065
道中、ずっとにやけているフィーリア。貴金属は目立つので手袋で隠すよう指示。少し不満そうだが、ずっと左手の薬指の感触を味わっている。前方見て歩け。危ない。
「仲が宜しくて怨めしいですね♪」
フィーリアがまっすぐ歩けないので手を引いたまま本部に入ったら辛辣なお出迎えを食らった。アリエッタさん、独り身?
「あんな場所で出会いがあると思うんですか? 支部を任されるのは優秀な証ですが、独り身であんな環境に置かれて、とっても寂しいですよ。責任取ってください」
「いつもの塩味で対応をお願いします。あと、何にも責任がありませんよね。無いって言って。左手が潰れそうなんです」
フィーリアの右手が渾身の破壊力で握ってくる。嫉妬魔神健在。
「もう一人くらい大丈夫でしょうに。まあ、伝言を聞いてすぐに来てくれたので許します」
「先に否定。仕事のみのドライな関係って。フィーリアも知ってるだろ。何で進展させようとするの?」
「ドライさんがおっきな仕事を成功させるからです。あの不健全な雇用契約の破棄。従者ギルドの領主代理主導の改善。この流れで従者ギルドはちょっとと言う商人の多さ。健全な雇用契約を行うならと冒険者ギルドが従者ギルドの様相です」
ああ、だからこの前まで無かった新たな列。「交渉人」と「公証人」の職員さんが死にそうな目をしてるのか。ん? おっきな仕事を成功させる? 俺が? 全容どころか入り口も全く見えないぞ。
「はい、視線はこっちに。ドライさんは、深く追求しませんが、バグ持ちに偏見がありませんよね?」
「ああ、意味あるバグ職は有能だしな。特に気にしないぞ」
「17人も戦闘メイドを抱えているので、もう数十人増えても気にしませんよね?」
「めっちゃ気にするよ! 金欠病! 明日の宿も怪しいの! 桁! 雇用の桁がおかしい!」
「その辺は解決済みなので。はい、これ」
ズシッと硬貨。なにこれ? あ、サラッと雇用人数を無視した。
「マスターの有り金全部です。回収できたのは約48万ルーク程度ですが借金返済には足りないですね。どうにか工面するように退職金の請求をさせています。もう30万ルークくらいは増えるでしょう」
「あー、そんな話があったな。で、未だにマスターなの?」
「自主退社の方が退職金の額が多いので。っと、あれはもういいんです。運転資金はありますね?」
「さっきから確定なのに疑問系で聞くのは何故? まあ、当面のお金は余裕ができたよな」
48万ルーク。1000ルークが480ある。人数教えて。
「薬師ギルドが崩壊しました。正確には真っ黒でした。バグ持ちに薬効ポーションを手作りさせて、不良品でも冒険者ギルドに卸してました。雇用形態は見事に奴隷でしたね。雇えますよね?」
「おっさんの宿っていっぱいなんだよ! 他に行く宛てねえよ! 増員不可! どうせ宿無しだろ!」
宿賃があったよ。人数、なんぼね?
「先日、色街に空き家が多数出来ました。オリバー亭の主人なら分かるでしょう。住まいはあります。雇えますよね?」
「ダンジョンの稼ぎじゃこれ以上は無理! 三文字職レベル上限でアウトだよ! それとも他に稼ぐ手段があるのか?」
俺、逃げていいんじゃね?
「只今、冒険者ギルドは薬効ポーションが不足しています。材料費は持つので売値の三割でどうですか? 雇えますよね?」
あー、はい。ポーションを作って稼げと。あの薬効ポーションって手作りだったのか。効果がある薬効ポーションを手作りできるのか。不良品も多いっぽいけど、その辺はフィーリアの二文字職「剤治」が活きる。他にも……。
「雇えそうですね。良かったです。ありがとうございました」
「完結した!? 何も言ってない!」
「聞くと私が借金を負うので言わないでください。それともフィーリアさんみたいに可愛がってくれるのですか? 指輪、欲しいですね♪」
「!? ……何故、それを?」
「フィーリアさんが左手を眺めてによによしてますよ。お互いに隠し事は苦手ですよね」
フィーリアー! 貴金属を主張するな! それ、方向は違うけど貴重品で高価らしいぞ! 愛でるなら宿でやれ!
「では、近い内によろしくお願い致します」
「なあ、ノリに乗ってやったが、本気?」
「少なくともドライさん以外に心当たりがありません」
「明日。仕事を休む予定だ。早い方がいいだろ?」
「こっちが無茶振りしたのを受けてくれましたので、ドライさんの無茶振りも受けないといけませんね。明日の朝に集めておきましょう」
面倒なことになった。
○ ○ ○
一度、宿に戻っておっさんに空き家を催促しといた。「出るのか?」と問われたが、もう少し厄介になると伝えたら、なにかを察したのか動いてくれるそうだ。俺の知らないところで情報が流れてるっぽいな。
戻ってみれば、ロザンナだけがダンジョン外で待機していた。他はダンジョン一層で狩りしながら待ってた。
「聞いた話で確証はなかったの。でもね確認したいことがあって、勝手だけど狩りを実行していたのよ」
「なんの検証?」
「同一階層であれば経験値は離れていても分配される。という内容よ。実際に一層で試した限りではね、離れて戦っていない者もレベルが上がったわ。役立つかしら?」
おー、育成楽じゃん! 奥さんの誰かを拠点防衛に置いて、俺らの少数パーティが狩ってくればいい。うーん。育成人数増えそうだし、本気で養殖育成を確立したいな。
「今日は三層で実験だな。明日は忙しくなるから、今日はなるべく育てたいんだよ。早めに合流しよう。昼飯、どう?」
「肉を焼くくらいなら大丈夫ですね。下拵えの時間とフライパンが複数あればもう少し豪勢にできますよ」
「フライパンも今日の狩り次第だな。戦闘メイドにコボルトが倒せると理想ではあるが、装備が怪しいか。一掃しても少しは湧くからな」
ダンジョンは人気の無い場所でモンスターがリポップする。ゲームの様な横湧きは無い様子。あると素材集めなんかを悠長には出来ない。しかし、リポップすれば徘徊して人を見つければ襲う。油断できないんだよね。
「試しに複数で挑んでもらったら良いでしょうね。魔法を集中させれば低レベルでも狩れると思うわ」
「俺もそう思う。が、訓練あるのみ、か」
時間が惜しいので合流っと。