007
こっちに来てから2回目のダンジョンアタック。
「あのー」
「ん?」
「その赤黒い剣は何ですか? ゴブリンが草を刈るように倒れています」
ただいまゴブリン撲殺4匹目。極限まで鍛えた木刀だ。スキル無しでも普通に強いよ。俺が殴って気絶させ、フィーリアが持ってた短剣で『妖刀刺し』して首から血を抜いて、フィーリアに耳を削がせる。
「俺の唯一の利点だからな。この程度はできるよ」
「止めにスキルを使う理由は何ですか?」
『妖刀刺し』の吸血は武器性能の向上もあるが、耐久値回復の切れ味の保持にも役立つ。新たな物の入手資金がない以上は、現状であるものを大切に使うだけだ。
「それで無駄に切れ味が良いのですね」
「フィーリアのスキル『提供』があるから俺のスキルも使い易いからな。余裕をもって倒せるよ」
「そう言って貰えると、初めて役立つ職業を手にいれたと思えますね。一生奴隷でも良いです」
フィーリアは過去、数回連続でバグ職に就いたようだ。この世界じゃバグ職はスキルなしの無価値。無数にある職業に転職してすべてバグるとは、フィーリアの体質はこの世界に厳しいな。
「しかし、余裕がある戦闘です。止めにスキルを使う必要はないのではないでしょうか?」
「ああ、金策でもあるぞ。いつかその短剣も赤に染まる。その状態で高値で売れるなら褒賞金以上のお金が手に入るだろう」
吸血効果の特徴として強化が上限に達したら赤く染まる。ゲームの時は『妖刀刺し』職人が居たほどだ。いや、結果的に二文字職に村正を付けるプレイヤーが増えて、価値が上がらなくて廃れたか。それほどに簡単な武具強化方法である。いや、耐久値の回復の方が恩恵高かったな。ゲームシステム的には1つの要素を潰しているがな。
「レベルが4になってたし、あ、フィーリアは?」
「私は奴隷レベル3です。ご主人様の所有物である奴隷の価値が上がりました」
「俺の所有物推しやめて。勘違いしちゃう」
「事実です♪」
それから散歩するように追加で4匹狩った。
○ ○ ○
「はむっ。んっ。レベルが低いと1~2時間で回復すると聞いています」
昼食タイム。定食で力を回復。必要経費で残金12ルーク。
だが、一度換金してゴブリン8匹で120ルークを手にいれたので132ルーク。追加で稼ぐより、追い出された宿を確保しないと不味いので余裕を見て昼から宿探しだ。部屋のキープは前金なので昨日の宿は予約ができてないんだよね。
「奴隷も同室可能な宿は少し高いですよ」
「フィーリアは奴隷と言わなきゃバレないだろ?」
「ご主人様をご主人様と呼べば疑われますよ?」
「ご主人様呼びは遠慮したいのにな」
「私の自由意思です! 命令します?」
無意味な命令はしないって。今でも言葉を選ばないと「お願い」じゃなく「命令」になってしまうからな。フィーリアを苦しめる気はない。こっちでの唯一の味方だぞ。ソロプレイヤーだがそれはゲームの話だ。人生ソロプレイヤーではない。
「確か、商業区が奴隷可な宿が多いと思います」
「それって同室?」
ベッド1つは辛いよ。童貞的にね。
「いえ、奴隷は外ですよ。そこなら安いかもしれません」
労働用の奴隷は数が多いので、馬小屋みたいな場所で一夜を明かすらしい。食事も別。そこなら安いと。で、奴隷入室可の宿は数名の奴隷を床で寝かせるようだ。護衛もかねている様子。その分、部屋が広くなり割高な設定になるようだ。
「んー、値段次第だが、奴隷入室可の宿だな。将来を見据えて少し広い部屋がほしい」
「夜伽ならベッドの方が良いのではないですか?」
「そっちから離れて! 三文字職業は生産系を取ろうと思う。戦闘力の向上より、収入増加だな。目指せ、安定収入!」
「まあ、時間の問題な気がしますが、生産系ですか? 私もですか?」
「ああ、バグ職にいいのがある」
「その知識、何処からでしょう? 聞くのはピロートークの時にしましょう」
暗に詮索はしないと言ってくれているが、ちょいちょい誘うな。
○ ○ ○
「ご主人様の望む宿は無いですね」
「ああ、しかしなぁ。高い宿はキープが難しい」
3件回ったが、2件は馬小屋行き、1件は一泊120ルークの高値だった。食事が出ないのに高いって。
「妥協して、あっち行きましょうよ」
「うぐっ。しかし……でも、探すのも時間の浪費か。聞くだけ聞こう」
躊躇ったのは色街方面の宿。そういう需要が許可の宿が多い。故に買った女が奴隷であっても容認されている。そう、簡単に言えばラブホや連れ込み宿だろう。
「呆気なく見つかりましたが、さっきの宿は駄目でしたか?」
「だって、隣の声が聞こえてな。思わず出てしまった」
昼からするなよ! フィーリアも寄り添ってきて、危うく卑猥な雰囲気を作りそうだったぞ。
「壁が厚い宿がいいな」
「諦めれば色々と幸せですよ♪」
路地裏に構える宿は治安が危険だとフィーリア情報で、表通りに面する宿を探す。ギリギリ色街な端っこの宿を伺う。
「ああ、奴隷もいいぞ」
愛想悪い爺さんの宿ははっきり言って古い。だが、部屋を見れば手入れは行き届いている。古さが際立っているが、悪くないな。で、相談。
「ん? うるさくない部屋だぁ? ふむ。ちと昔話を聞け」
元々は愛玩奴隷を連れたような豪商の常連宿だったらしい。時代が過ぎて客足が遠退き、2階部分を改装して連れ込み宿としたようだ。しかし、未練なのか、3階の4部屋のみ昔のように広く残している。が、結果は使われずに2部屋が倉庫に、2部屋が空いているそうだ。稀に客が入るが収益はお察し。
「普通なら150ルークは取りたいが、定宿てーなら勉強してやろう」
「いや、勉強しても手持ちは120ルークだって。ダンジョンに入るけど、俺って貧乏で物がないから出せて一泊60ルークだ」
「半値以下でも毎晩泊まりゃいいのさ。それで面倒見てやる」
「ご主人様、ここにしましょう! 仕事は丁寧ですから、これ以上の宿は見付けれませんよ」
「自由な奴隷だな。そこも気に入った! もし、儲かったら値上げ交渉してくれ」
「なんで支払いを吊り上げる交渉なんかを……でも助かる。あー、前金が一晩分しかないが、大丈夫か?」
「金の切れ目が縁の切れ目でいいぞ。ほら、303の鍵だ」
「手順逆! はい、明日の分も合わせて120ルーク」
ゴブリン撲殺の褒賞金が消えた。残り12ルーク。夜まで時間はあるし、もう数匹はいけるかな? 時間余すとフィーリアが誘ってくるし。
「まいど。あんま汚すなよ。仕事が増える」
「ご主人様は童貞です。ご安心を」
「あー、ヘタレか。いつ汚れるか待ってるぞ」
好き放題言われているが、言い返せば倍になって返ってくるな。無視無視。さて、さっきは2階の部屋を覗いたが、3階の部屋はどうだろうか?