じゃ。国を挙げた祭りが必要じゃ。それを見越して第二王子フォンベルズは動いておる。さすが、亡き兄の参謀へと育てた甲斐があるというものじゃ。



  ○  ○  ○



 全てが整った。後は祭りを待つだけじゃ。知らぬ契約とはいえ「王級公証人」の仕上げた契約じゃ。不履行なぞありはせん。


 我輩は王位を失うが、裏でバグ職による有益な国政に携わる。隠居には早いのでな。フォンベルズには人形になってもらおうぞ。


 くく。笑いが止まらん。かの者は知らずに無意味になる契約で、膨大な富を生む情報を手放すのじゃ。後はゆるゆると、かの者から搾取すれば良いだけじゃの。密偵の情報では二文字職も三文字職も複数あるとの情報である。


 しかもかの者は強い。三文字職であるのに六文字職すら無傷で倒したそうだ。詳細は聞けぬ。これすら対価を奪われかねん。故に、ゆっくりと搾取するのだ。


 かの者も嬉しいじゃろう。一つ話せば金が腐るほど入るのじゃからな。互いに善き取引相手になるじゃろう。



  ○  ○  ○



 この夕方の謁見が最後になるだろうの。


「父上、いや国王陛下。これ以上の狼藉は許せませぬ。無辜(むこ)の貴族からの特別役職枠の強制搾取。言い逃れさせませぬ」


「……ならば、どうする?」


「三日後に控えた式典にて、私が王になります! もう、父上の王国ではありません!」


「我輩には欲するものがある。奪えるなら奪ってみよ! 臣民に問うが良いぞ! どちらが王に相応しいかを!」


「……父上。もう貴族も臣民も心は離れております故、虚勢にしか聞こえませぬ」


 我が息子ながら何も情報もなく、我輩のシナリオ通りに動いてくれたの。この芝居で控えている貴族もフォンベルズに付くじゃろう。何せ、我輩は貴族枠を奪い、第二王子が王に成れば貴族枠を配るのだからな。


「我輩はこの手にて、更なる王国の発展を……!? ……ぐふっ!」


「父上? ちちうえー! メディーック!」


 何じゃ? 口が動かんぞ。……くっ! 契約が成立しただと? 我輩の、我輩の「国王陛下」が奪われた! クソが! もう少しで全てを奪えたのに……しまった! 私が奴隷にだと!? しかも反逆の意を……体も動かんぞ。


 これは、最愛の息子とお……な…………じ………………。


「ちちうえー!」

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