066
合流に手間取ったが、なんとか集結。
このダンジョン、階層の広さがバランス悪い。二層は極端に狭いのに一層と三層は極端に広い。そのくせ、一層入口から二層へのアクセスは近くて容易で、結果的に一層は網羅していない。
「奥はモンスター溜まりが多くて面白かったよ」
「「「きゅ~」」」
「サロワナ、手加減しろよ。みんなの疲労が濃いぞ。二層の一掃は俺がしよう。それから休憩だ。一層はどこからともなくゴブリンが来るから落ち着かん」
「「「はーい」」」
二層は狭いので属性乗せた飽和攻撃の数回で終わった。それから試しの昼食をお願いする。後から二度目の昼食をするので用意した食材を半分使う。食器類は宿から拝借してきてたようだ。
「へー、カットしてある肉か」
「ええ。このサイズが焼きやすいわ。平たいと嬉しいけど、丸鍋ですから炒めるように焼くことにしたの」
フライパン鈍器の形状は残念ながらこれしかない。串焼き様のカット肉を香草と一緒に塩味に炒めるスタイルを採用したようだ。試したようで手際は悪くない。一回で数人前。今回は半分量を食べるため倍の人数の焼き肉が確保できた。
「テーブルとかは用意しても無駄だよな」
「離れた途端にダンジョンに吸収されるわね。それも試したわ」
地べたで調理に地べたで食事。欲は言えないな。ふむ、旨い。お腹はまだ空いていないが、おやつ程度の量だ。これで上等。俺というより、戦闘メイドに食わせるための軽食タイムだしな。
「『妖刀刺し』と『肉飾り魔術』で補強したんだね」
「そうよ。『肉飾り魔術』で補強したら焦げ付きが無いのよ。今までで一番使いやすいお鍋だわ」
コーティングフライパン。凄い物になったな。燃料は魔力の調理器具。アウトドアなら画期的だし、普段でも薪要らず。お手入れも楽チン。定期メンテナンスで一生ものっぽいな。売れるな。売らないけど。
「前衛の娘が、これで戦うか悩んでいたわ。面が広いから盾としても使えるのよ。欠点は重いことと「剣姫」のスキルが使えないことね」
「戦闘に慣れるまでは『剣姫の舞』は使えた方がいいな。戦闘訓練なしに一間でも熟練並みに動ける『剣姫の舞』は師匠要らずの鍛練になる。流石に一日程度じゃアシストなしじゃ戦えないだろ」
「無理ね。ゴブリンでも怪しいわ。フライパンを増やす理由にしたかったみたいよ」
「気に入ったのね」
「ええ、とっても」
作って良かったフライパン鈍器。そうこう話している内に食事が終わって、軽く水洗いしてる。剣を水道に手際よく濯いでいる。器も作れたら良いのにな。せめて『肉飾り魔術』でコーティングを施したい。
「鍋を食器にしましょうか? フライパンのミニチュアなら鈍器扱いにならないかしら?」
「試してみるのもいいね。取っ手があると地べたで食べるのも楽になるな。汁物も熱くなく持てそうだ」
軽く現状での改善点を洗い出して。食事終了。ロザンナとばかり話していたのはロザンナが総監督で情報をまとめていたから。フィーリアが指輪を見せろと回されていたから。フィーリアは笑顔で困っていた。
○ ○ ○
「集中攻撃で安全に狩れるか」
「『骨下拵え術』の無駄撃ちです。それに負担が大きいですよ」
「あれはないぞ、主人」
三層のホールでいい具合に数量調整してコボルトを戦闘メイドに相手させた。ステータス補正が低いのもあって手数で勝負。一匹が全身複雑骨折になるまで相当の弾数を要した。
「私達を、置いて、荷物持ち、連れていく、方がいい」
「少ない数なら私達でも安全に捌けますよ」
リポップは爆発的には増えない。湧く数やスピードにも限度があるようだ。少なくとも、このダンジョンでは今のところ無い。提案通りに荷物持ちを連れていくか。
戦闘メイドから「骨服師」と「肉魔飾」を二人ずつ。それにフィーリアとロザンナ。俺を合わせると七人で討伐することにする。
「行ってくる」
「いっぱい頼むぜ!」
戦闘は単調。俺が左手に小太刀を持ち、ストック武器で白属性の『妖刀刺し』で倒していく。それをみんなで拾っていく。フィーリアとロザンナは周囲の警戒もあるので荷物持ちの戦闘メイドが主に頑張る。
戦闘メイドが魔力切れになったら戻って交代。それの繰り返し。途中で二度目の昼食を挟み、狩り続ける。調度、戦闘メイドが一巡した頃に良い時間になった。
「やり過ぎね。みんなが死んだ目してるわ」
「いや、フライパンも服も、何もかもが足りないんだ。いいじゃないか」
「焦ってるの?」
「んー、明日は大きな仕事が待ってる。そっちの待ち人次第ですごく急ぐ、かも? 俺も状況が読めてないから分からないんだよね。こっちは大丈夫だった?」
「ああ、暇だった!」
撤収!
○ ○ ○
帰りしなに支部に寄ったら「これがアリエッタさんの言ってた事なのね」と呆れていた。褒賞金は明日の朝に貰うことにする。数えるのが大変そうだ。移動と休憩を現場で行って短縮できたから過去最高だ。
転職神殿で「強癒」に転職。明日は休みだ。戦闘メイドはやはり魔力枯渇の症状が出始める。歩けないことはないが、辛そうだ。
宿に到着。一度解散。俺はおっさんに問う。まあ、今日の朝で夕の短い時間だ。空き家なんてポンポンあるわけ……
「複数持つより、大きいの一つの方がいいじゃろ?」
手配してくれてた。聞いたら元娼婦ギルドの大きな屋敷だった。マジかよ。あれって俺が使って良いのか?
「ここは初心者冒険者が多いからの。人の動きが多いのじゃ。この街の人頭税は極端に言えば固定資産税で賄っておる。年一回の個人への人頭税徴収だと逃げるからの。このファーストは基本的に宿や店にしたら土地が高いのじゃよ」
冒険者は宿賃で税金を納めているような形になる。宿賃には宿の主が固定資産税を含めているからだ。例を挙げれば、一人部屋一泊10ルークの税金負担をさせれば年間3600ルーク程度もの固定資産税になる。それを積み重ねて宿の主は固定資産税を払うのだ。負担分配は宿の主の経営手腕となる。
「で、あそこの賃料って幾らだよ」
「宿扱いで固定資産税は年40万ルークかの。ちなみにじゃ、わしは年20万ルークを払っておるぞ」
宿と比べよう。三階建てっぽいから高さは一緒だが、横幅が倍は違う。確かに似たような倍率だな。税金だけで有り金吹っ飛ぶじゃん! 宿賃はどうしろってんだよ!
「税金を払えば、日にここと合わせて2000ルークで貸してやる」
「たっけーな。……ん? おっさんに払うのか?」
「空き家は税金負担が関係者に流れるんじゃ。連帯保証人じゃな。で、あれは色街の関連じゃよ。話がまとまらんの。誰もが使わぬ家の税金なんぞ負担しとうない。この街は今、雇用形態の見直しで金が足りんのじゃ。手を出せば高額の税金じゃから誰も借りん。で、この話を坊主が受けるならわし一人が所有者兼連帯保証人じゃな」
「リスクたっけー賭けに出てんな。税金徴収間近で逃げたらどうすんだよ」
「そりゃ、わしの目が腐っとったってことじゃな」
笑うな。裏切れねえじゃん。42万ルーク。1万ルーク毎に小分けされた小袋を42個、ドンと出す。小銭しかないんじゃ。
「一回リセットだ。今日から十日分だ。税金も足りるだろ? ゆっくり数えてくれ」
「おーおー。一括か。資金繰りは大丈夫か?」
「何とかする。器が安定しないと大胆には動けんからな。人数次第じゃ俺もあっちに移るかもしれんぞ」
「そうなりゃ、連れ込み宿に戻るだけじゃよ。あの屋敷だけなら日に1000ルークでどうだ?」
「値切りは分からん。ぼったくってても迷惑料で払うよ」
「金回りのいい奴は好きじゃの」
互いに笑いあって、俺は部屋に戻る。んー、今日中に下見しとくか。みんなの具合を見て、動くとするか。