061
ゾロゾロと移動。胴元っぽい男とチンピラは宿の倉庫で休ませてる。
「みんなはレクチャー受けたね。順番に転職しよう。転職終えたら俺のところに来てね」
「「「はい!」」」
今回選んだのは「剣姫」。ちょっと用事が出来たから、護身用に就いてもらう。警棒で西洋剣の縛りもクリアできた『剣姫の舞』なら素人でもアシストで動けるからな。
外で渡すのも変だが、警棒(杖)と1000ルークを渡す。俺は前払いだ。現状で皆には金がないんだから渡しておくよ。
「これで服や小物が買えます」
聞けば、この契約の生活の保証とは住居を指すようだ。食費と生活雑貨は給与で賄うらしい。奴隷とは違うらしい。仕事での必要物品は主人持ちであるのであまり変わらない気もする。
「俺とフィーリアを除くメンバーは基本的に三人一組で動くように。奥さん達に意見も聞きつつ慣れて欲しいが、今日は集団行動をする。ちょっと面倒臭いお話し合いが必要でな」
「宿で留守番ですか?」
「悩んでいたが、数でも圧迫したいからみんなで行くよ。今は先ずスキル『剣姫の舞』だけしっかりと聞いておいてくれ」
「「「はい!」」」
さて、お宅訪問かな。
○ ○ ○
宿に帰ったらチンピラがうるさかった。おっさんにロープを借りて、チンピラの足に括り、戦闘メイドに引きずらせる事にする。不要なのであちらに返却だ。
胴元の男を先頭に俺が続き、奥さん達は周辺の警戒。戦闘メイドは四人で一人のチンピラを俺に続いて引きずる。市中引き回し? 色街に異色の行列が続く。
通りかけにチンピラっぽいのが進行方向に走っていく姿が目立った。まあ返り討ちして晒しているのだからな。それが使い捨てていた女に引き回しにされている。勢力のバランス崩壊が甚だしい。
「ここか?」
「……ああ、娼婦ギルドだ」
娼婦ギルドと称された大きな屋敷。色街のど真ん中だな。でっけーなぁとは思っていた建物だが、真っ黒屋敷だったのね。この男のような女を縛る胴元達と更にそれを束ねるボスがいるのだろう。
そしてわらわらと取り囲んでくるチンピラ。どこにこんだけの数が居たのやら。お客に混じると分からん。冒険者も多いから帯剣してても違和感ないしな。
「おい、決闘だ。逃げれると思うなよ」
逃げようなら半殺しで、決闘なら殺すと。
「ロザンナ」
「はい。大丈夫です」
「受けよう。開始だ」
「野郎共、かかれぇ! 「『肉皮剥ぎ魔術』」ひぎゃあぁぁーー!!」
合図と共に肉離れで戦闘継続不可にされる。ここまで滑稽だと哀れだ。ロザンナに確認したのは範囲指定。他を巻き込むのは面白くないからな。いい具合に他人は避けているから少々の誤差でも誤爆はないと踏んだ。
「さて、新人研修です。スキルを上手に使いましょう。狙うのは手足です。しっかりと、ポッキリと、身動きとれないように折りましょう。もし恨みがあるなら感情を込めて折りましょう。殺す価値はないのでそこは我慢してください。良いですか?」
「「「はーい♪」」」
ふむ、ノリがいい。早速、至る所でスキルを叫ぶ戦闘メイドと、激痛で響く汚い悲鳴が混ざり合う。こうやって『剣姫の舞』のアシスト機能を体感してもらう。本当にあつらえたかの様な的ができた。
誰もが怨嗟とも呼べる恨みをぶつけている。聞くに耐えない被害を述べながら折っていく。加減を覚えたら、いたぶるように何度も繰り返し殴って折っていく。因果応報って言うのかな?
「あれ? 奥さん達が少ない」
「裏口ですよ。ここまで圧倒したら中は逃げますよ」
「ふむ。サポート感謝だな。で、大丈夫か?」
俺の側にはフィーリアしかいなかった。服の防御力があるとはいえ、過信は禁物だ。っと、あれ? 『肉皮剥ぎ魔術』? この範囲だと屋敷の中心か? なんとまあ、動きの早い奥さん達だよ。
「大丈夫ですね。予定通りの行動です。半殺しは大丈夫ですからね」
骨折り作業が終わった頃に奥さん達も正面入り口から出てきた。
「足は折っといたよ」
「ゴブリンの方が、強い」
ミーディイ、ゴブリンの方が弱いと思うぞ。本来なら奥で用心棒っぽい手練れがいそうだけど、そんなフラグなし?
「明らかに危険な人物は『骨下拵え術』で動きを止めています。怪我するとご主人様が荒れますからね」
「配慮、ありがとう。なら、ボスっぽいのと話すか」
「いえ、撤退しましょう。兵士が来たら面倒ですよ」
「そういえば兵士って最近少ないよな」
「そうですね。何故でしょう?」
「でも確実に来ますよ。行きましょう!」
撤収。
○ ○ ○
帰りに酒屋で空き樽を買おうとしたらタダでくれた。この騒動で気分がいいそうだ。空き樽三つ、俺は運んじゃ駄目みたい。運ばせた。申し訳ない。
「そうね。手分けして掃除しましょう。貸し切りですからね」
「「「はい!」」」
「ミーディイとサロワナ、あと十人。お風呂場と脱衣所ね。ついでに協力して水を作って」
「分かった。練習もだな。主人」
ああ、サロワナのは回収したんだった。水属性と属性増加に変更したロングソードを三本渡す。もう三本は火属性に属性増加にしてる。
「フィーリアちゃんとエフェロナと私、あと九人は厨房の掃除よ。年期の入った汚れだからしっかりと掃除するわよ」
「水が、冷たい。ご主人様」
ふむ。掃除くらいなら井戸も枯れまい。火属性のロングソードを三本渡す。不要な数だが、魔力調整の練習も兼ねるのだろう。
「あれ? 俺は?」
「ご指名でもして楽しんだらいいですよ♪」
ザワッ!
「いや、いい。大人しくおっさんと話でもしてるよ」
しゅん。
危ない。亀裂が生まれる。奥さん達を指名すれば良いのだけどね。
今日は外が騒がしいので夕食抜きっぽい。空いた時間に宿に貢献するそうだ。
「作業開始」
「「「はい!」」」
○ ○ ○
「おっさん」
「何だ?」
「やり過ぎたかな?」
「いや、いいお灸だ。最近のここの女は目が死んでるやつが多かった。当分は荒れるだろうが、絶対の支配者が消えるんだ。商売ってのは競争があるから楽しいんだよ。女も自分のために躍起になるさ。生き残るためじゃなくて、その先の幸せを求めてな」
おー、年期の入ったおっさんの言葉は違うな。長年ここで宿屋してねえな。ってか、おっさんはいつ情報を掴んでんだ? 客の出入りを俺が止めてるから外の情報ねぇだろ。
「ふん。あっちには属してねえが、繋がりってのはあるんだよ。この街から相当な働き手の流動があることも知ってるさ。なあ、坊主」
「冒険者ギルドも頑張ったよなー」
「まあ、そうだな。そうとしとくさ」
バレてーら。おっさんを倒すのは骨が折れそうだ。まあ、いいおっさんだ。倒し方はしあわせパンチにしよう。わざと入浴時間を被らせたりな。
「んなっ!? 生殺しにするな! まだ現役でイケるぞ!」
「そのくせ、下着姿に卒倒してんじゃん」
「坊主が貸与してる下着は破壊力がありすぎる。魅力が際立ってたぞ。……また、拝んでいいのか?」
「んー、強要じゃなきゃな。あと偶然なら」
「見回りしようかの?」
おっさん、知ってると伝えてくれたが、知らないフリを貫くみたいだ。下着の貸与なんて普通しないって。いい宿に、いいおっさんだ。
「ご主人様、お風呂です」
「ああ。またな、おっさん」
「混浴、いいのう」
「現役なら口説いていいぞ。振り向いてもらえるといいな」
「ぬぐっ」
さて、休むとするかな。お腹減ったが今日は我慢。スッキリして早く寝よ。