072
帰る前に転職神殿へ向かわせる。
薬師男衆は全員が三文字職の「心技体」だ。経験値が勿体無いのと、アイテムボックスが三つ増えるのと、ステータス向上。色々と体調は良くないのが多い。二文字二重職で休ませたいな。
戦闘メイドは前衛組と中衛組に「戦術」、後衛組に「強術」。なるべく無駄を無くしたい。前衛には「剣姫」と「村正」、中衛には「戦術」と「剤治」、後衛には「強術」と「術射」の予定だ。
なお、休みの日は「強癒」だ。早く休みを与えたい。
「お待ちしてました。610匹で9150ルークです」
「ありがとう。ああ、今日は一層の探索が出来なかった。近い内に網羅する予定だ」
「畏まりました。あと、お預かりした鎧ですが、一時金の一部は支払えそうです。ですが、予想金額の見積りが取れていません。もうしばらくお待ち下さい」
「分かった。ありがとう」
帰る。
○ ○ ○
戦闘メイドの一部は屋敷へ出張。洗濯の指導らしい。Tシャツは一晩で乾くから毎日洗えという指導だ。あと、お湯の方が何かと体にも洗濯にも優しいので火属性剣とフライパンを持っていった。あの手のものは戦闘メイドの管理にしている。
こっちでは掃除に洗濯。同じだな。俺だけ暇。という訳で装備を作る。
順番に、ゴブリン素材から。こん棒があったのでマジックスタッフを二本追加。ソードもロングソードを一本追加。油断すると貯まってるな。最近はフライパンが普及し始めたのでロングソードは水属性だ。
コボルト素材は、片手斧と片手杖は今回なし。念願の片手剣から太刀を作る。これで小太刀二刀流だ。黒属性にした以外は、属性増加と攻撃力増加と耐久力増加という同じオプション。これでますます火力が上がる。
片手剣が余った。ゴブリン素材の片手剣が計16本。どうも戦闘メイドに二刀流が合わない。エフェロナが特殊なのだろうか? 相談してツーハンドソードを検討しよう。
最後にグリーブ。これは戦闘メイド用だ。ダメージ軽減のオプションがついた、紐で縛るヒール付きブーツを作成。奥さん達も気に入っているので問題ないだろう。
ちょうど出張組も帰宅していたので、配った。
「「「きゃー♪」」」
ご満足を頂けたようです。「もう一生脱がない!」いや、脱いでくれ。「ピンヒールって憧れよね」催促しない。ピンヒールでダンジョンとかどうなのよ! 「もう抱かれよう」不穏な空気になったので撤収!
「ご主人様ぁ。浮気は寂しいので駄目ですよ」
「しないって。お風呂じゃ、あ、止めっ!」
フィーリアが俺を弄ぶ。お風呂じゃちゃんと寸止めされた。察して、エフェロナが参戦。寝室で暴発寸前まで弄られ。
「「うふっ♡」」
理性が吹っ飛んだ。あー、またエフェロナに優しく出来ない。どうもストレスがヤヴァイ。分かっているが、焦っている。俺15歳。物々には経験が必要なのだ。人を使うって大変なんだよ。
「ご主人様ぁ♡ 激しっ♡」
「若いわぁ♡」
誰にも向けないはずの鬱憤が、ここで爆発した。
○ ○ ○
朝、になってた。だいぶん遅い。
「ごしゅじんさまぁ~、えへへ~♪」
フィーリアは寝てる。エフェロナは居ない。完全に寝過ごしたな。フィーリアを起こして、一緒に移動。フィーリアは久々に腰にきたようだ。
「ご主人様。おはようございます」
「おう、坊主。盛んじゃの」
ロザンナのみ。おっさんと話してたようだ。他の気配がないから、みんなは何処か行ったのかな?
「一層の探索です。はい、ちゃんと無理をしない様に忠告しています。ミーディイにエフェロナが居ますので無理はしないですよ。サロワナも弁えています」
「済まん。不甲斐ない」
「ご主人様は施す方が多すぎますよ。あと、作りすぎた調味料は冒険者ギルドの職員が濃縮ポーションと一緒に持って帰ってます。ギルドの酒場で試すそうで、評価が良ければ塩も追加するそうです」
「ああ、助かるよ。そう考えてた」
「おお、今朝の味噌のスープ。旨かったぞ! ありゃ売れるぞ!」
おっさんにも高評価。理想は出汁が欲しいが、海鮮系の食材はお目にかかったことがない。獣の骨でも出汁取れるかな? あっ、豚骨ラーメンってのがあるんだ。作れないことは無さそう。
「ご主人様? 思考が飛んでませんか?」
「お、おう。次は獣の足の骨が欲しいな。太いやつ」
「意味わかりませんよ。……美味しいのですか?」
「何事も検証」
豚骨ラーメンの特番は見た記憶がある。行けるはず。多分。一回茹でたら臭みが減る、再び長時間煮込む、その程度の知識しかないがな。
「さて、準備して出るか」
「休まれては如何ですか?」
「休むのはもう少し先だよ。せめて、二文字二重職に就いたらだな。その時にみんなで休む」
「……分かりました。朝食を用意しますのでお風呂どうぞ」
久々に自分で湯を沸かせたな。飯も旨い。味噌汁は……若干豚汁寄りだ。これはこれでいい。美味しい。お供の豆腐が憎いね。美味しい。
○ ○ ○
到着したら暑苦しい議論が行われていた。薬師男衆が「塩の量は……」とか「香草はこれを……」とか「豆はもう少し……」とか、議論が深い。もうプロっぽい。下手に突っ込めない。
「あっ! みんな、親方っすよ!」
「「「親方! おはようございまっす!」」」
薬師男衆の呼び方は親方で定着したようだ。88人の共通認識を修正する気力はない。暑苦しいしな。
「ああ、おはよう。熱心で助かるよ」
「「「ありがとうございまっす!」」」
「作業続けて。俺が見て回るよ」
戦闘メイドは11人残っている。パーティに奥さん達で探索しているようだ。フライパンは七つ。簡潔な説明を求めたが、暑苦しい。意欲がものすごく暑い。
「楽しいっすよ! 今まで結果のない下拵えで終わってましたからね」
確かに達成感はあるよな。自分の工夫で結果が変わる。成功したときの喜びは大きいだろう。任せても大丈夫だ。下手な仕事はしまい。
大きく三つに別れる。
香草班は、いかに廃液を出さないか。と、薬草の効率的な配分。ここが一番薬効ポーションに力を注いでいる。フライパンも三つだしな。回転も早い。
野菜班は、上品質なウスターソースを目指している。未だに中品質で止まっているようだ。果物を入れたら、とアドバイスしたいが、果物が高いんだよ。中品質の安定化で我慢してほしい。
豆班は、無意味に豆腐を狙っている。いや、好きだよ。健康的だし。一番煮るのに時間を要するので施行回数が少ない。あと、軌道修正。麦を入れて味噌の上品質を狙ってくれと頼む。豆腐は日持ちしないからな。
「終わったか?」
「あれ? 帰ってた?」
サロワナの一声で周りを見れば、疲れてるパーティ一つ分が休んでる。奥さん達は元気なもんだ。
「奥まで行ってねえのに、二つはあったぞ!」
前回は右回りに攻めた。今回は左回りに攻めたようだが、奥まで行かずとも宝部屋があったようだな。リポップのバランス悪すぎ。
「行くか。サロワナ達は「行くぞ!」……いいけど、今日の俺はこれがある。出番は無いぞ」
小太刀二刀流。今の俺ならゴブリン200が一撃じゃないだろうか。まあ、慢心はしない。あ、今日、奥に人は居ないよね?
「貸し切り。遠慮は、いらないわ」
なら、早速一発。全力で『魔力落とし』。叩きつけた勢いで黒の濁流がダンジョンの通路に沿って奔流を生み出す。うん、威力があるな。やはり範囲攻撃に乗せた方が遠くまで届くようだ。
「「「………………」」」
ん? 静かになった?
「みんな。ご主人様が帰って来たら回収するわよ! ご主人様。ササッと全フロアを駆逐してください」
「お、おう」
ロザンナの指示で駆け足でぶっ放していく。10分くらいでストップがかかり、戦闘メイドと交代。俺が拠点防衛で、皆が回収。人海戦術で大体拾えた。それを何度か繰り返して、一層網羅。
無駄に広いが、走れば10分前後でどこかの端に届く。まあ、10分も走らないと届かない距離は、戦闘する度に止まって、警戒しながら歩く、それとでは数十倍の時間差だろう。扇状に行ったり来たりして、全てを網羅。
この改装って半円なんだな。二層の入り口が近いからここまで奥が広いとは思わなかった。宝部屋は今日は放置。あと七つあるぞ。明日の楽しみだとロザンナに言われた。うん。経験値も勿体無いし、戦闘メイドがバテてる。
昼飯には遅く夕飯には少し早いが、調理を検証しながらこの日もダンジョンで食事を終えて帰還する。